流川冬馬〜心霊ファイル3〜

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2. スイッチが入る時


 大学図書館はとても膨大な蔵書を誇り、一階にメディア観覧室、二階に蔵書、雑誌書架観覧室があり、三階には更に専門書を含む書架室と観覧室があった。
その日、冬馬は三階の観覧席で、レポートを作成していた。
ふと時計を見ると、夕闇が迫る午後七時前で、辺りには誰も居なかった。
閉館を告げるアナウンスが鳴る。
「やべぇ」
 慌てて机の上を片付け始めて気が付いた。
ひとつ席を挟んだ横に、もうひとり学生が居たはずだったが、さっきから戻って来ない。
荷物も机の上のノートパソコンもそのままで、電源は入ったままだった。
書棚に凭れて読み耽る輩もいるから、さほど気にも留めずに冬馬は席を立ち、持ってきていた本を棚に戻しに向かった。
 でも物騒だな、バッグは椅子にそのまま置いてあるし、現金が入っていたら盗まれるぞ、なんて心配をしながら歩いていると、案の定、その彼らしき人物が書棚を背にし、床に腰を下ろして胡座《あぐら》をかいた足の上に、本を開いて読み耽《ふけ》っていた。
耳にはイアホンのコードが見える。
素通りするつもりだったが、冬馬は閉館のアナウンスが聞こえなかったのかと、親切心が仇《あだ》になるような、大袈裟な溜息を付くと、彼に近寄り肩に触れた。
「君・・・」 
その時、思いも寄らぬ”スイッチ”が入った。

”突然、背中の激痛、一度、二度、三度・・・。自分の胸を見下ろすと赤い染みがじわじわと広がってゆく、触れた指の鮮血、”

「うわーっ」
冬馬が思わず声を出し飛び退いたと同時に、ゆっくりと彼の身体が傾いて、どす黒い血の海に横たわった。




「やぁ〜、元気だったかい?」
新米刑事、内藤始が手を挙げて冬馬に挨拶をすると、ベテランの河合警部補に窘《たしな》められた。
「不謹慎だぞっ、」
「あ、すみません、つい・・・」
内藤は頭に手を充て、苦笑いした。
「まったく、お前ら兄弟にはつくづく縁があるよな、弟は警視庁の極秘資料を覗き見るようなハッカーだし、お前さんの行く所にはいつも死体が転っているしなぁ」
五十歳になったばかりの警部補は、顔を顰《しか》めて冬馬を見た。
 実際、その通りなのだから、冬馬は内藤と顔を見合わせると、苦笑するしか無かった。
いつの間にか現われたマスコミや、記者がごった返す中、遺体が運ばれて行く。
一斉にTVのライトが灯り、無数のフラッシュが焚かれた。
魂が離れようとしていた間際の、まだ暖かかった彼の肩の感触が生々しい、その触れた手の平を冬馬はじっと見ていた。
 さっきまで普通に生活していて、鼓動を続けていた命と言うものが、いとも容易く消滅するのだと思うと、何だかやり切れなかった。

少し落ち着くと、胸の痛みは和らいだが、口の中で血の味がして、そのイメージを振り払おうと、冬馬は頭を上げて頬を軽く叩いた。
辺りは黄色いテープで囲まれていて、まだ学内にいた生徒たちが、外から物珍しそうに見ている。
「で、さっき彼の肩に触れたら、彼が倒れたって言ってたけど、何か見えたかい?」
以前から、冬馬の能力に否定的な警部に聞かれない様、内藤が耳元でこっそり囁いた。
「何も、彼は背中から刺されたんでしょ?何も見てないみたいですよ」
「そうか・・・」
内藤が残念そうに呟いた。
「あそこの書棚は空洞になっていて、後ろからこっそりやって来て、本を両側に寄せるか抜き取るかして、ナイフか何か鋭利な刃物で心臓を目掛けて突き刺ししてるんだ。刺し傷は三回、ま、司法解剖してみないと詳しいことは解らないけどな」
「殺人事件ですね・・・」
「そう言うことだな、君、彼と面識は?」
「全然、今日偶然隣同士で勉強していただけで、さっきも言った通り、彼はイアホンしていたから、聞こえなかったんじゃないいかと思って、閉館を知らせようと肩に触れただけです」
「怪しい人物とかは?見かけなかったかい?」
「まったく。僕ずっとレポート書いてましたし、それに図書館は観覧は自由だから誰が来ても不思議ではないんです、一階には自動貸出返却装置があるだけですから、変な奴が入って来ても気に留める人も居ないと思いますし、監視カメラもないですよ」
そして冬馬は、『後は警察の仕事だから、もう僕を解放して下さい』と、心の中で付け加えた。
 何だか気分が悪いのだ。
悪い兆候だ。
「具合悪そうだな、警部そろそろ彼を帰してあげても?・・・」
気を効かせて内藤が言った。
「そうだな、今日のところは」
「冬馬、送って行こうか?」
冬馬の顔を覗きながら内藤は言った。
「大丈夫です、ひとりで帰れますから」
 ふたりに別れを告げて、KEEP OUTの黄色いテープを潜《くぐ》って外に出た冬馬は、電車に乗ろうと国道をとぼとぼ歩いていた。
 でも、どうにも具合が悪く。
ガードレールに寄りかかると、そこにしゃがみ込んでしまった。
 どうしよう、海羅を呼ぼうか・・・・。
国道の向こう側に、蒼白い光がぼんやりと浮かび始めた。
まずい。
携帯と睨めっこしていると、テレパシーが通じたのかその本人から、丁度タイミング良く電話が掛かってきた。
「冬馬、TV見て!今、うちの大学で殺人があったってニュースでやってるの、知ってた?」
テレパシーじゃ無いや・・・。
「ああ、・・・」
「何だ知ってたの?今どこ?」
「大学、」
「ああ、だからか・・・、凄いでしょうね、今そっちは」
「・・・海羅・・・、迎えに来てくれないか?」
始めて聞く冬馬の懇願に、海羅は少し驚いた。
余程の事が無い限り、そんな事言わない筈だからだ。
「どうしたの?」
「頼むよ・・・国道に居るから・・・」



 縁石に腰掛けて、膝の上に置いた腕で顔を隠した冬馬は、反対車線からこちらを見ている”彼”に、気が付かない振りをした。
『僕には何もできないから』と、心で何十回、何百回、唱えたか知れない。
 でも、”彼”は何かを訴え掛けるように、じっと冬馬を見ていた。殺人事件ともなるとそうだよな・・・と、思いそうになる心情をかき消す様に頭を振った。
「こんな所にいたんだ」
急ブレーキの音がしたかと思うと、窓ガラスが開いて海羅の声がした。
「遅い!」
そう言いながら、慌てて機敏な動作で車に乗り込む冬馬を見て、海羅は少し安心した。
「なんだ、元気そうじゃない、何かあったのかと・・・」
「早く、出して!」
「何よ!」
幽霊相手に慌ててもしょうが無いのだが、そうせずには居られなかった。
 一刻も早くこの場所を去りたかったのだ。
 

しかし、数分後。
「止めて、」
いきなり冬馬が叫んだので、驚いた海羅は急ブレーキを踏んだ。
「何よもう、驚くじゃな・・・」
冬馬は車が止ったか止らないかのうちにドアを開け、外に飛び出して行った。
 そして、歩道の隅で吐いていた。
「やっぱ具合悪かったんだ・・・」
車から降りてきた海羅は、自販機を見付けて水を買ってきた。
「この前のお返しね、」と、笑う。
でも、冬馬は何も食べて無かったので、胃液が出てきただけだった。
 吐く物が無いのは結構苦しくて、再び縁石にしゃがみ込むと、ペットボトルの蓋を開け、水を口に含んで何度かうがいを繰り返し、その後で冷たい水を喉に流し込むと、心地よく胃の中に転がって行った。
「あなたまさか・・・」
この症状は、もしやと思って海羅は尋ねた。
「その、まさかだよ・・・」
海羅は天を仰いだ。
再び事件に首を突っ込むのでは無いかと、心配したからである。
「顔色が悪いわ、帰ろう。車に乗って」
静かにそう言う海羅に、冬馬は素直に従った。
 そして、車のシートに深くもたれ掛かって目を閉じた。
とにかく横になって休みたかったのだ・・・。
しかし、再び目を開けた時、止まった場所に驚いて悪態を付いた。
「どうして、ここなんだよ」
高野家のガレージが閉る音がして、冬馬は目が覚めた。
「眠ってるあなたが悪いのよ、面倒だから家に連れてきちゃった」
悪びれず、助手席から出るよう催促されて、仕方なく車から降りる。
 海羅は戸惑う冬馬に気遣う振りもせず、居間へと続く通路を歩いて行った。
その壁には、冬馬が小学生の時、母の日に書いた似顔絵の額縁を、まだ掛けてあって懐かしかった。
小さな飾り棚には、海で拾ってきた貝殻が並べてある。
ノスタルジーに、胸が締め付けられそうになる。
「おやおや、珍しい人が帰って来たわね、」
仕事でもしていたのか、眼鏡を鼻の頭にずらしたまま、高野舞《まい》がキッチンからマグカップを持って現れた。
「こんばんは、母さん」
「こんばんは?何そのよそよそしい会話、ハグしてくれないの?冬馬」
母親はカップをテーーブルに置くと両手を広げて、冬馬が胸に飛び込んで来るのを待っていた。
「冗談、外人じゃあるまいし」
鼻で笑って拒否すると、母親の方から抱きついて来た。
「あー、暫く見ないうちに、私の冬馬はこんなに大きくなっちゃって、」
きつく抱かれた冬馬は、この年代の人はどうしてこういう言い方をするのだろうかと考えていた。確か母親と最後に会ったのは一週間前だったと思うが・・・。
「お帰り冬馬、」
気配に気が付いたのか、嬉しそうに連が冬馬の部屋から出て来た。
「お布団用意してあるよ、母さん乾燥機の仕方も知らないんだぜ、信じられる?」
「この年が来ると、説明書を読むのが億劫《おっくう》なだけよ、」
「説明書なんか読まなくても、普通、乾燥機ぐらい使えるだろ、」
敏腕弁護士対十三歳ハッカー少年の対決は、ハッカーに軍配が上がりそうだった。
 最初からここに連れて来るつもりだったのかと、海羅を睨んでも気にも留めずに、シャワーでも浴びろとバスタオルを投げて寄越した。
 ほぼ五年ぶりの我が家だと言うのに、相変わらずこの家族はへんてこで、でもそれ故に、何事も無かったように、すんなりと受け入れられるのかな?とか、思いながら冬馬がシャツを脱いだとき、カチャとドアが開いて海羅が現れた。
「な、なんだよ、」
驚いた。
「女の子じゃあるまいし、そんなに驚かなくったって」
くっくっくっ、と笑っている。
「連と同じ反応だから可笑しい」
態《わざ》とかよ!
「磨りガラスだから、下を履いているのは見えるのよ、あなただって知ってるでしょう、」
まだ笑ってる。ムカツク。
「なんだよ、何か用?」
「ああ、忘れてた。これ着替え」
真新しい部屋着と下着を手渡された。広げて見るとサイズも丁度良さそうだ。
「どうして?」
「ママは忙しいでしょ。連の服とか下着とかも私が買ってるのよ、こんな日の為に、あなたが何時泊まって行ってもいいように、買い揃えてあったの」
「まったく、あんたには負けるよ。こうと決めたら必ずやり通す。とうとう、泊まるハメにになっちゃったじゃないか・・・」
『高野とは縁が切れたんだから、行ってはいけない』との、父との誓いを破る羽目になるとは・・・。
しかも、こんな風に唐突に。
「そう言う自分こそ、やめてよね霊と対話するの、必ず危険な目に合うんだから・・・」
「ごめん・・・」
「あれ?凹《へこ》んじゃった?」
「悪いと思ってるから、いつも危険な目に合わせて・・・」
「私は、あなたの心配しているの、そうやって具合悪そうにしていると私責任感じちゃうじゃない、しかも、私にはどうすることもできないし・・・」
”海羅にはどうすることもできない”って、前に具合が悪いとき放ってしまった言葉を、まだ気にしていたのかと思うと、少し意外だったし、気まずかった。
「僕は大丈夫、それより出てってくれないか?いつまで裸見てるんだよ、」
「誰が弟の裸見て喜ぶのよ、」
そう言って海羅は冬馬のお腹にパンチを入れて、俯《うつむ》く冬馬をその場に残して立ち去った。
「痛いなぁ・・・」
具合が悪いって言ってるのに、命に別状が無い限り痛めつけるつもりだと思うと、可笑しくて笑ってしまった。

 当然だと言えば当然だが、昔、家族で海に行ったときに貝殻で作った置き時計が、棚の一番上に置いたままだった。
部屋を残してくれてあるくらいだから、冬馬の私物もそっくりそのまま、ここの主を失った日から、変わらずにそこにあったのだろう。
思い出が詰まりすぎた時計をここに残していったのは、楽しかった過去を振り返る日がきっとやって来て、それを見るのが辛いからだった。
そんな事をうつらうつら考えていたら、隣の連の部屋から、大きな物音がして冬馬は飛び起きた。
「なんだよ!」
電気を付けて連の部屋を覗くと、泥棒が入ったかと思える程に乱雑な、部屋の真ん中あたりから、荷物をかき分け連が立ち上がった。
「痛てててて・・・」
肘を押えながら、顔を顰《しか》めている。
「おまえ何だよ、この部屋」
あまりの汚さに冬馬はそう言って、絶句した。
部屋を埋め尽くすようなCD&DVD、そして雑誌、食べかけの菓子袋など、足の踏み場も無いほど散乱している。
「冬馬が来るって私が言ったものだから、あなたの部屋に押し込んであった荷物を慌てて引き取ったのよね、いい加減一杯なのに、更に乱雑になって、よくニュースでやってるでしょう?ゴミ屋敷、あれと同じレベルの部屋なのよ」
入り口に現れた海羅が、愛想を尽かしたように言った。
「トイレに行こうと思ったんだよ、そしたら荷物のこと忘れてて」
「ゴミの山が崩れたか・・・」
「失敬な、宝の山と言ってくれよ、」
「どこがよ、」
海羅が突っ込む。
退屈しない家だなぁ・・・。
「まったく、夜中に人騒がせな奴でしょう?」
「母さんは?あんな大きな音がしても起きて来ないけど?」
「ママはね、家に居るときは耳栓して寝てるの、この子がこの調子でしょ、煩《うるさ》くて眠れないんですって、」
嫌みに構《かま》ってられなくなった連は、慌ててトイレに駆け込んだ。
「今度来るときまでに、あなたにも耳栓用意しておくわ、もう寝なさい。今日は大変な一日だったわね」
そう言うと、大あくびをしながら海羅は自分の部屋へ戻って行った。
 確かに、それから暫く隣の部屋はゴソゴソ音がしていたが、軈《やが》て物音ひとつしなくなった。

 
翌朝、冬馬が昨日と同じ服を来て、廊下に出て来たら、自分の早から出て来た海羅とはち合わせした。
纏め髪にきちんと化粧をして、初夏の空色をしたシャツを着た姿は、清楚で品良く見える。
喋りさえしなければ・・・と、冬馬は思った。
「どうして同じ服を着てるの?」
「どうしてって、着替え持って無いし」
ため息をついて、海羅は冬馬を睨んだ。
「クローゼット見なかったの?」
答えを聞く様子もなく、海羅は指で付いて来いと合図をした。
 冬馬の部屋に戻って、海羅が勢いよくクローゼットを開けると、そこにはなんとぎっしり詰まった服がハンガーに吊されていた。
「誰の?」
「あなたのでしょうが?」
「えーっ?」
今の季節に丁度合いそうな、淡いプリント柄のシャツや、綿シャツ、どこかのブランドTシャツと、よくもここまで揃えたと感心するくらいに、ずらりと並んでいた。
パンツからおまけにジーンズまである。
「サイズは?」
「この前、着替え貸して貰ったでしょう?あのサイズでいいのよね?着てごらんなさいよ」
一番地味そうなシャツを手にしようとしたら、横から海羅が薄い紫色のチェックシャツと、ヘザーグレーのパンツを無造作に取って寄越した。
「早く着替えてね、ここからそのままま大学に行くから、クラブの方には寄らないわよ」
そう言う風に狡猾に、有無を言わさず先にダイニングへと向うのだった。
「普通、良く眠れた?とか聞くんじゃないのか?服のダメ出しかよ」
いつ帰ってくるかも知れぬこの部屋の主の為に、ここまで揃えるか?
 亡くなった祖父の財産分与の金額が、目の眩むような額であった事や、例え地方だとしても母が腕利きの弁護士で、高額の年収取りだと言う事は、価値観の違いを実感させられる。
羨むつもりは無いが、それ故に、自分がこの家族を心配しなくても良いんだと思えるような、少し醒めた目線でいられるし、何より安心できるのも事実であった。


 冬馬がテーブルに付いた時には、母親も連も身支度を調えて朝食を取っていた。
「おはよう、先に食べてたわ」
舞は新聞の一面から顔を上げて、冬馬に微笑んだ。
「おはよう」
挨拶を交しながらも、五年ぶりにみんなと囲む食卓は、何だか照れくさい。
「出てるわよ、あんた達の大学での殺人事件、犯人はまだ分からないそうよ、全国ニュースでもやってるわよ」
連がトーストを囓りながら、TVのチャンネルを次々変えて、そのニュースを追っかけていた。
「あ、今、内藤刑事が写っていたよ、」
「管轄だからね、河合警部もどこかにいると思うよ」
その時、キッチンから朝食を持ってきた、年の頃六十過ぎの遠藤道子が冬馬を見付けて声をあげた。
「まあ、冬馬坊ちゃん、元気でした?すっかり大きくなっちゃって、たまには顔を見せに来てくださいな、」
高野家で祖父の代から使えてくれている彼女は、近所に住んでいて、朝は六時から午後四時までの間、テキパキ家事をこなしてくれていた。
 彼女が居なければこの家の一切合《いっさいがっさい》切、機能を失うと言っても過言ではない。
「道子さんも元気そうで何よりだね、」
「冬馬坊ちゃんだけですよ、そんな優しい言葉掛けてくれるのは、連坊ちゃんとくれば私のことは”クソババア”呼ばわりなんですから、」
「だって、道子さん煩《うるさ》いんだもん、”手を洗え”だの、”部屋を片づけろ”だの・・・」
「当たり前の事でしょう?もっとビシバシ叱って頂戴、道子さん」
そう言って舞が新聞を丸めて、連の頭にカツを一発入れる。
「そんな汚い食べ方は止しなさいと、何度言ったらわかるの?」
連は目玉焼きが隠れるほどにケチャプを塗りたくり、フォークでぐちゃぐちゃかき混ぜていた。
 どう見ても、態とやっているとしか思えない。
 海羅は小馬鹿にしたように、連を見て変な顔をした。
「うっせぇ、ブス!」
「ブス?チビに言われたくないわよね、クソチビ、」
「クソブス!」
ムキになりながら、さっきからかき混ぜていた目玉焼きをスプーンで掬って、海羅の皿に放るとケチャップがテーブルに散ったので、海羅が悲鳴を上げた。
 そう言えば、二年前からそんなに身長が伸びてない。
多分、連が一番気にしている事なんだろう、海羅は人の弱みを見付けるのが上手い。
「クソチビ、これでも飲んで身長伸ばしなさい」
オレンジジュースに、コーヒーを注いだ。
 そして、そのグラスを再び連がコーヒーカップに移そうとした所で、母親のカミナリが落ちた。
「二人とも、いい加減になさい!」
取っ組み合い寸前の、二人の手が止まった。
「だから呆れて、冬馬も帰って来ないのよ、」
静かにコーヒーを飲んでいた冬馬に、姉弟の視線が集まったので、新聞に再び目を落とした母親を尻目に、冬馬は黙ったまま肩を賺して見せた。
 







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