流川冬馬〜心霊ファイル3〜

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13. 高野三姉弟見参!



 いつものようにカフェテリアに入って行くと、窓際の席に三郎を見付けた冬馬は、その前の席にトレイを置いた。
「痣は殆ど治ったみたいだね」
「はい・・・なんとか」
冬馬が前に座った事で、三郎は少し驚いているようだった。
「あの・・・それより、海羅さんのメールのストーカーは、誰だか分ったんですか?」
「全然、僕も色々あって、それどころじゃ無くて・・・」
その時、席を探してうろうろしている光と茉莉果が目に入り、彼らに向かって冬馬は手を振った。
「それどころって・・・、海羅さんが心配じゃないんですか?」
「あ、そうだよね・・・そうだ、」
真顔で真剣に突っ込まれて、たじろぐ冬馬だった。
「流川、昨日、休んでた?会わなかったけど、」
椅子に座りながら光が尋ねた。
茉莉果も微笑んではいたが、昨日路上で抱き合っていた姉弟の、衝撃的な姿が忘れられなくて、表情はどことなく硬かった。
 冬馬は一昨日の晩に現われた幽霊の、名前を伏せた他を詳しく説明した。
三郎を含め一同が驚いて言葉を失っている所に、海羅と”その仲間たち”カオルとシナが現われた。
「冬馬、昨日は幽霊現われなかったでしょ、」
自信満々で海羅が微笑んだ。
「まあね・・・」
勝ち誇ったように笑う海羅を、止める術がない。
悔しいけどその通りなのだから。
「あれ?おまえら、何時、仲直りしたんだよ、忙しいなぁ」
カオルが三郎の横に座りながら、そう言った。
「昨日、キスして仲直りした」
一同が”えーっ”と、仰け反った。
「海羅!」
と、怒る冬馬。
「あ、でも茉莉果ちゃん心配しないで、唇の端に軽くしただけで、真ん中は空けてあるから」
海羅は悪びれず、自分の唇に指を充てて笑っている。
「き、き、姉弟でキスするんですか?」
三郎は卒倒しそうだった。
冬馬は、目を丸くしている茉莉果を見た。
「言ったでしょ、こいつ変だって、一緒にいたら身の危険を感じるんだ」
「うん、確かに海羅は変わっているからな、」
「言えてる」
カオルとシナが笑って言った。
「でも、嫌がってなかったじゃない」
唐突に海羅が口を挟んだ。
「んな、分けないだろう?驚いて微動だ出来なかったんだよ、」
シナとカオルから忍び笑いが洩れている。
狼狽える冬馬を見ているのが面白いらしい。
「見せてあげようか冬馬の寝顔、変顔もあるよ」
海羅は携帯を取り出し、写真を茉莉果に見せようとするので、奪って見てみると、本当にベッドで寝ている姿を撮っていた。
「いつ撮ったんだよ、」
「いつでも撮れるでしょ、あなたいつもふて寝してるから」
ジョグを回すと、着替え中の半裸の写真や、寝ぼけ眼の歯ブラシを咥えた写真など、出てくる出てくる。
「将来もっと冬馬が人気作家になった時、週刊誌に売るのよ。お金になりそうでしょ」
と、海羅が笑う。
 それは、きっと本気なのでマジで腹が立つ。
 頭にきた冬馬はそれらの写真を削除しようとしたが、素早く海羅に取り替えされた。
「何するのよ、」
「あんたストーカーか?もう家来るな、入れないからな」
「暗証番号換えたって、連に言って空けてもらうもの無駄よ」
「頭にくる!」
「おーーーい、もうそのあたりで止め、また大喧嘩に発展するぞ、こっちも迷惑だからな、」
きっぱりとカオルが打ち切った。
「不思議な関係よね」
茉莉果がこっそり光に言った。
「そうかな?僕も姉貴がいるけど、あんなものだよ。流石にキスはしないけどね」
「そうなの?」
「女って強いんだぜ、僕も苛められてばかりさ」
「海羅さんと冬馬くんは、空白の五年という年月を埋め合わすように、喧嘩ならぬ互いのコミュニケーションを取って、家族の絆を深めているんですよ。だからいつも頭に来るほどの喧嘩をしても、直ぐに仲直りできるでしょ、深いところで信頼し合ってるからできるんでしょう」
長谷川三郎は、冷静に言った。
単なるストーカーと思いきや、その冷静沈着で真っ当な分析を、変に納得する光と茉莉果だった。
「冬馬、今日練習に行くでしょう?迎えに来てくれる?」
「なんで?やだよ、遠回りになるじゃん、」
「冬馬君!」
三郎が、さっきの話を思い出させるように、咳をした。
「・・・わかったよ」
「じゃ、六時頃迎えに来て、」
女王様かあんたは・・・。




「やる気あんのかよ、高野姉弟!」
海羅と冬馬は『Spazio delizios 』で、呑気に夕食を取っていた。
真樹が二人の席の横に立ち、頭上から怒っている。
時計は七時半を回っているのにも関わらず、海羅は更にアイスコーヒーを注文した。
「大丈夫ですよ真樹さん、まだカオルも来てないですし、」
「あれ?そういや彼奴何してんだ?」
海羅にそう言われて、始めて気が付いたように真樹はポケットから携帯を取り出した。
 海羅のはぐらかしによって、カオルが的になる。
それがわざとだとしたら、絶妙な才能だと変に感心する冬馬だった。
真樹はカオルに電話するのかと思ったら、顔を顰めてなにやら見ていた。
「また来てる。これ見てくれよ、」
そう言って見せてくれた受信メール欄には、烏川麻衣子からの十通余りのメールが立て続けに入っていた。
「最後にするから、会ってくれって、しつこいの何の、」
「海羅のストーカーと良い勝負ですね」
冬馬が笑うと、海羅が睨んだ。
「一度、会ってちゃんと話し付けなきゃな、海羅にもしまた危害が及ぶと困るからね、」
「余程、真樹さんが好きなんですね」
「一度、前の彼女に会う用事があってさ、黙って会ってるのを見てあいつ前の彼女に何したと思う?」
「僕、知ってますよ」
その声に振り向くと、後ろで準が笑いながら立っていた。
椅子を手繰り寄せて、海羅の横に座る。
「何でおまえが知ってんだ?」
「彼女から聞いたんだ、僕は家庭教師だよ、信頼されているんだから」
と、笑った。
「元カノの誹謗中傷を書いたビラ一千枚を、大学構内にバラ撒いたんだ」
「凄い・・・」
みんなが絶句する。
「既に何の関係も無いのに、元カノも酷い迷惑だよね」
「だから、海羅にまた何かあると大変だから、一度話し合おうと思ってるよ」
「ですよ、彼女今頃海羅の人形作って、ナイフで刺してるかも」
「やめてよ準くんったら、」
海羅は笑って言ったが、準は笑っていなかった。
「マジマジ、脅かす分けじゃ無いけど、あいつ懲りて無いんだから、早く何とかしてあげないと」
急速に暗雲が立ち込めてきた。




「あれからストーカーはどうなった?」
運転しながら冬馬が聞いた。
「長谷川三郎?」
「違うよ、彼が言うのには彼はあくまでもファンだって、そうじゃ無くて、もうひとりの不気味なメールを送って来る方、」
「ああ・・・」
そう言ったっきり、海羅は黙った。
「ああ?なにその反応?」
「どうして今日、迎えに来てって頼んだと思う?」
「さあ?」
海羅は携帯を取り出し、送られて来たメールを冬馬の目の前に翳《かざ》した。
それは、夜に外から海羅の部屋を写した写真だった。
そして本文には、”僕は、いつだって君の側にいる”と書いてあった。
「何これ!どうして早く言わないんだよ、」
「言ったらどうするの?」
「練習場になんか連れて行かなかった、」
「嫌よ、家にひとりで居るのは」
「連か母さんが居るだろう?」
「連は今夜は塾だし、ママは帰って来ないって、」
「母さんには話してないのか?」
「うん、心配掛けたく無いし、それに何かあれば家にはセキュリティシステム装置があるから大丈夫だと思うし、今までそんなに大したことないと思ってたから、でも、流石に今度のメールは怖くって・・・」
神妙な顔をして前を向いている海羅の横顔に、少しばかり不安の影が過ぎっていた。
「追い打ちを掛ける分けじゃないんだけどさ、この前長谷川三郎が殴られただろう?あれって海羅の名前を語ったメールで搬入口に彼を呼び出したんだよ、すっかり舞い上がった彼はアドレスに何の疑問も持たずにやって来て、いきなり殴られたんだ。で、もしかしたら沢渡さんのタイヤが切られていたのも、ストーカーの仕業じゃないかと思うんだ」
海羅の瞳に動揺が広がる。
「ストーカーは、いつもかなり近くにいると思う」
その時、海羅の携帯にメールの着信音が鳴った。
開いた途端、はっと息を呑む。
「どうした?」
丁度、車は信号で止まり、海羅はメールが見えるよう冬馬の前に差し出した。
 一昨日の、路上で二人が抱き合っている写真だった。

”たとえ弟であろうと、路上でこんなことをしちゃダメだ、君をお仕置きしなくちゃいけないな”

 二人は顔を見合わせた。
「マズイな、これは。明日早速、内藤刑事に相談しよう」





 その夜は泊まって行く事にした冬馬だったが、海羅と居間に入って行くと、塾をサボった連がソファでポップコーンを頬張りながらDVDを観ていた。
「あれ?帰って来たの?お帰り!」
その挨拶は冬馬に対してであって、海羅に触れると逆に大目玉食らいそうなので無視って、TVに顔を戻すのだった。
海羅はそんな連を見て悪態を付いたが、お風呂に入ってくると言って居間を出て行った。
「塾は?」
「このDVD、見だしたら止まらなくなっちゃってさ・・・」
呆れ顔の兄は、ポップコーンの容器を連から奪いながら、連の横に腰掛けた。
画面は最新のCGを駆使したアメリカドラマで、今話題に上っている作品だ。
確かに、面白く無い分けがない。
「なに?」
「って、何が?」
冬馬は前を向いたまま聞き返す。
「何か言いたいことが、有るんじゃないかと思って、」
ポップコーンを頬張る兄を連は見ていた。
「僕には出来ないこともあるんだよ、おまえが海羅を守ってやらないと・・・」
「どういう事?」
訝し気な瞳を捉えるように、冬馬は横の連を見た。
そして淡々と、さっきのメールの話をした。
「すげぇ近くに居るじゃん、」
「と言うか、かなり見張ってるよね、」
「冬馬もこっちに引っ越してくれば?」
「やだよ、」
フッと鼻で笑う。
連と暮らすと、この前みたいに騒音で夜中に目が覚めて、寝不足になりかねない。
「オレ、良い子でいるからさ、」
猫なで声で、しかも上目遣いで冬馬を見て言った。
「やめろ、キモイ!」
そう言って、笑ってる連の顔を遠ざけた。
「オレひとりじゃ無理だよ、ご存じ無いかも知れませんが、まだオレ”ガキ”だもん」
「”ご存じ”だよ。だから困ってるんじゃないか、僕だって毎晩ここに泊まる分けにはいかないからね、おまえ、母さんにできるだけ帰って来て貰うように言うんだ、」
「うん、でも母さんもある意味、冬馬と一緒でここへ帰って来るの嫌がるかもね」
「どうして」
「寝不足になるって、いつも言ってる・・」
冬馬は苦笑した。
相変わらず、愉快な弟だ。


「何見てるの?」
お風呂から出てきた海羅が、グレープフルーツのジュースを持って現われた。
 そして、連を挟むようにソファに腰掛ける。
「何だよ、鬱陶しいなあ、わざわざ近くに座らなくてもいいじゃん、」
連が海羅に文句を言う。
「懐かしいね、昔よくこうやって並んでTV見てたじゃない、連はもっとチビで泣き虫だったわよね」
「チビチビ、言うな、」
「このソファ、昔はベッドのように巨大に思えたけど、今となるとそうでもないね」
冬馬がコンランのソファを指摘して言った。
「それは私達が大きくなったからよ、連はまだチビだけど、」
「いつか、海羅をぶっ殺す!」
そう言って、連が拳を海羅の前に翳《かざ》した。
「海羅は口が悪いからね、僕らがしょっちゅう喧嘩する理由が分るだろう?兄弟よ、」
冬馬は笑いながら、連の肩に手を置いた。
「いつか冬馬の小説の主人公に弟を登場させてよ、格好いいハッカー役で、」
「じゃ、美人の姉もね、」
「美人の姉は要らないから、」
「高野兄弟見参!って」
「主人公の名は高野じゃないし」
冬馬は笑う。
「どっちでも良いけど僕らの現実ほど、小説じみてる話は無いと思うよ」
「確かにね、アイデアはその現実から頂いたけどね、」
「じゃ、高野三姉弟見参ってどうよ、」
どうしても中に入りたい海羅が言った。
「なんか、昭和の漫画みたいだな、その響き」
「じゃぁ、レンジャーにする?高野レンジャー、」
「その小説絶対売れそうにないね」
屈託無く三人はケラケラ笑って、ポップコーンを奪い合うのだった。



 次の朝、遠藤道子がやって来て、リビングのカーテンを開けようとした所、まるで子猫が寄り集まって寝ているように、ソファで折り重なって熟睡している姉弟を見付けて驚いた。
「おやまあ、可愛らしい寝顔だこと」
微笑んで独り言を呟きながら、音を立てずにそっとカーテンを開けるのだった。
 しかし、故意に落としただろう床の上に散乱したポップコーンを見て、”やれやれ”と、頭を振るのだった。
やがてキッチンのコトコトと言う音や、弟の重みに耐えきれなくなった海羅が目を覚ました。
「お、重い・・・、何?」
頭を持ち上げると、弟たちが海羅に寄っ掛かっていた。
海羅がもぞもぞと動くと、弟たちも目覚めたようだった。
「みんな、ここで寝ちゃったのかよ〜」
連が目を擦りながら、大欠伸をした。
反対側にこてんと、横になったのは冬馬だった。
「起きなさいよ冬馬、学校遅れちゃうわよ」
「・・・うん・・・」
いつ持ち出したのか、ブランケットを肩まで引っ張っている。
 昨夜、みんなでDVDを見始めたら、面白くて止まらなくなってしまい、いつの間にか見続けてしまった三人だった。
内容の面白さは勿論、みんな口には出さなかったが、我が家でこんな風にじゃれ合いながら、姉弟揃ってソファで見ることが久し振りだったので、それが楽しくて離れ難かったのかも知れなかった・・・。

何気なくTVを付けた海羅の目に、目の覚めるような画面が写し出された。
 朝のニュース番組でお馴染みのレポーターが、殺人事件の現場から中継していた。
「ちょ、ちょっと、冬馬起きて!」
寝ている冬馬を揺り起こす海羅は、目を画面に釘付けにされていた。
『深夜、二時頃、烏川麻衣子さんがこの別荘の浴室にて殺害された模様です。詳細はまだ解りませんが、一緒にいた青年が重要参考人として連行されました・・・、』
 画面は頭から服を被って顔を隠した”青年”が、刑事に連行される所を写していた。
その刑事とは河合警部補と内藤始のふたり、その出で立ちから”青年”は、もしかしたら真樹先輩?

冬馬の眠気は一気に吹き飛んだ。






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