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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― Prologue ・秘められた能力編 ―
   9. テレポーター再び




 徐々に小さく遠くなって行く飛行艇を見送りながら、もう戻って来る気配が無いのを知った青は、この砲撃でこれ以上救助艇がここに待機するのが難しい事もわかっていた。

 しかし、どうしたものかと途方にくれた。
「やっべーーーーっ、流石におれも、ちと焦るなぁ」
 岸壁は高すぎて登れないし、かと言って元来た洞窟に戻るのは、海賊と鉢合せしそうだし……、壁に沿って潜りながら移動して、どこかに入る穴を見つけようかと、岩にしがみついたまま青の頭はぐるぐると思案していた。
 しかし、今度は青目掛けて砲撃が始まり、悠長にしていられなくなった。

 その時、さっき青がトオルの襟を引っ張ったように、今度は自分の身体が海の中から引っ張り上げられるのを感じた。
「うおぉぉぉ? なんだー?」
 恐る恐る見上げると、海面それすれの位置で静止した、エアーボードに乗って立っているシオがそこに居た。
 相変わらずの無表情で……。
「ええええええ、な、なんでおまえが???」
「行くぞ」
 顔色ひとつ変えず言う。
「え? どこへ」
「取り合えず神殿の前までお前を連れて行く」
「おまえは?」
「オレは帰還命令が出ているから、学園に帰る」
「バカかてめぇ、みんなを助けないのか?」
「うん」
 平然とした顔で言うか? 
 青は頭にきた。
「何だとーーーっ、みんな戦ってるんだ! おまえが行かないんならオレが行く! 中へ連れて行きやがれ!」
 シオは呆れたような冷たい目をして、青を黙って見下ろしていた。
「ふん」
 その”ふん”に嫌な予感が脳裏をよぎったかと思う瞬間、深く考える間も無く青はその場を連れ去られた。




「ほら、さっきの場所だ」
 いきなり真っ暗、いきなりの地面、ずぶ濡れの服で洞窟内に戻された青は、地面に落とされドスンと尻餅を着いた。
「いいいいいいーーーきなり、てめーーーーっ……って、……なんか気分悪い……」
 四つん這いになっている。
「移動は慣れてないと、そうなるんだよ。ど素人」
 シオは腕を組んで、青を鷹揚に見下ろしていた。
「これがテレポートってやつか?」
「そうだ」
「すんげぇ! すげぇ面白! ……でも気分悪……」
「ど素人、オレは帰るぞ」
「何言ってんだてめぇ」
「みんなを助けないのかよ?」
「言っただろ、オレには帰還命令が出ていると」
 静かに言った。
「仲間を見捨てる気か!」
「どうやらオレが狙われているらしい……。それにトオルは帰還したし、7班にはスカイ・ポリスが救助に行ったよ。お前が行っても足手まといじゃないのか?」
「おまえが行くんだよ!」
 青は当然の如く、シオを指した。
「お前はウルトラ馬鹿か? 今までの話しの流れで、どうしてオレが助けに行くと思うんだ?」
「てか、てか! 思い出したぞ!!! さっきおまえが避けたせいで、オレは眉間に一発くらって意識を失ったんだぞ! だから海まで落ちて海賊に会って、殺されそうになったんだ!」
「だから?」
「”だから”ーーーだと?」
 あまりの冷酷振りに、青は激怒した。
「以外と運動神経鈍いんだなお前、だから受験に落ちるんだよ」
 痛いところを、思いっきり綺麗な真顔で、シオに突かれた青は一瞬たじろぐ。
「お、おまえ! 鬼のような奴だな!」
「吠えてろ。じゃな」
「ま、待て!」
 青はシオの上着の裾を握り閉めた。
「うっせえなっ、離せ!」
「オレをこんな危ない所にひとりで置いて行くのかよ」
「てめーがここへ連れて行けって、言ったんだろうが!」
 パシッとシオが青の手を払った。
「……でもここはどこだよ? みんなは? てめーどこに連れて来やがった!」
「ここがオレ達が元居た場所だと言ったろう?」
 岩の塊がごろごろする辺りを見回すと、確かに曲がりくねった鉄の橋や滝、そこから続く急な川、そして何より崩れ落ちた土砂の中に、半分埋もれたリュックから、大切なマルが覗いていたのを見つけて、青はそれを掘り起こした。
「マル! 会いたかった!」
 縫いぐるみに涙を流して頬ずりする青を見て、シオは頭を小突いた。
「おまえ! そんな物見つけて泣くんじゃねぇよ!」
 青はリュックとマルの土埃を、綺麗に払いながら背中に背負った。
「さあ、みんなを助けに行こう」
「自分で足手まといに行きやがれ!」
「おめぇなぁ、可愛い顔して何てこと言いやがるんだ!」
「だーれが、可愛い顔だって……?」
「おめーーーだよ! 中身は悪魔だがな!」
「てっめーーーーっ」
 二人は顔を付き合わせて、くだらない言い争いをしていた。

 その一瞬を突かれた。
「見つけたぞ、小僧」
 瞬間に移動してきた、さっき青の眉間を突いた能力者によって、シオはあっと言う間に眉間を突かれた。
「シオ!」
 突然シオは意識を失いその場に崩れ落ちた。
 青はトオルから貰った銃を腰から取り出し、男を間近で撃ったつもりだったが、目の前からあっと言う間に消えたと思った瞬間、男は後方に姿を現した。
「さあ、そいつを渡して貰おうか」
「おいシオ! 起きろって!」
「簡単には目覚めないぜ、さっさと渡しな、そしたらお前の命は助けてやるよ」
 男は笑いながら一歩一歩、ゆっくりと歩いて来る。
「シオてめぇ! 肝心な時に気を失いやがって! 起きろ!」
 青は眉間に触れられないようゴーグルを掛け直すと、腕を掴んでも人形のようにピクともしないシオを抱えた。
「近寄るな、これ以上近寄ると撃つぞ!」
「そんな子供だましの銃で、何ができると思うんだ?」
 ”ハハハハハハハハハ”と男の笑い声が洞窟内で響き渡った。
 とにかく逃げようと、青は銃を男に向けて連射しながら、必死でエアーボードに乗ると加速を付けた。
「手を煩わすな小僧」
 青は元来た道を戻っていた、随分奥に来たものだけど取り合えず戻るしかない、でもシオを抱えていつまで体力が保つか恐怖さえ感じる。
 とにかく人の多い所に出るまで時間を稼ぐしか無い。
 きっと直ぐに、瑠華か学園の誰かが見つけてくれるだろう、それを信じて走るだけだ。 青は再び加速した。
 幸いこの道は勝手知ったる庭のようなものだし、どこで加速してどこで減速するか、曲がりくねる道の勾配は身体で覚えているし、岩は少しでも触れたり銃を乱射すると、羽虫が飛び交い、後方の視界を塞ぐ事も知っていた。
 おまけに薄暗いのも幸いしていて、後ろから銃を標的をロックし難いのは、以前からこの辺りで、玩具の銃で仲間と遊んでいたことから知り得た知恵だ。
 青は男に先回りされても、何時でも銃が撃てるよう右手に持ち、左手で背中に乗せたシオを振り落とさないようしっかり支えて、全速力で狭い洞窟を走った。
 イアホンは陸達が戦っているだろうノイズが、さっきから途切れながら僅かに聞こえていた。
「誰かーーー、誰かいねぇのかよ!」
 青はマイクに叫んだ。
『青? 青なのね?』
 雑音の後、いきなり瑠華から連絡が入った。
 その後ろで爆音が轟いている。
『青! やっと通じた!』
「姉ちゃんか?」
『あんた大丈夫だった? 銃声が聞こえたけど?』
「そうなんだ、あの滝を降りたところにすげぇ財宝があってさ、そしたら海賊がやってきて逃げだしたんだけど、海へ出たら海賊船に砲撃されるし、ここへ戻ってきたらテレポーターと出くわすし、今は追われてる真っ最中!」
『海賊? 海賊ですって? みんな仲間なの?』
「わかんねーよ! それよかおれたちやばいよ! 早く助けに来てくれよ!」 
『こっちもさっきの男の仲間をやっつけるのに苦戦してるのよ! 岩盤が脆くて下手に銃を撃つと、岩が崩れてきて危険なの、テレポーターはそっちに行ったのね、ここの仲間が一緒に逃げないって事は、そいつは自分しか移動できないんじゃないかしら?』
「どういう意味だ?」
『シオの場合は手を触れた物、人、総てを転送できるけど、そこまでの能力は稀(まれ)なのよ。だから男はシオを狙ってるんだと思うの、万が一シオが奴に捕まったとしても、奴の能力では一緒に転送は無理だと思うから、いきなり消えることは無いと思うし、シオの命を狙ってる分けでは無いと思う。でも、気を付けてね、私たちも直ぐに後を追うから』
「そうか、分かった」
『シオを頼んだわよ!』
「オレが頼まれたいよ! とにかく、来た道を戻ってるから早く追って来てくれ!」
『わかった。だからあんたも頑……』
 そこで通信はいきなり切れた。
 向こうも心配だが、こっちも命がけだ。
 しかし、華奢に見えてもシオは男だ、意識の無い身体は石のように重くのしかかる。男はエアー・シューズで追いかけて来ているが、トランスポーターでもあるのでいつどこに現れるか分からない。例え銃で壁を崩しても簡単にすり抜けて来るだろう。さっきから男が乱射したレーザーが堅い岩をくり抜く音がする。
 青も時折、後ろを目掛けて銃を撃ったが、岩盤の砕ける音が微かにしただけだった。
 いったいどうしたらいいのか、まったく勝算が見つからない、後ろの様子をチラリと見た瞬間、青の頬に鋭い痛みが走った。
「痛ってー」
 男の銃が頬を掠めたのだ。
「さっさとそいつを渡しやがれ、そしたらお前の命だけは助けてやると言ったろう……」
後ろから声が聞こえた。
 落ち着け、自分!
 青は賢明に考えた。
 もう少し戻れば上層に伸びた小さな脇道と、迷路のようにくねった行き止まりの道が伸びる三叉路がある。
 ここに詳しくなければ知り得ない道だ。
 そこまで行って、岩一面にへばり付いている羽虫を目覚めさせ洞窟の壁を崩すと、どっちに向かったか解らなくなるだろう、暫くの時間稼ぎが出来るかも知れない。
体力では誰にも負けない青だったが、シオの体重が圧し掛かる今、息は切れ切れで、額から大粒の汗が頬を伝うのがわかる。
 急カーブを曲がり、肩からシオが滑り落ちそうになった。
 もう限界を超えそうな青は、三叉路が近づくとポケットから閃光銃を取り出した。
 暗い洞窟で遊ぶ青達の遊び道具だったが、今日は役に立ちそうだった。
 それを壁の羽虫目掛けて撃った。
 すると、眩しい閃光と爆風に驚いた羽虫が辺り一面一斉に舞い上がった。
 それを連打し終わる頃には、前が見えないくらい黒く大きな塊となって通路を塞ぎ、次に銃を持ち替えて、レーザーガンを連射して壁を打ち崩した。
 天井は轟音と共に崩れ落ちてきて、砂煙と羽虫の塊で三叉路周辺は闇に包まれた。












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