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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― Prologue ・秘められた能力編 ―
   8. 青、絶対絶命!




 
「訓練の停止、撤退命令は出しているんだろう? 木君」
 ここは第二ターミナルの学園都市、眼下に立ち並ぶ高層ビル群を眺めながら、学園の学長室にて早瀬剛が、オリン岬から連絡してきた木に訪ねた。
 窓の外は積乱雲が入り乱れる青空が広がっている。
 ここ空に浮かぶ国立特殊能力学園は、下界から完全隔離の上空にあって、眼下の少し遠方に四大陸の一つ、広大なサウスランドの先端、そのオリン岬が見えていた。
『はい。現在、洞窟に待機中だった陽、スリン、イルモア教官は、それぞれ近くにいるチームの保護にあたっています。合流次第、近くの竪穴から地上に出る予定です。ただ、問題の7班は現在、更に洞窟の奥へ追いやられてまして、到着した、特殊部隊が救出に向かってます。そして二人の少年が地下から、岸壁の方へと脱出しているようなので、救護班が飛行艇でそちらに向かいました』
「頼んだよ木君。学生の安全を第一に考えて救出してくれたまえ……あ、それから……」
『はい?』
「三日前に学会のセミナーに向かった筈の、学園の情報管理センターの室長が、今朝メガ・シティの報道局ビル前の広場で、遺体となって発見された。頭には記憶を操作するコードが埋め込まれた後が幾つもあって、それだけでもかなりの致命傷だったろうに、犯人は残忍にも首の骨まで折っていた。そして、問題なのはどうやら彼が記憶していた情報を盗まれたらしいという事だ……」
『まさか……』
「勿論、外部に出て連絡が付かなくなった職員がいると、コンピューターは危険を察知して、あらゆるパスワードやセキュリティコードを、変更する仕組みになっているので、侵入者の心配は無いが、残念ながら彼の持っている記憶だけは盗まれたと考えていいだろう」
『それが今回の、シオの拉致事件と関係が……?』
「恐らく」
『……例の』
「それは私と、君しか知らないことだ……。誰も知っている筈は無い。まして、データーベースには載せていないからな」
 早瀬はきっぱりと告げた。
『それでは、テレポートの能力を欲しがってのことですかね』
「奴のテレポートの能力は特化してるからな……。それを狙ってるとしても不思議ではないだろう」
『確かに、そうですね』
「とにかく、生徒の安全を至急確保してくれ、頼んだぞ」
『了解しました』
 そう言って、早瀬はデスクのホログラム映像を切った。


学長室のふかふかのソファに深く腰掛け、シートに頭を乗せて天井の重厚な装飾を見るとも無しに見ていたシオは、その話を一部始終聞いていた。
しかし、その目線は揺らがない。
「さて、シオ。犯人はお前を狙っていたと聞いたが、男は何か言ってたか?」
「別に何も……」
 相変わらず天井を向いたまま、ぶっきらぼうに言う。
「でも、君だけを狙っていたんだろう?」
「……そうだな……、そんな感じだった」
「確かに世間にトランスポーターは余り居ないが、かと言って特別珍しい分けでも無い……。特殊能力者揃いの生徒が、教官引き連れられて訓練してる最中に、狙って来ると言うことは、かなり無理があるにも関わらず、それでもをやって来たと言うのは、そうまでして、どうしても君を連れ去りたい目的がある場合だと思う……と、なると……」
 学長はじっとシオを見ていた。
「うん。分かってる。バレたかも……」
 ゆっくりと、漸く顔を上げたシオは学長の目を見た。
「奇しくも今朝、学園の情報室勤務の局長の遺体が見つかった。どうやら彼の脳に記憶されていた情報が抜き取られたらしいんだ……。思い当たるとすればその件が関係していると言える事だ。しかし、例の能力については触れて無いはずだから、単にお前のテレポートの能力が欲しかっただけかも知れんのう……」
「……」
 しばしの沈黙があった。
「……調査は続行しているが、取りあえずここに居れば外界のような危険は無いだろうが、まあ、今回のような事もあるので十分注意して行動取ること、それと当分は外出禁止だ。では、部屋に帰って休んでなさい」
 それには素直に従って、シオはソファから立ち上がると学長室を後にした。


 そして、学生寮へと続く長いオートウォーク(動く歩道)の上で、手摺に持たれながら『ほんとうにそうだろうか……?』と思案していた。
ここに来て役5年、恐らく他人で自分の秘密を知っている者は、学長と木先生くらいだろう。
 彼らから自分の秘密が漏れる筈が無いことは、絶対の確信があったが……。
 首に掛けていたゴーグルを外そうと手にした時、スピーカーから雑音交じりの、トオルの必死な声が聞こえて来た。
『青が落ちた! ……戻ってください!』
『……そんな、……お願……し……、このままだと……、殺られてしまう!』
『……ガー……』
 シオはじっと手の中の、ゴーグルを見つめていた……。






 海の底は真っ白い砂で覆われていた。
 時折、青や赤色、取り取りの魚が寄って来ては、遠くに泳いで去って行った。
 外海へ近づくほど岩幅は広くなり明るさは増す、しかし、波のうねりは強く、一生懸命に手を動かし漕いでも、トオルの意思とは裏腹に、思ったように前へ進まなかった。
 一方、青がまだまだ平気そうに、先へずんずん進んで行くのが見て取れた。
 目の前には深い海が広がるばかりで先は見えず、少しばかり息が苦しくなってきたトオルは、身も心も恐怖に包まれ始めた。
『マジかよ……、やっべーーーっ』
 海の中なのに冷や汗を感じ、心臓が激しく高鳴り始める。
 パニックに陥りそうだった。
 ――と、その時、ぐいっと襟を掴まれた。
 顔を上げると霞んだ視界に青がぼんやりと見え、信じられない事に何故か笑ってるようにも見える口元に、トオルは勇気と気力を与えられた。
 学園で体術は二年も修行してるのに、そこらのガキに負けるなんて、驚きと同時に悔しさと少しばかりの尊敬を持ち、最後の力を振り絞ると腕を前へと伸ばして波を掻いた。
「ゴホゴホゲボッ……」
 トオルは海上に顔を出した途端、咽て堰をした。
「大丈夫かおまえ? ここに掴まれ……」
 青は隆起した岩にトオルの手を伸ばしてやった。
 外海の絶壁は波に浸食されて岩が滑りやすく、それでも二人は何とか海上から頭だけ出して、岩にしがみついた。
「死ぬかと思った……」
「情けねえなぁこれしき、それよかよう……」
 青は突然動きと表情を止めて、何やら考え込んでいる。
「どうした?」
「お前マイクの声が聞こえないか? さっきから姉ちゃん達が何やら騒がしいんだ」
 トオルはゴーグルの位置を確認し着け直した。
『……後ろから来る……よ。銃……レベル10……ろ!!!』
「莉空先輩の声だ。……レベル10って……殺傷レベルだ。きっと彼奴らに突破されたんだな……。くそっ……助けに行きたいがこれじゃ」
 その時、遠くを見つめていた青は急に顔を顰めた。
「おいおい、おれらは助けに行くとか言ってる場合じゃないぞ、ほら後ろを見てみな」
 青の真顔に、只ならぬ気配を感じてトオルは後ろを振り向いた。
「え? な、何だあれは……」
「海賊船だ」
 髑髏マークの帆を張った、大きな帆船が数百メートル沖に浮かんでいた。
まだ遠かったが、多数のクルーの姿が見える。
「おい、こっちに向かって来てないか?」
「多分な、きっとあの黄金の山を回収に来たんだろ。それか俺たちの抹殺、へっへっへっ」
「笑ってる場合か!」
「だってさ、おまえがあの船に根を生やして巻きつけて、やっつけちゃえばいいじゃんか、タコのようにさ」
「あ、そっか……て、ちょっと遠すぎるしな」
「ちっ、使えない奴」
「何だと!」
 その時、いきなり大きな爆音が空気を震わせ轟いたかと思うと、頭上の絶壁に巨大な穴を開けて、幾くつもの大きな岩が無数に飛び散った。
「わわわ、海に飛び込め!」
 更に”ドカン! ドカン! ”と容赦なく爆音が続く。
もう、絶対絶命だと思われたその時、爆音に限れて空から飛行艇が急速に接近してきた。
「来てくれたー!」
救助艇は海賊船めがけてビーム砲を連打しながら、トオルたちを大砲から守るように横付けして宙で止まった。
「助かった、救助艇だ!」
「やっと来たか!」
「君たち! 早く乗るんだ!」
 救助隊が海の中へ階段を伸ばし、二人に手を差し伸べてくれるが、海賊船からの砲撃が激しく救助艇が揺れる。
「もう少し手を伸ばすんだ!」
「へばってるから、こいつを先に!」
 青が海の中から、トオルを先に突き上げた。
トオルが救助艇に乗り込んで、次に青に手が差し伸べられた時、更に大きな爆音がして、救助艇は大きく揺らぐと室内に煙が充満した。
「隊長! 側壁のバリアがやられました! 早く上昇しないとこのままではやられます!」
「分かった。君、早く手を伸ばして!」
 青が必死の思いで救助の手を握りしめた時、既に飛行艇は上昇していたが、砲撃を容赦無く浴びていて、左右前後の揺れは収まらず、青が室内に乗り込んだと思った直後、機体が再び大き揺れた。
ぐらっと揺れた飛行艇の、まだ閉め切って無かった左舷のドアから、青は真っ逆さまに海へと振り落とされた。
「青ーーーーーっ、青が落ちた! 戻ってくれ!」
「戻るのはもう無理だ、機体が持たない!」
 トオルは落ちて行く青に向かって叫んだが、あっと言う間の出来事でどうしようも無い事はみんな分かっていた。
気休めにいくつか浮き輪を投げたトオルだったが、飛行艇は速度を増して上昇しており、波間に揉まれてあっと言う間に青の姿は見えなくなった。








 




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