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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― Prologue ・秘められた能力編 ―
   7. 海底の秘宝




 
 トオルは息を止めて30秒ほど曲がりくねった激流を下ったろうか、そろそろ息が苦しくなってきた頃に、ようやく足元が明るくなってきたと思ったら、30メートル程の上空から一気に青い海の底へと落ちた。
「うわぁーーー」
 思わず声が漏れたのも、あっと言う間だった。
落ちた海の中は洞窟内とは思えぬ程の明るさで、海底の白い砂の上に横たわったままの、意識を失った青を見つけるのは、以外に容易なことだった。
トオルは直ぐに青の腕を掴んで、浮上しようとしたその時、辺りには一面眩いばかりの黄金や赤青黄色と、取り取りの宝石や黄金の山が海底に沈んでいた。
『何だこれーーー! すごい宝の山だ……こんな所に……、ああ、でも今は青の救出が先だ』
 見たことも無い黄金の山に驚いたトオルだったが、思い出したように青の腕を握る指に力を込めた。
重い鉛のような青の体重を感じながら、必死の思いで砂浜まで引き上げたトオルは、青の心臓マッサージをしようと、急いで砂の上に膝を着いたとき、ごぼごぼと水を吐いて青が意識を取り戻した。
「ゲホッゲホッ、オエッ……」
「気がついたか、良かった」
 海に沈んだ時に、既に意識を失っていたから、水を飲んでないのが幸いだったなと、トオルは少しばかり安心した。
「……ここは?」
 さっき落ちてきたと思われる長い滝が見える高い天井から、青い海へと青は視線を移した。
あまりに広い空間で二人の声が反響している。
「覚えてるか? おまえいきなり現れた男に眉間の……、多分”印堂”か”山根”あたりにあるらしい記憶のツボを押されたんだろう」
「いんどう? やま……や……何それ」
「山根! まあ、オレも詳しく無いけど、莉空先輩は幻術使いだから専門なんだが、山根とは眉間にあるツボの事で、そこを押すと一時的に意識を無くしたりできるらしいよ、おまえはそれを押されたか、幻術に掛かったか……」
「げんじゅつって?」
「あのなぁ……、何にも知らないんだな」
「一瞬にして幻を見せること、例えば、こうやって身体は砂浜にのんびり座っているのに、頭の中は相手が見せる映像の中にはまって抜けられないんだ。莉空先輩がおまえに海で溺れてる場面を見させようとしたら、おまえは延々と溺れてるシーンで藻掻き苦しむ……」
「すっげーーーっ」
「しかも、莉空先輩の凄い所は術で竜を呼び出したり、霊と話をしたりできることさ」
「竜? あの伝説の竜?」
「実際おれは見たことないけど、一緒に戦闘に行って、見たことがある奴がそう言ってた」
「すっげぇ! おれも見てぇ」
「ま、とにかくおまえ大丈夫か? 歩けるなら出口を探そう、滝を登って戻るのは無理だからな」
「どうして?」
「どうして? って、この滝は落差100メートル程あったよ、しかも途中はくねくね曲がって、息付くことも出来なかった。戻るのは到底無理だ。そうか、お前は既に意識が無かったから、落ちて来るとき苦しくもなかったんだな……」
「おまえオレを助けにここまで来たのか?」
「あたりまえだろ、何驚いてるんだよ。見損なわないでくれ」
 真顔でトオルは毅然と言った。
「おまえ本当は良い奴だったんだなぁ」
 うっかり青は涙ぐむ。
「無能な奴は放っとけないだろ」
「前言撤回! このやろ!」
 青は拳を振り上げる。
「とにかく! 立ちあがりな、行くぞ。」
 渋々言う通りに立ち上がった青は、腰に着いた白い砂を手で払った。
しかし、ここは洞窟の底なのに、どうしてこんなに明るいのだろうと、ふと海を見た青は何やら海底の底から、黄金や宝石らしき物からの光輝く屈折するプリズムを発見した。
「まさか……」
 そう言うと、青はいきなり海に飛び込み海底へと潜って行った。
「おいおい、野生児だな彼奴は……」
 呆れてトオルが見つめていたら、暫くして王冠を頭に被って蔓延の笑みを称えた青が海上に浮かんで来た。
「すっげーぞ! 宝の山だ!」
「持っては行けないぞ」
「なんでさー、これ売れば一生楽に暮らしていけるぞ」
「そんな、どこかの狸オヤジみたいなことを言って……」
 全身じゃらじゃらと宝石を身に纏い、嬉しそうに砂浜を歩いてくる青を、冷めた目でトオルは見ていた。
確かにこういう年代物の王冠や、幾つもの大きな宝石を連ねたネックレス、黄金のブレスレットの数々は、ひとつひとつが大きいが故、まるで玩具のようにしか見えない。
「すっげー、すっげー、すっげー! ぞ! お前も取ってきなよ!」
「バカかおまえ、仮にも俺たちは将来特殊戦闘部隊に入る身だぞ、そんな事できるか!」
「そっか〜?」
「いいから、早くそれを捨てて行くぞ!」
 その時、莉空から連絡が入った。
『……二人とも大丈夫か? 時々、声が聞き取りにくいんだけど……』
「はい。二人は大丈夫です。 海に落ちたんでその衝撃で、少し回線が悪くなってるのかも知れません。それで、元来た滝を戻るのは厳しいので、出口をこれから探す所です」
『こっちも探してるから、頑張ってくれ』
「了解!」
 さっきから宝石に見とれている、青の胸ぐらをトオルは掴んだ。
「ほら、行くぞ! そんなもの捨てろ!」
「やだ! 絶対やだ!」
「持ってたって、どうせ全部没収されるんだ、好きにしろ」
 高い天井を見上げながら、トオルは脱出口を探して見るが、巨大な空洞には白い砂浜と岩窟が広がるばかりで、どこにも出口は見つからない。
「おまえも探せよ」
「これすっげーっ、8センチはあるよ。ダイヤかな? それとも飛鉱石の一種かな……」
 トオルの話なんか全然耳に入ってない青は、歩きながら宝石を頭上に翳して、まだ白く透明に輝く石を眺めている。
「おまえなぁ……上に上がったら絶対殴ってやる」
「この黄金は傷ひとつ付いてないや……」
「聞けよ!」
 完全に宝石に目を奪われている青に、全くトオルの声は届いて無かった。


 白く歩きにくい砂浜を、てくてくと30分くらい歩いただろうか……、トオルと青は一向に出口を見つけることが出来なかった。
所々、岩が迫り出してはいたが、難なく通り抜けることは出来る。ここはそんなに広くて長かった。
流石に青も、地下がこんな風になっているとは知らなかった。
「先輩たちが何も言って来ないと言うことは、上からの入り口も見あたらないんだな」
トオルは困惑していた。
「いっそ海に出るか?」
 飄々とした顔で青が言う。
「海だって?」
「そうさ、この海は外に繋がってる。ほら、白い砂に光が反射してここまで明るいだろう」
「だから海底が明るいんだ……じゃあ泳いで出るか?」
「簡単に言うね」
 意外に慎重な顔をして青が言った。
「何だよ」
「ただね、出口までおよそ100メートルくらいはあると思うよ。おまえ泳げるか?」
「100メートル? 息継ぎ無しで?」
「うん。しかも、今日は低気圧があるから、きっと外海は荒れてると思うし、実際もっと長く感じるかもな」
トオルはタラタラと眉間に汗を感じた。
「簡単に言うじゃないか、おまえは行けるのかよ」
「うん。行ける」
 当然の如く平然と返答をする。
「ま……まて、もう少し出口を探してみよう……」
「根性出さないのか?」
 笑ってる青のマジ顔を見て、トオルはごくりと唾を呑んだ。
「でも、まー、外に出られたとしても、ここは多分200メートルはあるような断崖合壁だし、波も強いだろうし、ろくな事は無いだろうなぁ……」
「そ、そうだろ? もう少し探そうじゃないか……」
 完全トオルは怯んでしまった。
荒れる海原を100メートル息継ぎ無し、そして200メートルをもの絶壁を登れる自信がない。青は出来ると言うのだろうか、平然とした顔をしている。
しかし、中から上に登れる道は無いものだろうか、海の反射で洞窟内は明るいが、穴の奥までは光が届かず良く見えない。こうなれば岩場を掻き分け、ひとつひとつ奥に入って確認するしか無かった。
「流石のおまえもこの場所は知らなかったか……」
「だなぁ、こんな黄金が眠ってるなんて」
「そっちかよ! だから無駄だって! 木先生に見つかり次第、即没収だって!」
「いやいや、ぜーーーーってぇ、渡さない!」
『トオル、出口はありそうか?』
「あ、莉空先輩! それがさっぱり! ここもどこだか分かんないし、海がすぐ側なのは分かるけど………。そちらは大丈夫ですか? 例の男たちは?」
『まだ足止めできているけど、それも時間の問題かな……それよりおまえ達が心配なんだよ、こちらからもさっぱり入り口が見つからなくて、爆破して穴を開けようかと話してるんだけど、下手に爆破して全体が崩れてしまったら大変だからね、今岩盤の薄い所を探してるから少し待っててくれ。それと青、黄金は没収だぞそんな物置いて行け』
「げっ、マイクが筒抜けなの忘れてた!」
「まったくおまえって間抜けだな」
 呆れたトオルは、青が頭に乗せている王冠を手にすると、海に投げ戻した。
「あ〜〜〜〜〜っ! 何すんだよ! てめぇーーーーっ」
「元あった場所に戻しただけだ」
「元々、元あった場所はここじゃないだろう! だからオレの物だ!」
「どーいう理屈だよ!」
 顔を付き合わせて揉めている二人の間を、何か小さな物がもの凄い速さで通り抜けて行った。
その”何か”が、ぶつかった50メーター先の岩盤が激しく崩れ落ちた。
「ひゃ〜〜〜、何だ、何だ?!」
「バカ、銃だよ」
 そして地面へ俯せになるよう、青を突き飛ばしたトオルは、腰から銃を取り出して、いつの間にか現れた、標的である盗賊らしき二人組に照準を合わせた。
「止めなガキ、その銃が殺傷能力が無いことくらい知ってんだ。お前ら学園の訓練生か?」
「そうだ、おまえらは何者だ!」
 果敢にもトオルが言う。
「何者と聞かれりゃ、海賊とでも言おうか」
 そう言って、背が低くずんぐりとした盗賊は、ガハガハと大声で笑った。
対照的にその後にいる男は痩せて背が高く、鼠色のテンガロンハットに同じ色のベストを着、手には銃を持ってニヤニヤ笑っている。青とトオルは上で出会った何者かと同じ仲間だろうかと倦《あぐ》ねていた。
「お前ら、どうやってここへ入ってきたんだ」
 ずんぐりとした男が不振そうな顔して尋ねた。
「川に落ちたんだよ、そしたら真っ逆さまにここまで来たってわけ」
男たちは顔を見合わせて、何やら目配せしている。ここに居るのは、どうやら彼ら二人だけのようだ。
「お前、その宝石を戻しやがれ、それは俺たちのもんだ」
「わかったよおっちゃん、戻すからその銃を仕舞ってくれよ」
 青は妙に腹の座った冷静な声して応答した。
「さあ、さっさとそこへ置きやがれ!」
 背の低い男が再び銃を振り翳したので、青は身に着けた宝石をひとつずつ、渋々時間を掛けて足元に落としてゆく。
「おまえさ、何の能力も無いのかよ?」
 青はトオルにヒソヒソと小声で話した。
「植物を操れるけど……」
「植物だって!? 笑わせるなよ、使えねぇ奴だ」
「てめっ、バカにしやがったな、くそっ」
「小僧! こそこそ言って無いでさっさと宝石を出しな! ポケットの中も残らず出すんだ!」
「おっちゃーん、オレはここオリン岬の孤児なんだよ。ひとりで生きて行かなきゃなんねえんだ、ひとつくらい分けてくれてくれないかー?」
「その孤児が、何で上の奴らと一緒なんだよ」
「ここの案内をしてるんだ、オレだって生活かかってんだよー、おっちゃん達と一緒だよ。何ならオレも一味に入れて貰えないか?」
「青ーーーっ、てめえ、おまえひとりだけ命乞いか!!!」
 とんでもない展開に、トオルが叫んだ。
「ガハガハガハ、チビどもが仲間割れか。でもな、顔を見られちゃここから生きて帰れると思うな」
「ひぇーーーーっ、トオル! てめぇ早くやっつけちまいな!」
ゴツッ、トオルは青の頭を殴った。
「痛ってーーーっ」
「変わり身の早い奴め! さっきはバカにしたくせに」
「生き抜く知恵だよ! でもさ、どうやら海に飛び込むしか無さそうだぜトオル」
 青が小声でそう言った途端、トオルの顔が引き攣った。
もし途中で息が切れたら死んでしまう、窒息の危機にトオルは吐きそうだった。
「だからおまえ先行け! 途中でへばったらオレが引っ張ってってやるよ! だから銃をかせ!」
 青は海に入るべきか、判断をし兼ねているトオルから、素早く銃を奪うと、賺さずトオルを海に突き飛ばし、彼を標的に銃を向けた海賊目掛けて、青はレーザー銃を連射した。
 不意を付かれた海賊は、今度は青に銃を向け撃ってきた。
 岩陰を見つけていた青は、全速力でその裏に隠れる。 
「青ーーーー!」
 海の中からトオルが叫んだ!
「早く行けトオル!」
 岩をも砕かんとするように、容赦なく海賊の銃が乱射される。
 それを見かねたトオルが、海賊の方に手を翳し、指先をくねらせたら、砂の中から何かの植物がニョロニョロと生えてきた。
 そして、瞬く間に大きく育ったかと思うと、唖然としてる男たちの身体に巻きついて、身動きを取れなくしてしまった。
 彼らは指まで幹に巻きつかれて、持ちきれなくなった銃が手から落ち、悲鳴をあげた。
「うわぁ! 何だこれ、く、苦しい!」
 身動き取れなくなった男たちは、苦しさに悶えている。
「すげぇ……トオル……」
 バカみたいに笑顔で喜んでいる青を、トオルは叱った。
「何ぼけっと突っ立ってんだよ! 早く来い!」
 盗賊がもがき苦しんでいる隙に、青もトオルの後に続いて海に飛び込んだ。
 既に意を決したトオルは大きく息を吸い込むと、光に導かれるまま外海を目指した。










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