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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 


   6. 闇の超能力者




 翌朝、青が何かに揺り起こされて目を覚まし、寝袋から顔を出すと、すっきり爽やかな顔をしたシオが、ブーツで寝袋を蹴っていた。
「おい! 何しやがる、てめーっ」
 一気に目が覚めた青は激怒した。
「さっさと起きやがれ、クソザル」
 綺麗な顔には似つかわしくない、罵言が飛び出す。
「何だとーー!」
「こらっ!」
 起き上がろうとした、青の腹を踏んだのは瑠華だった。
「喧嘩を吹っ掛ける間があったら、さっさと起きなさい! 他のチームはそろそろ出発よ!」
「痛ってて……、何も腹を踏むことないだろうよ……姉ちゃん……」
 お腹を押さえて蹲《うずくま》る青だった。
「あんたはガイドでしょうが! そのあんたが一番遅いなんて、ふざけないでよ。朝食はこれよ」
 そう言って、昨日の錠剤を3つ、青の口に無理矢理放り込んだ。
「さっさと顔洗ったら出発だからね」
 青が渋々起き上がり、顔を洗いに行っている間、梨子はレイ先生の行方を、地面に手を翳して探査していた。 
西方面に続く道を行ったらしい、しかし、エリ先生を追っていると思われる5班のメンバーは、北に向かうべく地図を確認しながらエアーボードの用意をしている。
どうやら、3班のキエナ班が7班と同じレイ先生狙いで、同じ道に入ろうとしていた。
「ここは青に期待しようじゃないか。同じ道を二班が同時に追おうとしてるんだ、近道を知ってる方の勝ちだよ」
「そうですね先輩。5班の後を追っても勝ち目は無いし……、陽先生は以前捜査線に浮かんで来ませんしね……」
 トオルが言った。
「あの先生は絶対捕まらない所にいますよきっと、捕獲だなんて言っておいて、こんな訓練のとき一度も捕まった事が無いって聞きますよ? 意地悪なんだから」
 梨子が不平を言う。
「そうだね、陽先生は念力の能力を持ってるけど、何故だか危険や追っ手を察知するのが得意なんだ、だから隠れるとほぼ100パーセント、捕まえるのは無理だろうね」
「嫌がらせだわ」
 梨子が怒る。
「青わかった? そう言うわけだから、より早く前に進む理由があるのよ。こらっ、聞いてんの?」
 戻ってきた青に説明をする瑠華の前で、大あくびをしたものだから、朝一番で頭を殴られる。
「痛ってなぁ……もう。聞いてるよ。とっておきの道があるよ。きっと誰も知らないし地図にも乗って無い」
「危険なんじゃないでしょうね」
「ううん、全然。」
そう言って、青はにっこり笑った。



「ぎゃ〜〜〜〜〜っ」
「梨子、さっきからうるさいぞ!」
 薄暗く湿った洞窟道でほぼ一時間、梨子は叫び放しだった。
原因は壁に散らばる甲を照らせた羽虫で縦横無尽に這い回り、でこぼこした足元の岩の割れ目には、とぐろを巻いた黒光りする無数の蛇が、頭を擡げて起き上がろうとする。どう考えても女の子には想像を絶する光景で、瑠華は蛇や羽虫を初めて見たわけでは無いが、余りのグロテスクさと、もしも、叫んでいた時に口の中へ虫が入ってくるかも知れないと、思うことの方がずっと恐怖であったので、この地獄にも黙って耐えていた。
「あんた……、態とこの道選んだでしょ」
「瑠華だって知ってんだろ、忘れたのかぁ? こっちが近道なんだよ。言ったとおり安全だし」
「何が安全だよ! それにしても俺でも気持ち悪いや」
 トオルが言った。
「安全だよ。ここの蛇やゴキブリは毒を持ってないし」
 青が壁に少し手をやると、ゴキブリが2,3匹後方に飛び、直ぐ後ろの瑠華が機敏に頭を避《よ》けたので、トオルのゴーグルに当たった。
「ぎぇっーーーーーっ」
 悲鳴を上げるトオル。
「ちぇっ」
「甘い青、その手には乗らないから」
「いったい何時ここを抜けられるのよ!」
 梨子が怒っている。
「そうだな、後10分くらいかな」
「じゃ、そこでひとまず休憩しよう。着いたら止まってくれ青」
「了解!」


 予想以上にさっきのコースが効いたのか、梨子は”流賀の滝”に着いた途端、仰向けに横たわった。
トオルとて水を飲んで額の汗をぬぐっていたが、平気な顔をした莉空、瑠華、シオは次の作戦を練っていた。
ここで暫く休憩しても、相手チームよりほぼ半分に短縮できた時間のお陰で、ゆっくり状況を把握することが出来る。2班6班が誰を追っているかは分からないが、真っ直ぐここまでたどり着こうとしているのなら、間違いなく彼等が一番先に着いたと言うことは確実だった。
それに、この広場から夜に到着予定の剣の間までは、狭い通路ではあったが一本道で奥へと続いている。
ここは上層部からの川が洞窟を通って海まで流れ落ちていて、上空は木々に覆われてはいたがその隙間から、地下2層のこの広場まで、明るい光が滝の流れを照らしていたし、恐らく隣の広い地下道よりも随分明るく、ささやかな微風とミストが充満してるのでとても涼しかった。
「この世の地獄だったわ……」
「流石に梨子も、蛇やゴキブリは苦手か」
 トオルがクスリと笑う。
「何だ? 訓練生にしては意外とだらしないなぁ……」
 青は林檎を囓りながら笑った。
「おまえみたいな原始サルには言われたくないね」
「あんなにいっぱいの羽虫は、始めて見たからちょっと驚いただけよ!」
「おまえら、ほんとに能力者かぁ?」
 疑いの目で二人を見た。
「あなたに言われたく無いわよ!」
「そうだ! そうだ! 無能力者め!」
「何だと〜〜!」
「青!」
 瑠華に首根っこを捕まれる。
「あんたは体力も、知能の未使用領域も、あり余ってるでしょから、そこで水くらい汲んで来て頂戴」
 そう言って、水が入っていたらしい自分と莉空のボトルを、不平たらたらの青に寄越した。
「シオも入れて来て貰ったら?」
「いい。自分で行くよ」
 広場から数十メートル先の、幅4メートル高さ10メートルの滝は、朽ちそうな鉄柵で円形に周りを囲まれており、近づいてボトルに水を汲めそうだった。
そこまでは小さな橋が伸びていて、シオはすくっと立ち上がると、橋に向かって歩いて行く、その後を青は追いながら橋に差し掛かった所で、シオに後ろから話しかけた。
「気になってんだけどよう、その腰に付けてるの銃だよな、学生が銃撃っていいのか?」
 瑠華は”フン”と鼻で笑ったが、何も言わずスタスタ歩いて行く。
「こらっぁ、無視かよ!」
 シオは諦めのため息をついた。
銃の説明をするまで、青が開放してくれそうに無かったからだ。
「訓練の時だけ渡されるのさ、殺傷レベルまでは上げないようになっている」
「何? 殺傷レベルって……」
「人を殺す……」 
話すのを途中で止めて、いきなり立ち止まったシオの背中に、青は思いっきりぶつかってしまった。
「痛ってーじゃないか!」
 黙ったまま動かないシオの肩越しに前を見ると、流れの近く10メートル前方に人影が見えた。
 それは背の高い男で、明らかにシオを見定めていた。
「見ーつけた」
 皮のロングコートを着た、緑の髪の男がそこに立っていた。
その奥にはもう1人短い金髪の、背中に大砲ほどの大きい銃を持った大男がいる。
「探したよ、リグラス・シオ」
 緑の髪の男は、腕組みをしたままシオに笑いかけた。
「何だ? おまえの知り合いか?」
 背後から青が尋ねた。
「………」
 目の前の男を見据えたまま、シオは黙って立っていた。
「俺たちと一緒に来て貰おう」
「誰だおまえ……」
 その時、初めてシオが口を開いて静かに言った。
「やがてこの国を支配する方の、部下とでも言っておこう。彼の右腕……」
 男が平然とこちらに一足歩み出たので、シオが後ずさりし、それに釣られて青も同じように後ろに下がった。
丁度その時、いきなり天井からシオの目の前に、三人目の男が逆さまに降りてきて、その指がシオの眉間に当たる寸前、彼が素早く避けたので、真後ろにいた青の眉間に直接当たってしまった。
一瞬で意識を失った、青のバランスを崩した身体は、滝が川となって地下へと流れて行く激流へ落ちてしまった。
鉄の欄干に落ちたボトルが、甲高い音を立てる。
その音で、みんなが振り向いた時はもう遅かった。
「青ーーーーっ!」
 瑠華の叫ぶ声が洞窟の木霊した。
しかし、青の体は最初こそ浮き上がって見えていたものの、あっと言う間に波に浚われ、水に揉まれながら地下へと飲み込まれて行った。
そして金髪の男は水路の前でどでかい銃をこちらに向けて威嚇している。
莉空はすかさず、腕の緊急用レッドランプを押して木に救援を送ったが、この奥深い洞窟の中で、救助隊がここまでやって来れる時間を考えると、それまで自分たちの力で何とかするしか無いと判断し、莉空はそこにいるみんなに銃のレベルを、身体が動かなくなる8にするよう指図した。
「ちっ、ミスっちまった!」
 天井から逆さに降りて来た男が言った。
「あ―あ、仲間が独り犠牲になったぞ……、もっと増えるがそれでもいいのか? リグラス・シオ?」
 腕組みをしたまま、緑の髪の男が笑った。
 そして、名前を呼ばれた事で、シオの目が険しくなる。
「……オレを捕まえられないことくらい、分かってるんだろう?」
「そうだなぁ。今となっちゃ、お前の捕獲は無理だろう。しかし……」
 そう言い終わらないうちに、男は腰から銃を取り出すと、シオに向けてレーザービームを乱射した。
しかし、シオには通用しない。
男が銃を手にする時には、既に他の場所に移動していた。
「だから言ったろう? 敵を察知したからには、オレはもう誰にも捕まらないって」
 流れ落ちる滝を背にした鉄柵の前で、眉間に皺を寄せてはいたが、シオは堂々と立っていた。
彼らの目的がシオを連れ去る事なのは明白で、三人の男たちは滝の方ににじり寄っている。天井から降りてきた男はナイフ使いらしく、シオをめがけて素早く投げて来たが、それも虚しく、空を突いて水の中へ消えて行った。
「トオル、今のうちにワイヤーを使って、青を助けに行ってくれ! 僕たちが援護するから」
「分かった。行ってくる」
 トオルは腕のスイッチを押して、ワイヤーの先端を岩壁に打ち込むと、そのまま激流に飛び込んだ。
男たちは低学年の子供、所謂雑魚には興味無いのか、それとも激流に飛び込んで助かる見込みが無いと踏んだのか、トオルを追う素振りもなく、目の前の”獲物”シオは勿論のこと、莉空、瑠華、梨子を、いたぶり射止めるのを楽しんでるのかのように、口の端を歪めて笑っていた。
「レベル8なんて、なめてくれるなクソガキども、俺たちに勝てるとでも?」
「そんなのやってみないとわからないですよ。ただ、あなた方の命まで奪うつもりはないですけどね、僕らまだ子供ですから……。犯罪者の身柄は警察に引き渡すまでです」
 臆すること無く、莉空が答えた。
「クソガキが……」
 ロングコートの男は、莉空と話をしている振りをして、一瞬でシオの目の前に現れた。
 しかし、そんな事など既に予測していたシオは、腕で額を守りつつ男が現れた瞬間、足で男の腹を蹴飛ばした。
よろめいた男は他の二人に支えられて、辛うじて体制を保った。 
「聞いてたのか? 言ったろ?」
 シオは見下したように、男たちを見据えて立っていた。  
「まったく、度胸のいいガキだぜ……。しかし、気に入ったよ。俺はどうしてもお前を連れて帰りたくなった」
 男は後ろで支えていた仲間の手を、忌々しそうに振り払った。
どうやら彼がリーダー格らしい。
「シオ、君は先に学園に帰って、学長に報告するんだ」
「でも……」
「狙われてるのは君だ、早く行け!」
 真剣な莉空の声にシオは黙って頷くと、薄情な程一瞬にしてこの場を去った。
「あ〜いいなぁ」
 梨子が感心する。
「クソ〜、あのガキ逃げやがった!」
「だから慎重にしろと言ったんだ、このバカが!」
「チクショ〜〜」
 腹立ち紛れに金髪の男の銃は容赦なく莉空ら三人を撃ちまくり、外れたビームが洞窟の壁を崩して轟音を起てる。場慣れした犯罪者集団は素早く、そして、幻影術か瞬間移動術か、それらを使っての姿くらましで、一瞬にして他に移動する。
瑠華の能力も消えては現れるテレポーターの前では使えない。
下手に物体を止めても彼が移動中だった場合、いきなり現れてビームを乱射されたらみんなが危ない。
莉空たちは隠れ場所のない洞窟内で、防御で精一杯だった。
「莉空先輩、ここは私に任せてください」
 梨子はそう言って滝に手を翳し、『天と地の聖霊よ、神の許しに寄って私に力を与えてくださいませ!』と唱えた。
すると、滝の水は命でも宿ったかのように、くねくねと曲がったかと思うと、梨子の振りかざす手の方向に左右に揺れ始めた。
そしてその手の先に力を溜め込むと、彼等に向けて振り翳したら、物凄い勢いで轟音と共に、水が大砲の如く放出された。
それは洞窟内を満たすほどの水量で、下手したらこちらも水に飲み込まれてしまうかと思えたが、彼等の隙を見て瑠華と梨子が、通路の先へ入ったのを確認した莉空は、持っていた小型爆弾で外壁を崩して通路を閉鎖した。
「これ以上ここで戦闘をしていたら、洞窟全体に影響が出るからね。ここは湿気を帯びて岩盤が脆く、崩れやすそうだ」
「ええ、でも青とトオルが……」
「うん。トオルのワイヤーは壁から外れていた、おそらくここへ戻ってくるのが困難と判断して故意に外したと思うんだ、位置は確認出来るから下に降りられる道を探してみよう。この落石で暫くは敵の侵入は防げそうだ。そのうち誰か教官が助けに来てくれる事を願うけどね」
「そうね、ふたりが心配だから急いで探しましょう。地下100メートル位落ちたみたいだから、彼等もあの水路を使ってまで、二人を追いかけないでしょう。第一、彼等の目的はシオのようだし」
 シオが狙われる理由としてあげられるのは、周りの者も一緒に移動できる、そのテレポート能力だったが、こんな地下まで降りて来るとは……。
きっと誰もが想像していなかっただろう。
シオが居ない今、男たちはこの壁を抜けてここへ来るだろうか……、しかし、少しでも早くふたりを救出することに専念しなければならない。
莉空は手分けして、下に降りる道が無いか、取りあえず付近の散策をするよう、瑠華と梨子に指示をした。

 







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