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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 


   5.  探索開始



 
 洞窟案内人の青は当然ながらチームの先頭を走っていた。
彼を筆頭に瑠華、トオル、梨子、シオ、そしてリーダーの莉空と続いている。
時には1メートル幅まで狭まる洞窟の道には、所々商売根性丸出しの出店が並び、住居と商店が入り交じり混沌としていた。
その中を縫うように、6人のエアーボードは先を急いでいた。
「青、言い忘れたけど出店の商品を壊したり、人にぶつかったり怪我を負わすと減点だから注意してよ」
 瑠華がゴーグル内蔵のスピーカーで話しかけてきた。
「言われなくてもあたりめぇのことじゃんか! 商品や人にぶつかるって事はこっちの命にも関わるからな、おまえだって知ってんだろ!」
 かって瑠華も三年前までは、この洞窟が遊び場だった。
何度も青とエアーボードで、スピードを競い合ったか数知れない。
しかし、三年前の幼い弟は成長して背も高く体力も増したようで、特殊訓練を受けてきたこのチームを、引っ張って行くのに十分なスピードを保っている。
しかも洞窟に慣れているせいで、下手に余裕があるからあちこちよそ見をしている。
自信満々なのは伊達ではない。
「青、少しスピードを落としてくれ」
 後方から莉空が話しかけてきた。
「なんで? 早く追いつきたいんじゃないのか?」
「勿論、ある程度は奥深く入って行く必要はあるが、教官達がどこに潜んでいるかは分からないんだ、もしかしたらこの辺りかも知れないし、先端のトラップ岬を目指してるのかも知れない。だから闇雲に先に進むんじゃなくて、探索しながらになるんだよ。しかも僕らは狭い通路を6人が連なって、かなりのスピードで進むわけだから人に接触する可能性が高くなる。安全を考えて少しスピードを落としてくれ」
「ちぇっ、面白くねぇなぁ」
「今回は進級試験がかかってるから、教官たちもそう簡単に捕まってはくれないだろうからね。どこにどんな仕掛けがあるか分からないし、こちらも用心しないとね」
 ひとつ通りを挟んだ左側の道を、ほぼ同スピードで走っているアッシュのチームの姿が見えた。どうやら彼等も同じように、物や人への接触を警戒し、スピードを落としているのは、用心してのことだろう。
洞窟には所々空洞が開いていて陽が射す場所があり、だいたいはそういう所は広場になっていて人々が集っていた。
 比較的上の階にはマーケットや食堂といった普通の商店が多いが、下の層海に近づくにつれ怪しげな闇商売が横行していた。
最も海に近い最下層には、湿気と暗闇の不気味さが漂い、誰も近寄らないし、未だ解明されていな穴倉も多い。
「じゃあさ、どうすんのさ? 取りあえずこの広い道を真っ直ぐ行くといいんだな?」
「そうだね、次に広場とか枝分かれした道とかがあったら止まってくれ」
「分かった。それはね、およそ三分後に付くよ、メロロ広場だ」
「流石だね青」
 莉空は微笑んだ。
 青も得意そうに笑顔を作ったが、直ぐにトオルにちゃちゃを入れられる。
「当たり前だ、毎日ここで遊んでるんだろう?」
「まあなーーーーっ」と、嫌味たらしく、どでかい声で喋ったものだから、誰もが耳を劈《つんざ》かれた。
「こらーーー青! 超高感度マイクってこと忘れたかーーっ?」
 瑠華の反撃を予想した青以外は、スピーカーを耳から遠ざけていたので被害は無かったが、青はその轟音をもろに鼓膜に受けて、頭を抱えて涙目になった。
 やがて青の言うとおりほぼ3分ジャストにメロロ広場に着いた。 
そこはぽっかり開いた上空に青い空が見えていて、光を落として直径20メートル程の円形の広場を照らしていた。
そこから縦横無尽に5本の枝分かれした道と、いくつかの売店が、甘い菓子の匂いや、カレーの匂いを漂わせて胃袋を刺激した。
「梨子、ここで探知できるかな?」
「莉空先輩、任せてください」
 そう言うと、梨子は手袋を抜いて地面にそっと左手を置いた。
そして、目を瞑ると暫くして勝ち誇ったように顔を上げた。
「レイ先生はこっち、エリ先生はこの左の道を、陽先生の波動は感じられないので此処まで来る間に、既に何処か枝分かれした道に入ったと思います」
「陽先生らしいな、最初僕らが血眼になって入ると思ってるから、さっさと他の小道に入るなんて、一番厄介そうだから陽先生はターゲットから外して、そうだな……青はどっちを追いかける方が良いと思う?」
「それならこの道を行ったと言う、レイ先生の方がいいと思う」
 すっぱりと明言する青に、莉空が尋ねた。
「その理由は?」
「枝分かれの道が少ないから、一々立ち止まる回数とか考えると断然こっちだと思うんだ」
「でも、私の記憶によると道は狭くて薄暗いから、どうしてもスピードダウンは免れないんじゃない?」
 瑠華が言う。
「確かに道は狭いよ。でも次のダイン広場に行くまでの、枝分かれの数はこっちが5本、向こうは10本、こっちの道は人が少なくて接触する機会も半減、まあ、その先生が真っ直ぐトラップ岬に行くと想定してだけど…」
 なるほどね。……と、以外にも冷静に判断している青に莉空は関心した。
「うん。いいだろう。じゃこの道を行くとしよう。いいねみんな」
「はい」
 そうする内に後から来た5班のメンバーは、そのままエリ教官が通ったと思われる道に入って行った。
「どうしてあいつらは立ち止まらずに、真っ直ぐ向かえるんだ?」
 青が瑠華に訪ねた。
「あっちのチームには透視ができる、早手草《はやてそう》って子がいるのよ。彼は千里眼を持っていて人物の残像を追うことができるの」
「えーーすげぇ! じゃ、無敵じゃん」
「まあねえ、だからあのチームのことは、今回は捨てていいと思うのよね、まず一番でしょうから」
「だから私たちは2番か、3番を取れたら儲けものかな」
「瑠華先輩ったら消極的なんだから、一番狙いますよ私は!」
「そうだ、そうだ!」
 不協和音を奏でるチームメイトより利害が勝る青は、微笑みながら拳を振り上げ激しく同意した。
「どうでもいいけど、そろそろ出発しませんか莉空先輩? 5班は行っちゃいましたよ」
 腹黒い弟の笑顔を瑠華は呆れて見ていると、もう絶対に月光石は貰ったと言うように、挑戦的な青の目と合った。
まあ、それほど洞窟に関しては、とても自信があるには違いないが、ちょっとばかしその傲慢の鼻を、へし折ってみたい衝動に駆られる瑠華だった。
「そうだね、そろそろ行こうとしようか」
 鼻歌まじりで青はゴーグルを掛け直すと、エアーボードを一気に加速した。



 彼等が次の大広場ダイン広場の滝に、着いた頃には午後7時を回っていた。
陽が陰り始めて、そろそろ洞窟道に落ちてくる明かりは、期待できなくなっていた。ダイン広場では偶然5班のみんな、他にカガリ・リエナをリーダーとした3班と一緒になった。
ここの広場は地下5層になっていて、一番下の5層目は既に満潮で海に浸かっている。 円形に陥没した中央に橋を通して、板のフロアが円形に設えてあり、直径50メートル程の広場には、簡素な椅子とテーブルが、幾つも乱雑に置いてあって、学生達はそこに座ってそれぞれお喋りをしたり、ミーティングをしたりして寛《くつろ》いでいた。
偶然、シオの横に座った青は、リュックから取り出したリンゴを囓る、自分を見つめるシオの視線に気が付いた。
「おまえも食べる?」
 そう言いながら、再び自分のバッグの中から、リンゴを取り出すとシオの前に差し出した。
「いらない」
「遠慮せずに食べなよ、ほら」
「しつこい」
 真っ直ぐなアイスブルーの瞳は、冷淡に青を見ていた。
その時、荷物を持って移動してきた瑠華が、青の横に座った。
「任務中に私たちは、そういった物を食べないのよ」
「じゃ、何食べるのさ」
 瑠華は自分のバッグから、小さなタブレットケースを取り出して、その中のガムのような粒を食べて見せた。
「これはね、胃の中で100倍くらいに増える栄養食なの、勿論、これだけではなく携帯食も少しは常備してるけどね」
 と言って、チョコバーのようなラミネートに包まれたクッキーを見せてくれた。
「だから軽装で済むのよ。シオに無理強いするんじゃないの」
「だってさ、こいつが欲しそうに見てるからさ」
「違う。よくもまあ、重いのにそんなもの背負ってるなと、呆れて見てたんだ」
「だからそんなにリュックがパンパンなのね、一体幾つ入れてんのよ」
「10個」
「ええええ」
「だってオレ林檎好きだもん」
 青は笑って林檎を一口囓った。
「サルかおまえは」
 そう冷たく言い放つシオ。
「何だとーーーーっ」
「とにかく! そんな重い物とっとと早く食べることね」
 瑠華がため息を付きながら、ふたりの間に割って入った。
 確かに青が彼等をじっと見ていると、食べ物らしき物を食べている形跡もなく、寝袋は非常にコンパクトに袋に収められていて、開くと魔法のように、あっと言う間に寝心地良さそうに膨らんでいる。
そして腕の時計のような機械は、あらゆる計器が詰め込まれているようで、ホログラムの立体映像ゲームをしてる者や、映像をパソコン化して使っている者もいる。
なんて高度に進んでいる技術だろうかと、青は改めて驚いた。
ここ地上の学校生活と、何もかもがかけ離れているようだ。
「青、セザール先生が心配していたよ。あんたは授業に出ないで遊んでばかりいるそうね、このままじゃ、受験が受けられなくなるって……」
 隣にいるシオに聞かれるのを気遣うように、小声で瑠華が話かけてきた。
青の顔色が少しばかり硬直した。
「青はもう受験受けるつもりはないのかも知れないって……、本当なの?」
「……うん、もう止めた……」
「どうして?」
「だってさー、瑠華と違ってオレは何の能力も無いしさ、無理じゃねーか?」
「でも……」
「もちろんさあ、体力では絶対誰にも負けない自身はあるよ。でもさ……、姉ちゃんたちの学園に入るのはそれだけじゃだめなんだ……、いつまでたってもおれは能力無いし……、認めるよ。おれには何の才能も無くて、瑠華には完敗だって……」
 顔は笑ってはいたが、その瞳が揺らいでいたのを瑠華は見逃さなかった。
幼い弟は未だ何の能力も持たぬことで、胸を痛めていることは明らかで、しかもその事実に絶望しかけている。
しかし、瑠華は諦めて無かった。
自分たちの一族が、念術に長けていてることを知っていたからである。
ただ、青に関しては為す術が無いことを実感してはいたが、焦ってどうにかなる問題では無い。
 今の青に慰めの言葉は余計に傷つけそうで、掛ける言葉が見つからなかった。
「元々さあ、オレは瑠華ほど特殊部隊に入ろうなんて夢は無かったんだよ。瑠華が行くって言うから、オレも行きたいなと思ったくらいで……、そうだろ? いつでも瑠華はオレのライバルだったから」
 青はにっこりと笑った。
かけっこやエアーボード、何でも同じ事をしたがる幼い弟は、振り返るといつも後ろにいた。
でも、それがいつしか自分を通り超して、彼自信の夢になりつつあったのを瑠華は知っている。
「待ってるから青……、私は学園であんたを待ってるから……」
青には諦めないで希望を持って欲しかった。
寝袋の中へ横になった青は瑠華に背を向けた。
「もう寝るよ。明日は結構ハードだからな」
 そう言って、寝袋に頭まですっぽり入った青を、複雑な思いを抱えて横目で見ていたら、ふと何の感情も写さぬシオと目が合った。
 どこまでも遠く、冷え込んだ北の氷壁を思わせる、凍てついた空気を纏う瞳……。
相変わらず眉ひつと動かさない、その表情からは何も伺うことはできない。
 澄んだ瞳は、吸い込まれそうなアイス・ブルー……。
「ほんと、あなたって綺麗な顔をしてるわよね」
「言ってろ……」
 シオはそう言い捨てて、ホログラムの書物に再び目をやった。











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