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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   34. 絶対能力

 

 遥か上空のビルの上から、シオは男が少し落ち着くのを待って、背後から近寄ろうと思案していた。


 全ての残骸を引き寄せて高く渦巻いた竜巻は、今まさに同じ能力を持つ陽がその威力を弱めようと戦っていたが、それによって力から開放されたガラクタの数々が空から落ちて来て、地面にぶつかる様は凄まじく、爆撃を受けたような爆音と大きな穴が幾つも開いては、人々が悲鳴をあげて逃げ惑っていた。
 今度は木が手を翳して風を呼び込んでいた。
 それは更に男の作り出した竜巻を弱めたが、高く舞い上がりすぎたモービルの残骸がビルに衝突する、そこで透かさず陽先生がフォローして、モービルをゆっくり下に誘導している。



 スミエ・グラは今か今かと、首を長くして男を待っていた。
 頂上の電波塔が吹き飛んだので、その土台しか残っていない風吹きすさぶフロアで、特殊部隊が登って来やしないかと、脅えながら爪を噛んだ。


「そう言うことか……」


 いきなり背後からの声にスミエ・グラは震え上がった。


「だ、誰だ!」
 暗闇に浮かび上がる人形の黒いシルエットに向かって叫んだ。


「お、おまえ!」
「このタワーを崩壊して、あいつと一緒に逃げるつもりだったんだな」
 一歩一歩近づいてくる度に、シルエットが鮮明になりやがてグラは息を呑んだ。
「な、何でお前がここにいる!」
 グラの言葉を無視して、シオは尋ねた。
「あの男は何者だ」
「何だ、まだ気がついてないのか……」
「……」
 シオが黙ったことに優位を感じたグラは、額の冷や汗に気づきながらも口の端を歪めて微笑んだ。
「あの方は偉大な”闇王”様のDNAを受け継ぎ、ここの最も戦闘力のあるDNAを注入して出来た。闇王様の仮の姿だ」
「何の目的で……」
「お前だよリグラス……、お前の能力が欲しいんだ」
「……」
 この男は知っている……それも幹部候補だったから致し方ないか……、シオはそう思った。
「闇王様の側にお前がいると無敵では無いか……、それに……」
「それになんだ」
「お前の欲しがる情報も持っていると言ってたが……」
「何のことだ」
「わ、私は知らない」
「言え」
「知らない! そんなことまで闇王様が私に喋るわけ無いだろう!」
 その狼狽ぶりから、グラの発言に偽りは無いだろう……、あの何もかも見透かしたように尊大で冷酷な男が、このぐらいで焦っているこの男に何もかも話すわけは無いとシオは思った。
「どっちにしろ、お前はもう終わりだ」
「待ってくれ! リグラス、待ってくれ! 私たちは協力できるんだ! 物理科学は無限の可能性を秘めている、私の作り出す人間兵器を見たか! あの力を! 私たちは世界を変える事が出来るんだ!」
「そんな事は監獄で言うんだな」
 容赦ないシオの声が、風の音しか聞こえない辺りを静かに制した。
 そして次の瞬間、その場から引き剥がされるようにしてスミエ・グラはスカイ・ポリスの前に突き出された。




 相変わらず地上で暴れ狂う男の背後に回ったシオは、陽、木先生にブレスを翳しながら、男の身体にそれを入れるとジェスチャーで合図した。
 頷いた両先生は男に同時に手を翳すと、陽先生は身体を動けなくし、目先生は地面を裂いて男の下半身を埋めてしまった。
 シオはその隙に、一瞬で男の背中にブレスを入れて、素早くその場を立ち去った。
 目論見通り、男の動きは封じられ、必死になってもがいている。
 しかし、能力が消えても男の怪力だけは衰えず、今にも地面から這い上がってきそうだった。
「今の内に手錠を掛けよう」
 男に向かう先生たちを尻目に、シオは青の元へ急いだ。




「シオ! もう、殆ど青の息がないんだ!」
 相変わらずバーディーが泣きじゃくっている。
 その肩を抱きながらトオルも、タイガも絶望に言葉も出せずアスファルトの上に座り込んだまま項垂れているた。
 シオは青の傍らに跪き、止まり掛かっている心臓に手を当てた。
 数十秒手を当てていただろうか……、ドクンっと胸が動いた。
 信じられない思いで、みんながシオの顔を見た。
 でも、シオは青の顔を見たまま表情ひとつ変えない。
 それからシオは銃が貫通した青の腹部に手を持って行く、そして、シオが目を閉じた瞬間、青白い炎がその手の平からゆらゆらと揺らめいたかと思うと、光は腹部にどんどん吸収されて行く。
 皆んなから驚きの声が漏れた。
 何が起こっているのか、まだ把握できなかったが、誰もが青が癒されて行くような気がしていた。
 再び大きな爆撃のような音がして、通りが瓦礫と爆風に包まれた。
「ちっ」
 シオは悪態を吐いた。
 男は大人しく捕まらなかったらしい……。
 そして、地鳴りがしたと思ったら上空から瓦礫が落ちて来た。
「危ない!」
 トオルが再び植物で傘を作って防御した。
「ここはもう危ないよ」
「駄目だ……、今は動かせない」
 シオは頑として動く気配は見せず、青に手を翳したままじっとしていた。
 その時、青の指先が少しだけ動いた。
 ハッとして一同の目が見開かれた。


「青! 青! 目を開けて!」


 バーディーが叫ぶのと同時に、今度はビルにオートモービルがぶつかり、ビルの頂上が吹っ飛んだ。
 その残骸が頭上から落ちてくる。
「うわぁーーっ、まずい! 落ちて来る!」
 皆が二人を庇うように身体を寄せた。


 ――が、何時まで経っても瓦礫は落ちて来なかった。


 顔を上げたバーディーが、驚いて叫んだ。
「瑠華ーーーーっ」
 制服姿のままで大通りの道路の真ん中に立って、ビルの崩壊を止めているのは瑠華だった。


「あんた逹、何やってんの、そんな所で」


 蹲る三人を見て呑気に尋ねたが、どうやら青の姿は瑠華には見えないらしい。


「瑠華! そのままオレたちを守ってくれ」
 シオが横を向いて叫んだ。
「いいけどー、先生たちも大変そうなのよね」
「瑠華!」
 シオが怒鳴った。
「何よ! 分かったからそこにいなさい。落ちてくる残骸は防いであげる」
 そう言うと、瑠華は取り合えず、今抑えている残骸を通路の脇に飛ばして、前方で戦う先生たちを見ていた。
 その隙に、シオは全身全霊、青に命を吹き込んで行く。
 辺りは青白い炎に包まれていた。
 ”これが幻の治癒力か……”そこに居る誰もがそう思っていた。
 それから数分経っただろうか……、皆が見守る中やがて青の目がゆっくりと開いた。
「青ーーーーっ!」
 バーディーが叫んだ。
「おれ……」
 皆が神妙な顔して自分を見下ろしているので、青は何があったか考えを巡らせようとした所、傷が癒えたか確認しようとしたシオに、服をたくし上げられ頭を上げて言った。
「何すんだおまえ」
 打って変わって余りの元気良さに、タイガが苦笑いを零した。
 青とシオの目が合う。
 しかし、青の言葉を無視してトオルに着ている上着を脱ぐよう言った。
 トオルも言われるままに上着を脱ぎ、その意図に気がついて青にそれを着るよう言いつけた。
「動けるか? 青、その汚れた服を着てこれを着ろ」
 青はゆっくり起き上がると、自分の服に穴が開き、真っ赤な血にまみれているのを見てぎょっとした。
「な、何だこれ……」
「いいから早く! これを着ろ!」
 トオルにきつく窘(たしな)められて渋々言うことを聞いて、服を脱いだところ、青の身体の傷は完全に塞がり、後さえも残っていなかった。
 皆が息を呑んだ……、そしてその傷一つ無い肌の完璧な様子に誰もが言葉を失っていた……。
 しかし、今度は反対に、壁に凭れたシオは青ざめて苦しそうだった。
「シオ大丈夫か?」
 バーディーが尋ねた。
「ああ、今回はちょっと酷かったからな……これをした後はこうなるんだ……大丈夫だから……」
 壁に凭れたシオは、目を閉じたまま静かに答えた。
「ちょっとー、あんたたちそこで何してんの? もういいでしょう? 私先生の所に行くわよ」
 相変わらず、瑠華は道路の真ん中に仁王立ちして、前方を見据えて言った。
「ああ、ありがとう瑠華」
 バーディーが元気良く返事をした。
 青は服を着替えながら思い出していた、そう言えばオートモービルが落ちて、シオが助けに来て、それから……。  
「あーーーーーっ」
「びっくりしたなぁもう! 驚かさないでくれよ青!」
「トオル! おれ銃で撃たれたんだ! おれ撃たれて……」
 青はその撃たれた腹部を見やったが、傷はどこにも見あたら無かった。
「おれ確かに撃たれたよ……もう、死ぬんだと覚悟したんだけど……、この血がそうだろう? ……でも傷が無い」
 パニックに陥りそうな青をタイガが諭した。
「そうだよ、お前は銃であの男に腹を二発も撃たれて、瀕死の重傷だったんだ……、この服を見れば分かるだろう?」
 そう言って、タイガは今青が脱ぎ捨てた真っ赤に染まったシャツを見せた。
「じゃなんで傷が無いんだ? それに俺生きてるし……、えええええ、もしかしておれ死んでるのか?」
「アホか……」
 何時ものアホ節が、戻ってきたことに皆は安堵と、溜息を同時に吐いた。
「それになんでこいつがこんなに苦しそうなんだ?」
 青は俯いたまま顔を上げようとしないシオを見て言った。
「それは、お前を助けたからだよ」
「どうやっ……」
 その時、青は思い出した。
 青い光に包まれたかと思うと、自分に手を翳しているシオが目の前にいた。
 バーディーの泣き声や、トオル、タイガの声もした。
 しかし、シオはじっと手を翳していて、それがとても暖かくて心地が良くて、遠くに沈んで飛びかかっていた意識が、やがてはっきりとしてきたのだった。
 いつも怒ってばかりのシオが、やたら真剣な顔しておれを見下ろしていた。
 そして、”戻って来い”と呟いていた……何度も……、だからその声に導かれるように、おれはお前の元に戻って来たんだ。
 シオ……。
「お前……、その力は”癒しの……”」
 言いかけた青の口を皆が慌てて塞ぎに掛かった。


「言うな」
 タイガに睨まれた。


「だから……使いたく無かったんだ……」


 シオがポツリと言った。


 そして絶望したように、疲れきった瞳を青に向けて言った。


「ここに居られなくなるから……、だから本当はお前を助けたく無かったんだ……」
 そう言って、悲しそうなアイスブルーの瞳が青を睨んでいだ……。

 



                    ……To be continued


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