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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   33. 崩れ落ちたタワー

 
 突然の衝撃に、青は何が起こったのかわけが分からなかった。


 ただモービルの壁が拉げた車内から、みんながもぞもぞと身体を動かす様子を見て、命だけは助かったんだと安堵した。
 車道に落下した衝撃で青は足を痛めたが、他はなんとも無く、オートモービルの車内の真ん中に柱のような物が突き刺さっているのを見て、それが原因でモービルは落下したと言うことを理解した。
 そして、呻きつつ起き上がろうとしているルームメイトの姿を見ても、大した怪我は無さそうに思えて一応に安堵した。
「……みんな大丈夫か?」  
 トオルがまず声を出した。
「大丈夫だ……」
 椅子から滑り落ちたタイガはそう言って起き上がりながら、同じく側でうつ伏せに倒れているバーディーに手を貸している。
「僕も大丈夫だよ、青、青は?」
 青は既に立ち上がっていて、亀裂の入った壁に手を翳して、ゆっくり指を動かすと、その隙間を徐々に広げて行く。
 車体は軋んだが人が通れるくらいの出口は作れた。
 すると、亀裂の向こうにいきなりシオが現れた。
「大丈夫かみんな?」
 外からシオが声を掛けてきた。
 真っ青な顔して、一生懸命外から出口を広げようとしている。
「大丈夫だよみんな怪我はたいしたことは無さそうだ、今から皆を出すから……」
 青の言葉にシオは僅かに頷いた。
「早くみんな出て! 抑えておくから」
 青は皆が通りやすいように、壁を広げて押さえながら言った。 
「ああ、ありがとう」
 まずバーディーが出て、トオルが出た。
 そして、タイガも続いて、次に青が出ようと思ったその時、再びオートモービルが何かの衝撃を受けて、道路の上を何十メートルも火花を散らして滑るモービルの中で、青は床に転がり揉みくちゃになっても、どうにか奇跡的に命は助かったようだった。
「うわっっっっーーー、痛てててて」
 思わず声が出たが、やがて殆ど原型を留めていないだろう、オートモービルが止まるのを感じた。
「止まったか?」
 青は起き上がろうとしたが、足に激痛が走って起き上がれなかった。
 頭を持ち上げて足元を見てみたら、壊れた座席が青の右足を重していた。
 何が起こっているのかさっぱり分からない、外は緊急を告げるパトカーやサイレンの音が鳴り響き、何やら賑やかになってきたが、身体が動かない青は寝転がったまま、歪んだ天井を見ることしか出来なかった。
「――つっ、痛い……、これマジやばくないか?」
 どうしたものかと考えていたとき、フッと足に掛かる重圧が取れた。
「どうして、そんなところで寛いでいるんだ?」
 いつの間にか現れたシオが、あっさり椅子をどかして、歪んだモービルの中、折れ曲がった手摺りを掴んで身体を支えながら青を見下ろしていた。
 こいつ意外と腕力あるんだ……、なんて青は相変わらずぼんやり考えていた。
「何があったんだ?」
「例の男が暴れてるんだ……、今、タイガたちが向こうで足止めしてるけど、時間の問題だ。あいつは強すぎる! でもお前は奇跡的だよ、あんなに転がってそのくらいの傷ですんでさ」
 シオは青に覆い被さっている金属片をどかしながら手を差し出した。
「みんな大丈夫か?」
「多分な、そんな悠長なことを言ってる場合じゃないぞ、速くここから脱出しないと何時彼奴か戻ってくるかわかんねぇからな、さあ、さっさと手を出しな」
 青が上半身を起こして、シオに手を差し出そうとした瞬間、モービルの上に何かが落ちてきたような強い衝撃が走って車体が揺れ、それにより天井がグニャリと曲がり始めたので、とっさにシオは後方の壁、青は前方の壁へと別々に回避しなければならなかったが、あっと言う間に車体は真ん中で完全にひしゃげて後に小さな隙間を作り、シオはその中で捕獲されて檻に入れられたかのような狭い空間に一人取り残された。
 モービルはまるでクシャクシャに握り潰した紙のようで、縦横無尽に折れ曲がった金属壁はもう殆ど原型をとどめていなかったが、青の方はモービルの外壁が剥がれたせいで、何時でも逃げようと思えば逃げられる体勢にいた。
 ――がしかし、大男は青に構う筈もなく、当初の目的通りその後方の隙間に手を入れて、今にもシオを掴んで連れ去ろうとしている。
 少し触るだけでテレポート出来るからだ。
 それに一足早く気づいた青が、床に転がっていたパイプの切れ端を操り、男の背中に突き刺したが、それは虫に刺されたくらいの威力でしかなかったようで、男は残忍な笑みを顔に宿して金属が突き刺さったままの格好で、辛うじて幾分平らな前方の壁を背に張り付いていた青の方に向き直った。



「何のマネだボウズ」
 そして、銃の照準を青の胸の辺りに合わせて突き出した。


「やめろ、……やめろお前! オレが狙いなんだろう?」
 崩れ落ちた金属の隙間から、シオが男の背中に訴えるも、男は全く意に介していない……。
 シオはテレポートで青を助けようとしたが、ふとポケットにあるはずのブレスケース無い事に気がついて、あらゆるポケットを探したがどこにも入っていなかった。
 しかし、ここにケースを置いていくリスクは冒せない。
 ケースがあれば奴の能力を自在に操ることができるからだ……、シオは慌てて辺りを見渡すと、崩れた車内の奧でケースが転がっているのを見つけた。


”クソッ!”


 さっきの衝撃で転がった拍子にポケットから落ちたのだと思うと、悪態が口を衝いて出た。 
 近くにある折れたパイプを手で掴むとブレスケースを引っ張ろうとしたが、慌てている為か上手く取ることが出来ない……、こんな時、念力が使えたらどんなにいいだろうか。 


 シオは珍しく焦っていた……。


 速く、速く!
 速くしないと、青の命が危ない……。




 ”ま、まずい……かも……”青の心臓はバクバクと音を立てていた……。


 そして、背中に凍り付くような冷たい感触を抱えて、目の前に突き出された銃口を見つめながら、念力で男の手からそれを外そうと集中したが、男は意に介した風もなく、そのごつごつした手から銃は微塵も動かなかった。
 これが能力の差だろうか……、何せスカイ・ポリスでも一、二を誇る陽先生の能力を持った男だ。
 青は為す術がないことを呪う。
 もっと真剣に陽先生の授業を習っておくんだった……。


 ”チクショ〜”


 男はそんな怯む青の顔を真正面から嘲笑っている。


「小僧、ちょっと能力が使えると思ってナメんじゃない。おぞましい程の恐怖と激しい激痛に身悶えて死ぬがいい」」


 そう言うと、男は不気味な笑いを零しながら、射竦められたように動けなくなっていた青に向けて容赦なく銃を発砲した。


 ようやくケースを手にしたシオが、壊れて入り組んだ金属片の隙間から向こうの様子を覗いた瞬間の事だった……。



 鈍い音が、青の身を貫く音がした……。


「青ーーーーーーっ!!!」


 シオの声がこのビル街に木霊して、聞こえた者は誰もが固まった……、シオの大声なんか聞いたことが無かったからだ。
 先ほど男から右足の骨折という致命傷を負わされたトオルは、男をここに引き留められなかった力の無さに落胆しつつも、吹き飛ばされて軽い脳しんとうを起こしていたタイガを、バーディーと一緒に路上で看病していてその声を聞いた。


「な……なん何だよ……」


 それは余程のことがあった証なのだと……、トオルは凍り付き、声がした方向を振り向いた。
 その顔は血の気が失せて、今にも倒れそうに青ざめている。
 バーディーに至っては身体が震えて言葉も出なかった……。
 

 一体向こうで何が起こっているんだよ……?






 背後の壁に血糊を付けながら崩れ落ちた青の身体は、人形のようにその場にズルズルと横たわり、銃弾を受けた胸からドクドクと血を流し続けていた。
 そしてあっと言う間に、青の身体の下にドス黒い血だまりができつつあった。
「青、おい、青!」
 青の名を呼んでも何の反応もないことに、シオはヒタヒタと恐怖を感じる……。
「そんな所でごちゃごちゃ言ってないで、こっちに来やがれ小僧」
 男はそう言いながら再びシオの方に振り返るとこちらに向かって歩いて寄って来る、そのチャンスをシオが見逃すわけは無く、密かにブレスをケースに仕舞うと、一瞬にして青が居る狭い後方に移ったと思ったら、青の腕を掴んだとほぼ同時に、あっと言う間に二人の身体は狭い車内から、外のビルの裏へと移動した。
 

 そこでシオは男のテレポートを警戒するために、慌ててブレスをはめながら素早く青の側に跪くと、意識があるか確かめた。


「……青! おい青!」 


 その時、シオの腕に抱かれた青の瞳がゆっくりと開いた。


「だい……じょ……ぶ……」


 青はそれでも大丈夫と言って笑った。


”バカ……、全然大丈夫じゃないくせに……”シオは青を見下ろして思う。


 あの至近距離と、流れる血の量から、もう医療室に運んでも、青が助かる可能性が低い事をシオは知っていた。
 見る見る血の気が失せる青はそれでも微笑んでいる。


「お前が……とも……だちと……認め……なくても……」


「やめろ、喋るな!」


「おれ……は……、とも……だちだと……おもって……る……か……ら……」


「分かってる! わかってるから、もう喋るな!」
 シオは血でどす黒く染まった青のシャツを捲って傷口を確かめると、顔を顰めながらそこに手を充てた。
 徐々に熱を失いかけている身体は、冷えつつあった……。
 それを手のひらで感じながら、シオはゆっくりとつぶれゆく青の瞳をじっと見ていた。
 普段は好奇心でクルクルと良く動く黒い瞳孔に、自分の顔が移っている……。


「……あっ……たかい……よ……」


「バカ……、喋るなって言ってるだろ!」
 容赦なく叱りつけるも、間もなく青の腕が力なくアスファルトの上に落ちた。
「オレのせいだ……ごめん……遅くなって……」
 シオはそう言って、青の身体を掻き抱いた……。 


 よろめきながらも駆け付けて来た、トオル、タイガ、バーディーが青を見た時、青は既に意識を失っていた。
 シオと青はどっちがどれほどのダメージを受けているのか見分けが付かない程に、ふたりとも血にまみれていて、その血の量に三人は言葉を失った。
 獣のような男はシオに逃げられた苛立ちを隠そうともせず、念力でモービルの残骸もろともアスファルトを捲り上げて吹き飛ばしている。
 男を見定めたシオは、青の身体をバーディーに任せて立ち上がった。
「シオ、青を早く病院へ!」
 バーディーが悲痛な叫び声をあげた。


「もう、間に合わないよ……」


 この状況に動じた様子無く、冷静にシオは答えた。
「何言ってんだ! 今、連れて行けば間に合うよ」
 バーディーも言葉にはしてみたが、ピクリとも動かない青の身体は青ざめていて、タイガもトオルもその言葉が慰めでしか無い事を認めるのが辛かった。
 青の口からは、さっきから止め処なく血が流れ出していた。
「あのビルの谷間に連れて行く……、お前らは、スカイ・ポリスか応援が来るまであの男を足止めしといてくれ……」
「それでも……、どうして病院に連れて行かないんだよ!」
 激怒したトオルがシオの肩を掴んだが、それを振り払って言う。
「病院に連れて行ったら死ぬ」
 シオは決然とそう言った。
「何言ってるんだよ……、こんな所に青を置かなくても……、早く、早く安全な場所へ……シオ、お願いだよ……」
 バーディーは泣いて青にすがり付いていたが、シオは彼を払いのけて上着を脱ぐとそれを青に掛け、為す術も無いような命が消えかかったその身体を抱いた。
「青、行くぞ」
 勿論、青の返事は無かったが、シオは強引にその場から青を連れ去った。




 高層ビルを挟んだ大通りの真ん中で、地中から這い出てきたかのような植物に捕らえられた男だったが、自在に操る念力によって、巻き付いた蔓をあっさり剥ぎ取ると、手を振り翳して、辺り構わずビルを崩壊していた。
「小僧! どこへ行った! 出て来い!」
 手の平でタイガが炎を集めて男に集中砲火するも、男は防衛術も扱えるのかあっさり跳ね返して、平気な顔して笑っている。しかも、瞬間移動できるので、火炎ナイフを投げても簡単に躱している。
「くっそ〜」
「無理もないが、三人の力を持つとなると最強だな……」
 呆然と立ち尽くす、タイガの横でトオルが呟いた……。
「青はどうなったんだろう……」
「一体、あいつは何を考えてるんだ! どうして医務室に連れて行かない……」
「移動は負担が掛かるから……、タイガ……お前も見ただろう、あの出血じゃ……」
 その時、油断していた二人の足元がぱっくり割れて、アスファルトが捲れ(めくれ)上がり、奈落のように暗い底が口を開けている場所に、転がり込む寸前シオに引き上げられたふたりだった。


「危ねぇ……ありがとうシオ」


 そして、漸く空の護送機から特殊部隊が降りて来るのが見えた。
 彼等は瞬く間に地上に降りてくると、あっと言う間に男を取り囲んだ。
「やっと来たか……」
 タイガは悔しいけど、ホットせざる得なかった。
「シオ、青は……?」
 トオルの問いかけには答えず、辺りを警戒しているとテレポートでいきなり男が現れた。
 本当にその能力を自在に操っている。
「どうやって、オレを連れて行くつもりだ、ここは水硬石が張り巡らされていて、脱出は不可能だ」
「心配に及ぶまい……」
 そう言いながら、電波塔の玄関に設えてある時計を見ていた男はニヤリと微笑むと、いきなり上空を見上げた。
 すると、丁度その時、物凄い爆音が轟いたかと思うと、水硬石でバリアを張っているビルの一角、電波塔のアンテナを張り巡らしてある先端が木っ端微塵に吹き飛んだ。
 辺りに居た一般の人々から、驚きと悲観に暮れるうめき声が上がった。
「これでどうだ? 我々は行き来自在だ。もうこれ以上被害を出したくないだろう? お前の為に何人の犠牲者が出ると思うんだ? これ以上街を崩壊させたくなかったら、早くこっちに来るんだな」
 男は指でシオに側に来るよう合図した。
 全てが計画されていて、仕組まれている。
 男の背後に特殊部隊や陽、木先生が来たのを確認したシオは、手を後ろに回して密かにブレスを嵌めると、その手を男の前に差し出した。
 あまりの素直さに訝しがる男だったが、それでも疑い深そうに様子を見ながら一歩だけ近寄った。
 それを見ていた皆の息が止まる、シオのブレスは確認できていても、実際どうなのか不安だったからだ。
 そして、男のごつごつした獣のように大きな手ががシオの腕を取った。
「そうだ、良い子だ」
 満足そうに微笑んだ瞬間、男の顔が急変した。
 やがて、その顔は怒りでどす黒く豹変し始める。


「どういう事だ……」


 シオの腕を握る手が、更にきつくなる。
「小僧……何をした……」
「何も……、オレの近くに居る限り、その能力は発動しないってことだけさ……」
 男は何気なくシオから手を離した。
 テレポートできるのか試しているようにも見えたが、ブレスの有効範囲は十メートルで、今の距離だと全く能力は発動できない。
 その狼狽する男の隙をついてスカイ・ポリスが銃を発砲したが、それは男の背中に当たっても服が衝撃を吸収するだけで、男の身体には何ら打撃すら与えることができない。
 その全身黒尽くめの服装こそが、あらゆる銃から身を守る事が出来る特殊素材でできている防御服で、それは研究所以外で手に入る代物ではない。
 そこまで流出した極秘機密のずさんさに、スカイ・ポリスの面々は勿論、国家警察長から防衛庁の幹部全員がモニターの画面を見て驚愕していた。
「クソどもが! お前ら国家警察が如何に無力かということを思い知ったか!」
 男は大通りの真ん中で仁王立ちしてひとしきり笑うと、シオの方に向き直り凄んで言った。
「さあ、さっさとこっちへ来な」 
「言っただろう、お前はオレを連れ去ることはできない」
 一切の感情を取り払った冷静な顔をしたシオは、一メートル以上頭上にある男の醜く歪んだ顔を見ていた。
 二人の距離は凡そ五メートル、恐らく腕力では全く歯が立たないだろうことも知っている。
 能力が使えないと言うのにどうするつもりなのか、冷静に考えないと危害が及ぶ。
 その時、男は上空に向けて何かの合図のように手を振りかざした。
 シオが上空に目を奪われた瞬間、男の手がシオの腕を掴んだ。
”ミスった、不味いな……”
 そう思ったのも束の間、遙か上空に待機していただろう飛行艇が雲の間から現れるや否や、テレポート用の光のチューブを地上の二人目掛けて降ろしてきた。
 それに捕まると、シオはあっと言う間に船内に連れ込まれると判断したスカイ・ポリスの面々が、上空の飛行艇目掛けて攻撃をするも、飛行艇はバリアが張り巡らしてあって、爆風に揺らめいてはいるがどんな致命傷も与えるに至らない。
 ただ、そのせいでチューブは目標をそれて二人を捕まえきれない。
 流石に男も苛々が募り始めて、シオの腕はきつく掴んではいたが、上空を見据えたままになっていた。
 その隙にシオは陽先生と目配せをして、ブレスを外す事を告げる。
 そして、陽はスカイ・ポリス全員に男の能力が解かれる事をマイクで告げて、再びシオに向けて頷いた。
 シオも頷いた。


 そして次の瞬間、男の腕から一瞬にしてシオが消えた。


 手の中の少年が消えた事で男の怒濤の怒りにかまけて念力が発動し、再びアスファルトが凄い勢いでメリメリと捲れあがったかと思うと、その大きな固まりが辺りに容赦なく投げつけられた。
「チッ……、捕まえきれなかったか……」
 シオは、この日何度目かの悪態を吐いた。
 男は明らかに用意周到で、内部にかなり精通しているのは見て取れた。
「どういう事だ!!! グラーーー!」
 叫びながら手を翳して、次から次へと辺りのオートモービルや街灯を飲み込み、竜巻を起こして空高く巻き上げて行く。
「うわぁ、まずい! あれが振ってくるかもしんねぇ!」
 いち早く我に返ったタイガが、何もかも飲み込んで巨大化している竜巻を、呆然と見上げている二人の腕を取って走り出す。
「トオル、シオ! 取り合えず、ビルに隠れよう」
 振り向くと陽先生が手を翳して、男を阻止していた、これ以上竜巻が大きくなると街が潰れてしまいそうな勢いだ。




 そして、三人は走った。
 漸く青が横たわるビルの歩道まで辿りつくと、その横で泣き叫ぶバーディーが目に入った。
「シオ! 青が死んじゃうよ!」
 全く意識の無い青は、血の気が失せて息をしていないかのように思えたが、シオが胸に手をやると、微かに胸部が上下した。
 それを見たバーディーの瞳が希望に見開いた。
「大丈夫……」
 青の胸に手を充てたまま、シオは静かに言った。
「何が大丈夫だよ……、このままじゃ死んじゃうよ! 青が死んじゃう! 早く病院に連れてってよ」
 タイガもトオルも、シオの言葉の真意を疑ったが、どう考えてももう施しようの無いことは目に見えて明らかだ……。
 青ざめて生気を無くした顔に、呼吸してるのかさえ分からない胸の微かな動き……。
「バーディー……そんなに青を動かすな」
 青を揺り動かすバーディーを、優しく諭すトオルの目から涙が零れた。
「あお……」
 絶望的な気分で、バーディーは嗚咽(おえつ)していた。
 辺りには爆音が続いていた。
 時折、パラパラとビルの破片が足元に落ちて来る。
「うわぁ」
 上空に舞い上がった壊れたモービルの金属片が束になって落ちてくるのが見えたが、それは素早くトオルが植物を生やしてブロックした。
「あ……、危ねぇ……」
 タイガが額の汗を拭う。
 その時、すくっとシオは立ち上がった。
「もう少しだけ、ここで青を守っていてくれ、それから助けるから」
 シオはきっぱりと皆に告げた。
「でも……もう……」
 バーディーはトオルに肩を抱かれて泣きじゃくっている。
「大丈夫だ、バーディー、青はオレが絶対に助けるから」
「シオ……」
「手でも握っておいてやれ……」
 意外にもシオは微笑ながらそう言うと、次の瞬間その場を後にした。


 シオが去った後、三人は青の手を取り握りしめた。
「あいつ……なんか今、すげぇ頼もしくなかったかタイガ?」
 トオルが呆然と言った。
 タイガの口元が少しだけ緩む。
「ああ、そうだな。俺も青は助かるような気がしてきた……」
「そうだよな……」
 涙を浮かべたトオルの顔に、少しだけ笑顔が漏れた。
 


 口に出した言葉が、たとえ気休めであろうとも、みんな希望は捨てたく無かったのだ……。
 


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