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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   32. 消えた傷跡

 

 休日ともあって街は学生たちでごった返していた。
 どの店に入っても、学園の制服を見かけたし、少し大人っぽい私服の人々は学院生だろうと思われて、専門分野の書籍等を扱っている店へと足を運んでいるようだった。
 ただ、学園都市への出入りは自由なので、身分証があればここに関係無い者でもやって来て、街を散策して楽しむ事ができたから、休日ともなれば大型商業複合施設の電波塔に登って、そこからの景色を眺める事や、宇宙工学研究所のタワーでは、世界一とも言われる巨大な望遠鏡で、星の観察などが出来るツアー等も組まれていたりと、商売気ありありのツアーデスクが、終始一般者向けに様々なイベントを考え出していた。
 よって、ここはには地上と変わらぬ店構え、品揃えと言った、普通の生活の場がここにはあった。
 学園で使われるゴーグルや、エアー・ボードと言う、同じ商品を誰もが手に入れて使用できるので、そんな特別な商品をここへ買い求めるにやってくる人々も多いのだった。
 一般の流通ルートでは簡単に手に入らず、態々ここへやって来て購入しても価値のある商品ばかりだったので、学園の生徒以外の者にはとても貴重な品と写るのは確かだった。
 だから青がここに来て何を見ても驚くことばかりなのは、まるで住んでる世界が違うように感じて仕方が無いことなのである。


 幾つかの店を梯子して、青たちが店から出てきた所で、梨子とノノアにばったり会った。
「あら! みんな来てたのね? 私たちこれからランチ食べに行くんだけど、一緒に行かない?」
 にこにこしながら近くにやって来た、梨子とノノアは制服で、手には買い物袋が幾つかぶら下がっている。
「あー、おれも腹減った〜、行こうよトオル!」
「そうだね」
「決まり!」
 梨子が嬉しそうに言う。
「オレ帰る」
 それに水を差すように、シオが言葉を添えた。
「えーーーなんで? 折角、街に出てきてるんだから、一緒に行こうよ」
「そうだよ、コイツのこと気にしてんのか?」
 青の頭をボコッと小突く。
「痛てぇじゃないか、何しやがるんだトオル」
「コイツはこんなんだから、放っとけ」
「何? 何かあったの?」
 梨子が尋ねたが、口を閉じたまま喋ろうとしないシオを見て、青が言った。
「わかった。今は休戦しよう、ご飯が不味くなるかなら」
 そう言って、手を差し出したが、シオはじっと見ているだけで、握り返そうともしない……。
「まーまー、いいじゃない。一緒に行きましょ!」
 梨子は気まずい空気を払うように、シオの腕を取ってビルの中へ、半ば強引に入って行った。
「あ、あのやろう……」
 青は拳を作って振り上げたが、トオルとバーディーに制された。
「元々、シオはあまり喋る方じゃないから、それに……」
「わかった! もうあんな奴は知らねぇ」
「青はね、シオに構い過ぎなんだよ、分かってないんだから」
「構うも、なんも、仲間だから仲良くしようと、思ってるだけじゃないか!」
「お前、いい加減にしろよ、シオは外出禁止命令出てんだぞ、そんなに騒ぐな! そういったことも、アイツにとってお前はウザイんだよ」
 タイガが冷静にそう言うと、青は何時もの通り大人しくなる。
 そうなのだ、シオに外出禁止命令が出ている事をすっかり忘れていた。
 もしも、誰かに見つかったら大変だ……、そう思うと、青はぐうの音も出ない……。
「何で、いちいちお前を説教しなきゃならないんだよ……」
 そうぶつぶつ言いながら、タイガは先に歩いて行った。
「だから、もうシオにあまり構うな……」
 側に来たトオルがため息を吐きながらそう言った。
「お前はそれでいいのかよ」
「何が? お前はいったいあいつに何を求めてるんだ? 一旦、拒絶されたらそれに従え」
「そんな事……」
「これから先、俺たちは嫌でも色々協力しながら、やっていかなくてはならないんだよ……、引くところは取り合えず引け」
「でもさ……」
 青が言いかけるのを、制止してトオルは続けた。
「焦るな」  
 間近でそう言うと、トオルもスタスタ中へ入って行く、後に取り残されたバーディーと青は、仕方なくその後を追うのだった。


「”オロオロ鳥の甘辛林檎タワーソースランチ”って、何だ?」
  何時ものように、青が不思議がって尋ねると、横に座っていたバーディーが説明した。
「そのまんまだよ青、オロオロ鳥は知っているだろう? 地上で一番美味しいと言われている鳥で、それをから揚げにして林檎ソースを掛けて食べるんだよ、タワーソースと言うのは、ソースを入れた容器が電波等を模した物なので、そう言うネーミングなんだ。如何にも観光客が喜びそうだろう?」
「ちぇっ、もっと普通に書いてくんないかな」
「青はそれでいい?」
「うん」
 梨子がテーブルの上の立体映像画面に触れて、みんなの注文を入力している。
 その時だった、トオルが椅子から身を乗り出すようにして青を見た。
「ん? んんんんん?」
「な、なんだよトオル……」
 目の前の席で、青を見て驚いている。
「お、お前……頬にあった傷は?」
 一斉にみんなの視線が青に集まった。
「ほ、本当だ! 無いよ、消えてる!」
「うそ」
 青は指で傷があった頬の辺りを撫でたが、何も引っかからなかった。
「ほら、鏡で見て」
 梨子が渡した手鏡で見てみると、本当に見事なまでに傷は消えて跡形も無い。
「どうしてかな……?」
「嘘だぁ〜、朝までは確かあったぞ」
「うん、僕も知ってる。さっきまでは確かにあった」
「あ……」
 そこで青はふと思い出した。
 アントンが触れたんだった……。
「そう言えば、言っただろう? さっき変な男の人に会ったって、トオルは見なかったみたいだけど、その人がさ触れたんだよ傷に、”触ってもいいかな?”って言うから……、別にいいよって言ったんだ」
「何者なんだよ」
「わかんない、ただにこにこ笑ってただけだし……、アントン・ウィッシュ」
「何が?」
「彼の名前、アントン・ウィッシュ」
「知らないな……」
 みんなは同意した。まるで聞いた事が無い名前らしい。
「でも、良かったじゃない。あの傷、結構長かったから目だってたのよね」
「梨子……」
「いいじゃないノノア、傷が全く無くなって、男前上がったよ青」
「そっかぁ」
 なんて、呑気に嬉しがる青を尻目に、シオは難しい顔をして何かを考え込んでいるようだった。
「そんな呑気に固唾けられる問題か?」
 トオルはタイガに小声で言った。
「……まあなぁ、いったい何者なんだろうその男」
「青、さっきその男がゴーグルを渡してくれたって言ったよね、もしかして指紋が取れるかも知れないから、触らないでくれる?」
 バーディーが言った。
「残念でした、彼は手袋嵌めていたから指紋も、DNAも無駄だよ。でも手袋は採取を恐れてでは無く、全身コーディネイトに必要だから嵌めていたような感じで、悪い人には見えなかったよ、実際、傷を取ってくれたなんて、思った通りだ」
 益々、謎めく人物像にみんなの興味は尽きなかったが、食事が運ばれてきて、食べることに夢中になると、その話はそれで終わった。




 食事が終わって、飲み物を飲む頃になって梨子が青に突然言った。
「青、ノノアって可愛いでしょ」
「梨子! 何を突然言ってるの」
 慌ててノノアが顔を上げて、梨子を見た。
「うん」
「ノノアって青が心配で、いつも青のことばかり言ってるんだよ」
「梨子! そ、それは……」
「そうなんだよ、おれさあ陽先生の授業でもついて行けなくて、ノノアに励ましてもらってんだ」
「……そうじゃなく」
 梨子はピントの合わない青に渋い顔を寄せる。
「駄目駄目、何てったって、青はシオに一目惚れした奴なんだから」
「てめー、トオル! 何言いやがる!」」
 青は慌てて口を塞ぎに掛かる。
「そうなのかぁ? 青!」
 バーディーが嬉しそうに微笑む。
「違うって言ってんだろうが……」
「い、痛いよ、青……」 
バーディーの両頬を、両手で摘(つま)んでいる。
「青くんて……」
 ノノアが驚愕の目をして、自分を見てたものだから青は焦って言い訳をする。
「それは違うぞノノア! おれは決してそんな趣味は無いからな!」
「ぷぷぷ、そう言えば、神殿の食堂で”僕の好みのタイプ”とか言ってたわよね。こっちが恥ずかしくなっちゃったわ」
「うわぁ〜、止めろ梨子」
「白状すれば? シオが好きだって」
「顔はな」
「あら、あっさり認めちゃった」
「だから、”顔”だけだって! 見てみろよ、黙ってるとまるで女じゃん」
 今度はシオが殴りかかろうとする所を、タイガとバーディーが押さえつける番だった。
「てめぇ、いつかぶっ殺す!」
「いや、おれはお前の綺麗な顔に傷は付けたくねぇ」
 青は腕を組んで、自分で言った言葉に妙に納得している。
「こらっ! その誤解を招くような言い方はよせ」
「変か?」
「変だ!」
 皆が苦笑いして頷いた。
「でもさあ、お前、妹か姉ちゃんいないか?」
「いねぇよ!」
 まだ食い下がる青に、辺りは爆笑に包まれた。




 やがて食事を終えた青たちは、まだ買い物があると言う梨子とノノアと分かれ、オートモービル乗り場まで歩いて来ると、丁度、上手い具合にオートモービルが入り口に到着した。
 青やタイガは既に乗り込んでいる。
 勿論、バーディーもあらぬ喧嘩の種になったらいけないと思い、同じく乗り込んで青の横の席に着いた。
「あれ? お前シオと帰んないのか?」
「青と帰りたいから」
 可愛らしくそう言うと、青は心底嬉しそうに微笑んだ。
”相変わらず単純だなぁ”と、苦笑い零すバーディーだったが、そんな彼をバーディーはとても好きだった。
 青はバーディーにとって自分の事を構ってくれ、心配してくれる唯一の友達なのだから大切にしたいと思っていた……。


「シオお前も一緒に帰らないか?」
 トオルが尋ねた。
「オレはいい、じゃ」
「うん、じゃあ後でな」
 手を振り上げたトオルとシオ、二人の間で扉が閉まった。


 その時である!


 シオの目の前で、トオルたちの乗ったオートモービルに、根こそぎ抜き取られた街灯がどこからともなく飛んできて突き刺さった。
 轟音が辺りに轟いた。


「トオルーーーーー!!」


 シオは街頭が突き刺さって、奇妙に折れ曲がったモービルを見て叫んだ。
 

 金属が悲鳴のように砕ける耳を劈くような音と、ビルにぶつかって擦れる悲鳴のように甲高い摩擦の音が辺りに響き渡って、バランスを失ったオートモービルはビルの谷間に落ちて行った……。




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