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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   31. 銀髪のアントン・ウィッシュ

 

 石畳を登りきった場所にある、ゴーグルだけを扱う専門店に入ると、色もサイズも、勿論機能でさえ千差万別な、目移りしそうに膨大な数のゴーグルを見て、目を輝かせていた青の目の前に、いきなりバーディーとシオがテレポートで現れた。
 本当に鼻先を掠って、青が赤くなった鼻を押さえている。
「痛って〜〜!」
「あ、ごめんね青、当たったかな、痛かった?」
 心配したバーディーは、青の顔を覗き込んだ。
「バーディー! おまえ何でここに?」
「シオに連れてきて貰ったんだ」
 嬉しそうに言って、傍らに立っているシオを尊敬に近い眼差しで見ていた。
が、本人は素知らぬ顔して立っている。
「何でぇおまえ! おれがテレポートしてくれって頼んだときは断っておきながら」
「バーディーとお前は違うからな」
「すっごいよ、テレポート! 面白い!」
「ちぇっ」
 青はふて腐れた。
 自分がお願いしても堅くなに拒んでおきながら……と。
「お、バーディーも来たのか?」
「うん」
 棚の影からひょっこり現れたトオルは、幾つかゴーグルの試供品を持っている。
「丁度いいや、研究者の立場からどれが良いか選んでくれよバーディー」
「僕は、ゴーグルに関してあまり詳しくないんだよ」
「まあ、そう言わずさぁ、これ照準が合うタイプだけど、かえって見難いような気もするんだよな、こっち来てくれタイガもいるから」
 そう言って、バーディーはトオルに引っ張って行かれた。
 青がふとシオを見ると、彼がケースからブレスレットを取り出して、腕に嵌めているのを見て言った。
「そっかぁ、ケースが出来たんだ。じゃないとテレポートできないもんな、ちくしょう、おれだってテレポートしたかったのによう」
「まだ言ってやがる」
 シオは鼻で笑ってチラリと青を見た。
「じゃさ、帰りは一緒に」
「嫌だ」
 こちらが狼狽するほどの真顔で、シオは即刻否定した。
「なんだよ!そんな事言ってると、おめぇなんか、もう助けてやんないからな」
「誰が助けてくれと言った?」
「うわっ、……出た。超我侭発言、しかもマジ真顔で……、おめぇ! 本気で言ってるだろう?」
「当然だ」
 アイスブルーの瞳は氷点下の冷たさを宿して、青を見ていた。
「おまえ、絶対! 友達無くすぞ!」
「そんなものいらない」
 シオの衝撃発言に、青でさえ怯んでしまった。
 青は妙に真剣なシオの顔が信じられなかった。
「本気で言ってるな、おまえ」
「そう言ってるだろう」
「ちょい待て! それはおかしいぞ、リグラス・シオ! 友達は大切だ!」
「鬱陶しい、重形青」
 シオは目頭を寄せて、本当に迷惑そうな顔をした。
「何だとーっ」
「それと、オレの半径3メートル以内に入るな」
 そう言って、近寄ろうとする青の額に手の平を当てて静止した。 
「おまえなぁ!」
「煩いぞ! 青!」
 いつの間にか後ろに来ていたタイガが、青の首根っこを掴んだ。
「こいつさ! こいつが……」
「人それぞれなんだ、お前の意見を押し付けるな」
 タイガの意見は、いつも見た目同様に大人びていて、取り合えず青を黙らすには十分だった。
 そこへトオルやバーディーもやって来た。
「青の声は店中筒抜けだ、恥ずかしいったらない、タイガと一緒で良かったよ」
「青、シオは口ほどでは無いんだから、本気にしちゃ駄目だよ」
「バーディー、オレは本気だ。特にこいつに対しては」
「シオ〜」
 バーディーは流石にどちらの味方について良いのか、オロオロしてして両者の顔を交互に見ていた。
 そんな気まずい雰囲気を、切り替えようとトオルは頭を振った。
「ヤメヤメもう〜、この話は終わりだ。シオ、ゴーグル見に来たんだろう? 二、三、良さそうなの見つけたんだ、こっち来いよ」
 トオルはシオにシルバーと黒のゴーグルを渡しながら、店の奥へ促した。
それを掛けて様子を見るシオの後ろ姿を、青は不満顔で見ていた。
 ”友達がいらない”なんて、どうしてあんな真顔で言えるんだろう……、しかも、あの目が本気だったから、余計に腹が立った青だった。


「熱血少年よ……」


 その時、青は背後から声がして振り向くと、窓際で緑のゴーグルを光に翳している男と目が合った。
 光沢の無いシルバーに近い灰色のロングコートを着、同じ色の帽子を被った男が微笑んでいる。帽子からはみ出ている銀の髪の毛は、その胸元に輝く宝石と相俟い、差し込んでくる陽の光に反射して輝いていた。
 そして、男は優雅な身のこなしで青の方に向き直った。
「焦ることは無いんだよ」
 男はニッコリと微笑む。
「日々を重ねることで見えてくることも沢山ある。勿論、目に見えることだけが真実で無い場合もあるけどね」
「おじさん、誰だ?」
「おじさんとは! まだ私は三十代なんだが……、責めて”お兄さん”にしてくれないかな?」
 男は一瞬たじろぎながらも気を取り直すように言う。
「うん、お兄さん、あんた誰?」
「アントン・ウィッシュ、アントンでいいよ」
「学校の人?」
「違うよ。単なる通りすがりの物です」
 そう言って、青にウインクをした。
「おれに何か用なのか?」
「用かい? あるような、無いような……。おや、君のその頬の傷は……」
「ああ、これか? 少し前にレーザー銃が掠った傷なんだ、きっともう直らない」
「触ってみてもいいかい?」
 アントンは興味を持ったのか、傷から目を離さずにじっと見ている。
「うん」
 そして、アントンは触れるか触れないかの所で手を翳し、何かを思案しているように、心ここに在らずと言った風にぽつりと言った。
「……ひとつ、君に教えておこう」
「何だ?」
「”言葉は重要であって、時に意味が無いものだ……”」
 そして再びニッコリ微笑みながら、持っていた緑のゴーグルを青に手渡した。
「これが君に向いているんじゃないかな?」
 青が手の中のゴーグルを見ていたら、トオルが店の奥から青を呼んだ。
「青ーっ、何やってんだ? こっち来てみな」
「うん、今行く……」
 トオルに返事をして、アントンに挨拶しようと振り向いた所、既に彼の姿はそこに無かった。
「あれ? アントン?」
 幾つか棚を抜けて探してみたが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。
 幻のように表れて、あっという間に去って行ったアントンの行方を思って青は呆然と立ち尽くすのだった。


「何やってたんだよ」
「今さぁ、男の人と話をしていたんだ……」
「誰と?」
「見ただろう? 帽子を被った銀髪の人」
「俺がお前に声を掛けた時、お前は独りだったぞ?」
「見なかった?」
 そっか、何時の間に居なくなったんだろう……、不思議な人だったけど、楽しかったなと青は微笑んだ。
「夢でも見てたんじゃないのか? それより早く選べ、みんなもう決めたぞ」 
「これ、どう思う? その男の人が進めてくれたんだけどよう、おれ何が良いんだかわかんなくてさ」
 青が差し出した緑のゴーグルを、トオルは試しに掛けて見た。
「おお、いいね。照準が素早くロックできるし、高度、距離、追尾機能まであるぞ、上級者向けだけど、慣れたら頗る良い品かも知れないな」
「じゃ、決めた。おれはこれにする」
「うん、いいだろう」
 トオルに認めて貰って、青は嬉しそうにレジに向かうのだった。
 アントンは初めて会ったとても不思議な人物だったけど、何故だか青の直感では良い人だと思える確信があった。
 それがどういう理由かと尋ねられても非常に困るが、ただ、単純にそう思えたのだった……。




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