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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 


  2. 最悪の出会い



 
 神殿はオリン岬と言う周りを海に囲まれた、岩盤の広い敷地に建っていた。
 青やセイ達が帰ってくると、そこは何やら人で溢れ返っていて、学校の校庭前には大きな護送艇が止まっていた。
「すっげぇ!」
 青はその護送艇の大きさに圧倒されて、嬉しそうな悲鳴を上げた。
「そう言えば、今日学園の生徒たちが来るって言ってたよな」
 三人は神殿前の大きな灯籠に隠れて、こっそり辺りを伺っていた。
「さあさあみんな、荷物を持ってここに整列しろ」
まだ顔にあどけなさが残る青たちと寸分違わね年齢の、少年少女が足元に置いていた荷物を持って、意外にもきびきびした動作で、声を掛けた教官らしき人物の周りに集まり始めた。
 その紺や茶色、黒といった色の違う戦闘服らしき制服を見た青は、大凡の検討を付けて目を細めた。
「あれってさあ、上の学園の奴らじゃないか? あの特殊部隊を養成する超エリートの学校の訓練服だよな……」
 セイが言った。
”上”とは、地上の莉空地に立つ高層ビルの事でも無く、海上に立ち並ぶ建物の事でもない。
 それは天空に浮かぶ巨大空中都市のことだった。
 そこではあらゆる犯罪に立ち向かえるよう、特別な能力のある者だけを養成し、スペシャリストとして育て上げるアカデミー及び、国家防衛特別犯罪対策のエリートが集まる建物が建っていた。
 特別な能力とは、体術、武術は勿論、魔術や透視力、物体移動、等のあらゆる超能力を含み、犯罪対策の率先力となると判断される程の秀でた能力の持ち主ならば、一芸だけでも入学は可能であったが、そうは言ってもここはスペシャリストの集団、選り抜きの生徒たちであるから、すでに学園へ入学した時から、実践に出ても戦える程の能力を持ち合わせている者が多かった。
 それ故に、とても狭き門なのだ。
 その学園は三部構成になっていて、下は初等科七歳から十二歳までを一学年から六学年とし、そして十三歳から十八歳を同じように六学年で区切り、それ以上は自分に合った専門分野でそのまま実践に就く、実戦経験を積みながら勉学に励んだり、或いは博士号まで勉学に励んだりと、様々な選択肢が用意されていた。
 しかし、優秀で実践能力のある者は、勉学途中であれども任務要請と、本人の希望により現地に赴くことも多々あった。
 何れにしても、彼らはこの国の超エリートと言って過言では無い。
 今ここにいる学生達はその黄金の卵たちで、授業に取り込まれている実践訓練の一環として此処へやって来たのだった。


「さあ、揃ったか? 7チーム各5人編成で、今回は五、六年は上級試験の為に、実践に赴いているので、今回は四学年生がリーダーを務める。と言っても、能力はみんなが知っての通り、年に関係ないからね。後は実践で経験を積み生かすことができるかどうかだ。教官三名、イルモア・レイ教官とフドー陽教官及びスリン・エリ教官が、これから約一時間後にここを出発して洞窟内に潜伏、或いは向こう側タップ岬の方向に向かう……やも知れぬと言うことだ。それは教官が自ら行き先を決めることになっている。彼ら三人はそれぞれ別行動を取るので、一人でも捕まえたチームはその時点で終了、俺に連絡後そのまま引き返してここで待機すること。期限は三日間。今回の選抜チームは勿論先鋭揃いだ。今回の成績は進級試評価に含まれ、7チーム中教官を捕獲できた3チームは勿論、できなかったチームもその方法、活動状況を分析して評価を考慮するので最後まで手を抜かないよう全力であたるんだ。君たちはここで昼食を済ませてから、みんな一斉にスタートする。俺はここにいてみんなの報告、安全、位置を確認しつつ見守ることになっている。万が一、何かトラブルが出た場合は速やかに報告すること。分かったか?」
「はい」
 生徒全員が返事した。
「木(もく)先生、質問があります」
「何だ?」
「今回追跡装置は無いのですか?」
「そろそろ実践に慣れないといけないからね、いつも追跡装置を相手に着けられるとは限らない。今回、君たちに与えられる装置はこの地図ひとつだけだ。と、言っても君らが元々持っているその腕の通信装置、探査ゴーグルはそのまま使用して良し。もう一度装備の点検をして、出発までにチームで攻略方法を思案するんだ。では、昼食まで解散」
 木教官がそう言い終わるや否や、逃亡役の教官らしき人物三人は互いに笑顔を交えながら、エアー・ボードに乗ると神殿奥の洞窟へと入って行った。
 学生たちは各チーム事に年長のリーダーを囲んで円陣を組み、装備の確認や追跡の手順などの話し合いに入った。


 そんな彼らの様子を隠れてずっと見ていた青は、少しばかりの羨望と悔しさを滲ませながら彼らをじっと見ていた。
「相変わらず格好いいよな、二年前にここで爆破事件があった時、犯人を追い詰めてここまでやって来た、特殊警察部隊の人を養成する学校だよね? あの時の隊員はあっと言う間に犯人を捕まえたっけなぁ」
 同じくセイも彼らに視線を奪われたまま言った。
「そうだよね。うわぁ。本当だ!かっこいいなぁ。青が三年続けて試験に落ちた学校でしょ?」
 誠の屈託のない言葉に、青の拳が頭を打った。
「いってーーーっ」
「それは禁句だよ誠、青だって武術は誰にも負けなかったって聞いてるよ、だろ? 青?」
「ふん」
 全く持って不服そうに返事をした。
「じゃ、何が原因なの? あ、試験でしょ! 試験の点数悪かったんだ」
 黙ったまま青に睨み付けられた誠は、自分の口に封をすべく両手を当てた。
「試験はそんなに悪く無かったよ。原因はあいつだ。あいつのせいで落とされるんだ」
 青の視線の先、黒い戦闘服を身に纏い、腕を組んだ背の高い男をセイと誠は見た。
 年は20代前半、茶色の髪を風に靡かせ、その顔に微笑みは宿しているが、目は鋭く人を見透かすような、射すくめる目をして辺りを伺っている。
「あいつだよ。あいつが教官で居る限りオレはきっと受からないよ。ちっ、木京介《もくきょうすけ》……名前も覚えちまったよ」
 彼の周りでは荷物を背や手にした生徒たちが、立ったまま彼の話を真剣に聞いている。 その中の数人が身に着けている黒と水色の制服は、去年の受験に合格したら青も着ることになっていた、憧れの制服であった。
「女の子もいるんだね青。あの肩までの長さの茶色い髪の女の子可愛いや」
 セイが目を輝かせて言う。
 しかし、青はその隣にいるプラチナ・ブロンド色の髪の毛に、アイス・ブルー色の瞳を持った女の子に興味を持った。
さっきからにこりとも、笑顔も見せずにじっと木京介の話に耳を傾けている。不思議な空気を感じるその子に目が釘付けになった。
 少なくとも、青が受験した年にはこんな綺麗な子は居なかったなと、考えていた。
 もし、受かっていたら、今頃一緒に訓練していたはずだと思ったら、青はちょっぴり悔しかった……。
 こんな特別な風貌の女の子がいたら、絶対に気づくはずだ。
「その隣の子の方が可愛いいよ」
 青は言った。
「そっか? まあ、綺麗な顔してるけどな」
「ねえ、ふたりともまずいよ、禰宜様とセザール先生がすごい顔してこっちにやって来るよ!」
 誠が言い終わるか言い終わらないかの後、あっと言う間に側へやって来たセザールは、三人を頭ごなしに怒鳴った。
「こらっ、何度言わせるんだ! 仮病を使って授業をサボるなどと! おまえ達はまったくしょう懲りもない奴だ!」
「いや、先生! 朝は確かにお腹が痛かったんだけど、途中からは直ったんで少し散歩に……」
「バカ者ーーー! 三人が揃いも揃って腹痛とはあり得ん! 首謀者として重形青! これから全校舎の掃除を命じる!」
「ええええーーっ、何でオレ一人なんだよ!」
「首謀者はいつもおまえだからだ!」
「遊んだのはこいつらも一緒じゃんか!」
「校庭100周、猛ダッシュマラソンも追加して欲しいか?」
 セザール先生が緑の目を細めて静かに言うと、青はこれ以上罰を増やしたくない一心で校舎へと走り去って行った。
 勿論、とばっちりを受けたくないセイと誠も一緒に。
 そんな彼らは、広場にいた学園のエリート生徒達の、失笑を買ってる事も勿論知らずにいた……。


「セザール先生、重形青は相変わらずのようですね」
 そう言いながら木が、セザールに近づいて来た。
「あ、久しぶりですね木教官」
 木は微笑みながら、セザールと並んで彼らの後ろ姿を見ていた。
「もちろん青は、今年も受験するのでしょう?」
 その言葉にセザールは顔を曇らせた。
「それがですね……、青は今年はもう受けない言うのです……」
「え?」
「流石に去年三度目の受験に落ちたのが堪えたようで、あの時の落ち込み様は半端ではなかったんですけど、あれ以来勉強は愚か体術の勉強も全くしなくなりまして、授業をサボってばかりで叱咤激励しても、もう奴の耳には入りません。残念ですが本気なんだと思います。」
「彼はまだ相変わらずですか?」
「ええ、姉の瑠華は物心ついた時から力は使えたのですが、青の方はさっぱりでして、流石に本人も諦めたようです。同じ血の流れをくみながら、青はせいぜい念じた小石を転がせるくらいでして、特にこれと言うほどの能力は……こういうこともあるんですね」
 彼の二歳上の姉瑠華は十二歳の時に一発で受験に合格してから、かれこれ今年で三年間修行している。
 元々、念力という未知なる力があったものの頭脳明晰、身体能力抜群でトップの成績で合格した。それに比べて青は体力こそあったものの、勉学も武術もエスケープが祟り、進級すれすれであったし、言われてるように瑠華のような目を見張るくらいの特殊能力は持ち合わせていなかった。
 元来、こういう能力は血統でもあるから姉が持っているなら、同じように持っていても不思議ではないはずなのだが……。
 周りの心配どおり未だ、開眼せずにいた。
 学園とて姉がトップの成績だったとか、特殊能力の持ち主だとかだとしても、弟も何時かは等という浅はかな理由でアカデミーに入学させるほど甘くはない。
 青の後ろ姿を見送る木の顔から笑みが消え、ここに来て初めて彼の顔が曇った。




 神殿の修行者と共にほぼ掃除を終えた青は、最後に大食堂の配膳を任された。
 昼食時とあって食堂は教職者や神職者、そして学生たちで溢れ返っていて、石作りの高い天井に声が響き、いっそう活気を帯びていた。
 みんなの食事が済んだら、青もやっと食事ができる。
「何だってオレだけこんなことしなきゃいけないんだよ、ぜーたい虐めだ!」
「悪いな青」
 トレイを持って並んでいるセイが、肩を竦めてすまなそうに苦笑いした。
 青がぶつぶつ不平を言いながら、白いタブリエを腰に巻いて大鍋のスープをかき混ぜていたとき、学園の学生達の一団がどっと入って来た。
 この食堂は神殿の従者及び、ここで生活をする子供達が一斉に食事を取っても、学園の学生が昼食を共にしても、まだ席は十分に余裕があった。
「お、青、さっきの女の子たちだよ。うぉ、可愛いなぁ」
 列の後尾に、トレイを持って並ぶ赤茶色と、例のプラチナブロンドの女の子を見つけて、セイが目を輝かせた。
 セイは食べ物を選ぶ振りをしながら、自分の後ろに並んだ生徒を何人かやり過ごして彼女らが側にくるのを待った。
「青、俺カボチャスープ大盛りでな」
「残念でした、今日はカボチャスープはもう品切れでした。タマネギスープで我慢しな」
「ちぇっ、もう売り切れかよ。一番おいしいのにな」
 青はそう言って、無理矢理セイにタマネギスープを注いだカップを渡した。
 その時、丁度例の女の子達がセイの横にやって来た。
「彼女たち、今日のおすすめスープはカボチャだよ。」
 女の子達に、にっこりと微笑んで青はそう言った。
「おまえなぁ……」
 セイは拳を作って殴る構えをした。
「そうなの?」
 赤い髪の女の子が微笑んで訪ねた。
「そうそう、絶対お勧め。馬鹿はタマネギスープを選ぶけどね」
 彼女らの後ろに回って、セイは拳を高く上げて振り回す。
「じゃ、それ貰うわ」
「OK! じゃ、隣の彼女もこれでいいかな? 君可愛いいから大盛りにしてあげるよ」
 さっきよりも、更ににっこりと笑ってカップにスープを注いでいた青が顔を上げると、辺りが硬直するような凍てついた、気まずい雰囲気に始めて気がついた。
「な、何だ?」
 付近にいた学園の生徒、みんなが青を凝視している。
 そして、目の前のアイスブルーの瞳は、勿論その色の如く氷のように冷たく、その表情は微動だせずに青を見ていた。
そして、数秒経った後、その場は大爆笑に包まれた。
「あはははははははははは」
 赤毛の女の子が青に指を向け、大口開けて笑っている。
しかも、目に涙さえ浮かべて……。
「な、なんだよ?」
 青もセイもみんなが笑ってる理由が分からない。
「あ、あなたね……、あはははははは」
 まだ笑っていた。
「何がそんなに可笑しいんだよ!」
「あのねぇ、シオは女の子じゃないの、”男の子”なのよ」
「ええええええ!?」
 驚いた青とセイは、再びマジと”彼女”を見た。
白い肌や長い睫、肩までのプラチナブロンドに輝く髪の毛の容姿は、あり得ない程綺麗な顔立ちをしている。
「マジかよ……」
「まあねぇ、確かに間違えても無理はないでしょうけど、シオ、得なんだか損なんだか分かんないね」
「ふん」
 シオと呼ばれた男の子は、何事も無かったかのように無表情で、食べるものをトレイに乗せて前へと進んで行った。
 確かに声や動作もよく見ると、きびきびとして男の子らしい。黒に紺のラインの制服は青と同じ年齢を示しているので十二か十三歳だろう。
 身長は青と同じくらいだろうか、年齢からすると飛び抜けて高い方でもない。黙ってじっとそこに立っていられたら、誰だって女の子と間違うだろうと思える容姿に、ふたりは口をあんぐりと開けたま呆然とシオを見ていた。
「ちなみに私は周梨子《しゅうりこ》。彼はリグラス・シオ、よろしくね」
「よ、よろしく……」
 青は我に返るとしどろもどろで返事をした。
「相変わらずバカね」
「瑠華(ルカ)先輩!」
 彼女はトレイを持って隣にやってきた、髪の長い3歳年上の重形瑠華と、その隣で穏やかに笑っている工藤莉空(リク)のふたりを見た。
「あーーーーーーっ」
 青が瑠華を見て大声を出した。
「てめーもいたのかよ」
「青の姉ちゃん!」
 セイが驚いて声を掛けた。
「こんにちは、セイ、久しぶりね。大きくなったね。バカ青は相変わらずド馬鹿だけど」
 瑠華は冷静に青を見て言った。
「うん。相変わらずバカ全開だよ」
「こらっ、セイ」
「瑠華先輩のお知り合いですか?」
「お知り合いも何も、残念ながら、この厨房野郎は私の不甲斐ない馬鹿弟なのよ」
「えーー、そうなんですか?」
 美しくて才に長けていて、みんなから一目置かれている瑠華の弟となると、少しばかり見る目が変わってくるのはしょうがない事だったが、目の前の少年が悪ガキ以上には見えない事に、少しばかり驚く梨子だった。
 青にしてみれば三年前に、一緒に受験を受けて自分だけ受かった瑠華が、この世でたった独りの肉親であるにも関わらず、あれから一度も自分に会いに来てくれない、姉の冷酷さに腹が立っていた。
 目の前の姉は当然ながら青が知っていた当時より、かなり身長が伸びていたし、面影は少しばかり大人に成長していた。
「この子バカだから3年連続受験に落ちてるのよ。話しているとバカが移るわよ梨子」
「なんだと! てめーーー」
 青は怒りでお玉をくるくる振り回す。
「さあ、さっさとかぼちゃスープ入れなさいよ」
 瑠華は顎を癪って鷹揚に命令した。
「ブスは玉ねぎスープにしときな」
「あんたねぇ!」
「瑠華、姉弟喧嘩はそのくらいにして先に進んでくれないか? 僕はお腹すいたんだけど?」
 その声に振り向くと、今回瑠華のチームのリーダーを務める、ひとつ年上の工藤莉空(リク)がいた。
「莉空先輩! すみません! このバカが絡んでくるもので……」
「君が瑠華の弟だって? 僕は工藤莉空、よろしくね」
 背が高く少し長めの薄茶色の髪と、薄菫色の瞳を持つ工藤莉空の、余りにも穏やかで礼儀正しい様に、青は圧倒されて思わず頭を下げた。
 必然にかられて彼には、素直にカボチャスープを入れた。
「こらーーーっ、あんた私だけ入れないつもり?」
 そう言って激怒する瑠華を見て苦笑する莉空は、自分が入れて貰ったスープを賺さず瑠華のトレイに乗せた。
「あ、莉空先輩……」
「僕はいいから」
「青、莉空先輩に挨拶なさい」
「は、はじめまして……、重形青です」
 青は照れながら挨拶をした。
「青君、こちらこそよろしくね」
「青でいいです……、みんな呼び捨てで呼びますから……」
「そう? ありがとう青」
 そう言って微笑む莉空を見た青は、これまで会ったこともない器の大きな人間だと直感した。
 それにしても瑠華の外見は少し変わりはしたものの、中身はちっとも変わらないことにほっとすると同時に、いま同じ立場にいない自分が少しばかり歯がゆかった。
「瑠華先輩とは初めて一緒に任務に就くけど、こんなキャラだっけ? もっとクールな人かと思ったな」
 苦笑しながら梨子がシオの耳元で囁いたが、シオは口角を少し上げただけで何も言わなかった。
 そうして青は仕方なくもう一度、莉空の為にスープを入れて渡すと、彼は優しく微笑んで礼を言い、まだふざけ合ってる後輩を急かして先に進んで行った。
 彼らの楽しそうで和気あいあいな姿を見て、羨ましさと悔しさが入り交じった複雑な心境で、青は彼等の後ろ姿を見送るのだった。



 




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