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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   29. ルームメイトの憂鬱

 
 食堂を出て学び舎に入って直ぐに、学年ごとに設えてあるロッカーと、レストルームが一緒に併設された部屋があった。
 食事の後に再び歯磨きしたり、重い教科書等は一時的にここに置いて移動することが出来る、その部屋の中で青は朝から騒動していた。
「ねーーおれの、教科書知らない? 部屋に無かったから、てっきりここだと思ってたんだけど……」
 そう言いながらごそごそ、縦長のノッカーの中を上から下へと混ぜ返していた。
「部屋はちゃんと見て来たのか?」
 トオルは扉の横に立って、青を見下ろしてながら言った。
 タイガは椅子に座って黙っているし、シオも冷たい目をして壁に凭れ、じっと腕組みし青を見ていた。
 当然、二人とも超の付くほどの不機嫌さで……。
 そうなのだ、独りが遅刻すれば連帯責任を取らされる……。
 クラスメイトは気の毒そうに、四人を尻目に教室に向かうが、しかし、タイガやシオが怖いのか、何も言わずに青をクスリと笑っただけだった。
「青くーーん! ほらほらタイガくんも、シオくんも、目がだんだん吊り上ってきたよ!」
 トオルが茶化した。
「だっからーーー探してくれよーーー! そんなとこにぼうっと立ってないでさ!」
「オレに言ってんのかボケッ」
 シオの返答を無視して、青はロッカーの最下部を見ている。
「お前、さっき何冊か手に持ってたろう、あれどこへやった?」
 冷静なシオの声に、青は顔を上げた。
「あ……」
「”あ”って、さっきは聞こえてるのに無視こいてたなおまえ、上等じゃねぇか!」
 そして、青は徐に個室トイレに入って行くと、打って変わり笑顔で出てきた。
「あったぞーーー! 早く行こう!」
 そう言うなり、既に廊下に走りだした。
「ちょい待て! 手を洗え! こらっ」
「あーあ……」
 シオの声を無視して青は教室に走って行く、それも独り猛ダッシュで……。
トオルから溜息が出た。
 部屋の怒りん坊、二代巨頭の顔色を伺うと、激怒を通り越して容赦なさそうな顔をしている。
「ふざけやがって……あいつ」
 大体において青が巻き起こす騒動の数々を、今まで黙って見過ごしていたタイガも、流石に怒っていた。
 青に置いて行かれた三人が、ぎりぎりセーフで着席した時、タイガの拳骨が青の頭を直撃したのは言うまでもない……。




 青がタイガに殴られた頭を抱えて、机の上でのたうち回っている間、近代武器解説学の講義の内容が、デロン・イイ先生によって説明されていた。
 四十台半ばの黒い眼鏡を掛けた先生の講義は、教室で武器解説が半分、後は屋内練習場にて実際レーザー銃などの武器を使用しての、実施訓練がカリキュラムがあることの重要性を説いていた。
 今日は教室にて、新しく開発された製品の説明をしていた。 
「こちらに注目! 新しいゴーグルのサンプルが店から届いたので、興味がある者は見てくれ。これは瞳の焦点を感知して標的を合わす事が可能になっている。練習は勿論、実際の現場でも扱いやすいらしい」
 早速、トオルはデロン先生から借り受け、ゴーグルを掛けて様子を見ている。
「へえ、本当だ。何もしなくても見たものに銃の照準を合わす機能が付いてる……、いいねこれ、着けてみてシオ」
 隣の席のシオに渡すと、彼もまた黙ってそれを着けてみた。
「いいだろう?」
「そうだな」
 ゴーグルを着けたシオの目に飛び込んできたのは、前の席に居た青の顔である。
「ねーねー、おれにも見せてくれよ」
 顔を近づけて覗き込んでくる青の眉間に、シオは指を充てた。
「おまえ、今死亡フラグ立ったな」
 ふたりを見ていたトオルが、横でケラケラと笑った。
 タイガでさえ笑っている。
「――たく」
「さあさあ、みんなもういいかな? 話を聞いてくれ。来週から銃を実際に扱ってレベル10の訓練になる。一年の時に使用していたゴーグルでも問題はないが、あれは今回の商品のように照準機能は付いていない。より精密に標的を捕らえるのなら、この商品は君らの手助けになるだろう。無理強いはしないが、折角学割価格で購入できるから試してみるのも良いと思う。ゴーグルが破損、もしくは持っていない者は今週末に揃えておいて欲しい」
「お前、持ってないんじゃないか?」
 トオルが青に尋ねた。
「うん。瑠華がゴーグルは好みがあるから自分で選べって、買って無かったんだ」
「じゃ、明日にでも買いに行かなくちゃな、俺もこれ欲しいし。シオとタイガはどうする?」
「俺も行くつもり……、でも、コイツとは行かねぇよ」
 タイガが青を見て言う。
「なんでさー、一緒に行こうよ」
 青が文句を言う。
「そうだよタイガ、俺、コイツが暴走したら止める自身ないよ」
 その言葉にタイガが黙って、妙に納得顔で青を見た。
「面倒な奴をルームメイトに持ったものだぜ……」
「シオは? 行こうよ」
「オレは今、外出禁止命令中」
「えーーがっかりだな、みんなで行ったら楽しいと思ったのに」
 心底、がっかりしたようにトオルが言った。
「でも、オレも新しいゴーグルが欲しいから店で落ち合おう、時間言ってくれればその時間にテレポートする」
「わかった、じゃあ、明日、シオとは店で落ち合おう」
「おいおい、学園での能力使用は禁止じゃなかったのかよ」
 青が尋ねた。
「シオなら大丈夫だ」
「なんで?」
「シオはそこに現れたり消えたりするだけで、お前みたいに多大な被害を出しはしないから、見つからないんだよ」
「お前は、一旦能力を使うと馬鹿みたいな破壊力を出すからな、制御を覚えろよ」
「制御も何も、普段は石ころも動かねぇんだけどよぅ、何でだ?」
「知るか!」
 余りにも呑気すぎる青の言葉に、みんなは呆れ果て話を打ち切った。
 この惚けた奴にはホトホト手が掛かると、ルームメイトは誰もがそう思っていた……。
 


 翌日、街に遊びに行ける事で、早くから目が覚めた青は、一番にバスルームに駆け込み、素っ裸で出てきた所をタイガに見つかりどやされた。
「こらっ! 野猿! 服を着ろ!」
「あれ〜、服持って行ったつもりだったんだけどさ」
 そう言いつつも、まだみんながベッドに居る前で、自分のクローゼットを開けてごそごそ探している。
「……ああ、目覚め悪りぃ……トオル、何とかしろよアイツ」
「あのさ、おれアイツの教育係じゃないんだから」
 二人のベッドの会話である。
 シオはと言えば、起きているにも関わらず、煩いものだから完全無視の体制で、皆に背を向け窓際を向いていたつもりが、今一番会話したくない奴がいきなりベッドへ飛び乗って来た。
「なーなー、シオ!」
 上から被さるようにシオの顔を覗き込んでいる。
「煩せぇ……」
 シーツを手繰り寄せて顔を隠そうにも、青が上から重っているので隠れることが出来ない。
 しょうがないから、シオは今度反対に寝返りを打って、青を頭から払うように目を閉じた。
「ねーってば! シオ」
 しかし、しつこい青はまだ顔を覗きこんで来る。
「煩い! てめぇ」
 シオが目を開けて声の方向を見ると、上半身裸でにこにこ微笑む青がいたが、それ以上顔を上げると見たくない物まで見えそうで、シオは怒って言った。
「おまえ! 下着着けてるんだろうな!」
「パンツは履いた。タイガが怒るから」
「重いじゃないか! トオル! こいつ何とかしてくれよ」
 今度はシオが悲鳴を上げる。
 ベッドの上で青に重されるシオを見て、トオルもタイガも爆笑している。
「何でみんなおれに言うのさ、シオお前に懐いてるじゃないか野猿が……、しかも知らない人が見たらかなり怪しい構図」
 そして、声高らかに笑って、トオルは二人の写真を撮っている。
「ねー、おれも一緒にテレポートしてくれよ」
「するか! ボケッ! どけよ」
 渾身の力を振り絞り、シオは青を脇にどかした。
「何でさ、もう一度やってくれよ」
「……空に飛ばされたいか、てめぇ」
「それはカンベンだけどさ、テレポートもう一度したいんだよ!」
「フン、やだね。てめぇのお陰でこんな朝早くからこの騒動で、迷惑この上ない奴だ」
 シオは両手で顔に降りかかった髪の毛を掻きあげた。
 その様子をじっと見ていた青は、納得したように言った。
「姉ちゃんの言った通り、ほんとお前って女の子みたいだな?」
「マジ、殴るぞ……」
 青はシオの身体の上に、再び何食わぬ顔して大の字に寝転んだ。
「あ〜あ、つまんねぇ」
 そしてジタバタ手足を動かしている。
 自分より体重がある青に押さえ込まれて、完全ギブアップ体制のシオはもう動けなかった……。
「重い……野猿を捕まえてくれ……トオル! トオル――?」
 とうとうシオが根を上げた。
     



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