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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   27. シオの天敵
 

 バッチーン!


 辺りに音が響いた。
 シオは赤くなった頬に手を当て、驚いて呆然と瑠華を見ていた。
 人に殴られたのは後にも、きっと先にも無いだろうショックと、何故、テレポートでき無かったのか、その二つの疑問に頭が渦巻き、アイスブルーの瞳は見開かれたままだ。


「ぐーじゃ無いのは、情けよ。あんたの可愛い顔にあまり傷をつけちゃ可哀想だと思ってね」


 瑠華は目を細めて、したり顔でニヤリと笑った。


「てめー、今何しやがった……」
「あんたを打った」
 平然と言う。


「チッ」


「何よ、”チッ”て」
「ふざけんな、分かってるだろう、今どうしてオレはテレポート出来なかったんだ?」
 瑠華はたっぷり間を空けて、答えを求めて自分を凝視しているシオを見て言った。


「……行ってよし。疲れてんでしょ」
 あっさりそう言い、身を翻すと研究室へと、戻って行く。


「こら! クソ女! 待ちやがれ!」
 暫くして、いきなり瑠華が立ち止まったので、後ろを追いかけていたシオがぶつかりそうになる。


「私は謝らないわよ」


 瑠華は振り向くと、シオの目を捉えて気丈に言った。 
「……」
「せめて自分が狙われていると、自覚できてる時だけでも協力しなさいよ、みんな心配してるんだから……”誰が頼んだ”なんて、子供じみた真似は、ここでは通用しないのよ、みんな命がけなんだから……」
 いちいちがまともな瑠華の言葉や、自分を見返す真っ直ぐな瞳に、シオは逆らえなかった。
 一連の事件はすべてシオ絡みで、学園に多々被害を齎し、みんなには色々な意味で迷惑を掛けている……、シオは改めて思い出した。


「……ごめん」


 素直に謝るシオを見て、瑠華は微笑むと静かに頷いた。
「でも、痛かったぞ」
「だから、謝らないってば」
「……殴られたの初めてだ、……オレ」
「こんなに我侭なのにね……」
 そして、瑠華は澄ました顔で付け足した。
「てめーは、まったく……」 


 シオが呆れたように言いかけた所で、瑠華の指が伸びてきてシオの唇に触れた……。


「切れちゃったね」


 そして、神妙な顔して親指で拭き取るので、シオはじっと瑠華を見ていたが、ふと、長い睫を上げたハシバミ色の瞳と目が合った。


「ほんと女の子みたいだねシオって……」


「何しやがる……」
 瑠華はシオの前髪を後ろに払って、端正な顔を覗き込んでから、持っていたピンでその前髪を上留めた。
「だから、――何しやがるんだ!」


「目が悪くなるよシオ」


 惚けてるんだか、無いんだか、再び歩き出す瑠華の後ろを追うシオだった。
「だから、教えろって言ってるだろう! 待ちやがれ、クソアマ!」




 それから凡そ二時間後、研究室から出てきた瑠華、シオ、バーディーが向かったのは食堂で、彼らがトレイを持ってみんなの席に着いた時、そこにいた何時ものメンバーが、シオの赤くなった頬と切れた唇を見て驚いた。
 ――と、言うか、シオが食堂の入り口に立った時点で、食堂にいたみんながざわめいていた。
「ど、どうしたんだシオ?」
 座って食事をしていた莉空が、真っ先に声を掛けた。
 アッシュも珍しい物を見たように、目は見開いているが口元は綻んでいる。


「瑠華に殴られた」


 シオがポツリとそう言うと、今度は一斉に瑠華に視線が集まった。
「ほんとうか?」
「うん。殴ったわ莉空先輩」
 そう言いつつ、食べることに専念してる瑠華は、隣の青に塩の容器を寄越せと命令した。
 静まり返ったテーブルに気がついて、瑠華が顔を上げると、みんながじっと自分の一挙手一同見ているのに気がついた。


「ん? どうしたの?」


「その理由を聞いてもいいかな瑠華?」
 穏やかに、宥める様に、その理由を莉空が尋ねた。


「我侭で生意気だから」


 ”おおー”と、一同から声が漏れる。
 ”なぜそんなこと聞くの?”って感じで、瑠華は肩を竦めた。
「ま、まあなぁ……そんなところはあるけどさぁ……」
 横でトオルが苦笑いすると、シオに睨まれた。
 それよりも殴られたシオが従順に、瑠華と一緒にここに来て、同じテーブルで向かい合わせに座って、何事も無かったように食事をしている方が、 不思議でならない莉空とアッシュだった。
 シオが本気で怒ったら二、三日は口も聞いてくれない事を知っていたからだ。
しかも、殴られた???
 シオは今までだって殴られた事など無い筈だ、それなのに……。
 莉空の心はパニックだった……。
「シオくん、そのピン可愛いね」
 梨子に言われて、今までずっと自分が前髪をピンで留めていた事に気がついた。


「あ……忘れてた」


「可愛いでしょ、私が留めたの。目に前髪が入りそうで鬱陶しいから」
「いい加減、外しやがれ」
 そう言うと、シオは瑠華の前に身を乗り出して、頭を傾けた。
渋々、瑠華はピンを取る。
「可愛いのに」
「うっせぇ……」  
 そんな、一連の動作も莉空には信じられなかった……。


 ……な、……懐いている? 
 シオが――?


 莉空とアッシュは顔を見合わせた。
「あ、そうそう。みんなに話そうと思ってたのよ。これ何だと思う?」
 瑠華が腕を翳してブレスレットらしき物を、みんなに見せた。
「あれ? さっき廊下で見たのより、かなり厚くなってないか? 」
 青が尋ねた。
「あんた見てたの?」
「うん、シオが殴られてるとこ……。最初、おれはラブシーンでもしてんのかと思ったけど」
 青がケラケラと笑うので、シオは目を細めて睨みつけたが、青はそんな事には全然動じない。
「まあ、いいわ。それがね、これをはめて相手に接触すると、相手の能力を無効化できるの。彼の名誉の為にも言っておくけど、彼が殴られたのはこれのせいなの。それを知らなかったから、シオは私から逃げ遅れたわけ」
『我侭で生意気だから? それでシオが殴られた?』
 一同は顔にそんな疑問を浮かべて、二人を交互に凝視している。
「ねえ、ちょと莉空先輩聞いてる?」
「ああ、……聞いてるよ」
「これバーディーが開発したのよ、凄いでしょ!」
 そこで初めてバーディーに日の目が当たり、みんなの視線が移って、バーディーは少し照れていた。
「でもさ、要するに手錠と一緒なんじゃないか?」
 青が素朴な疑問をする。
「ちっちっち! 甘い青、これはそんな物じゃないわ。ここに座っているみんな、私から半径二メートル以内の人は能力が使えないはずよ」
 そう言われて、タイガが指先に火を灯せるか試したが、確かに点かない。
「え? ……ほんとだ」
「これの厚さが一ミリ増す毎に、能力が使えなくなる範囲が一メートル広がるの、凄いでしょ」
「それは凄いな……」
 アッシュの興味を引いた。
「そうでしょう? 自分が所持してたら能力が使えないのが難点なので、携帯ケースも考案中よ。相手が気がつかないよう、側に置いておくとか、ポケットに入れるとか、それだけで敵の動きを封じ込めることができるのよ」
「じゃ、シオは今それを借りとけばいいんじゃないの? お前の半径二メートル以内に入ったら能力使えないから、一緒に転送されることはなくなるじゃん」
 トオルがそう言うと、みんなは真面目に頷いた。
「そう言うこと」
 かなり苦労してバーディーと成分分析をして、このブレスレットの合成物を作り出した瑠華は得意気に微笑んだ。
 そして、シオに腕を出すよう、自分の手の平を仰向けに伸ばした。
 渋々差し出したシオの長袖をたくしあげて、細く白い手首を出すと、そこに自分が今までしていた薄空色のブレスをはめた。


 一瞬、瑠華とシオの目が合った。


「これで安心、少なくとも、あなたがいきなり現れた敵に、連れ去られることは無くなったってこと……、後は体術で対処しなさい」
 無表情でシオは瑠華を見ていたが、何も言わなかった。


 ――がしかし、莉空としては自分以外の誰かに、シオが従順にしているのを見ると、一抹の寂しさが宿るのを拭いきれなかった。
 そんな莉空をアッシュが見守っていることも、気づかない程に……。


 

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