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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   26. 我が儘の悲劇
 

 とある倉庫が立ち並ぶ界隈は、昼は勿論のこと夜間になっても人が殆ど立ち入らない、そんな一角に錆びた錠が掛けられた廃屋に近い建物があった。
昼だと言うのに何年も使われていなかったせいで、埃りを纏って陽も射さないガラス窓は、部屋の中にセピア色の影を落としていた。
 今にも朽ちそうな外観とは裏腹に、最新危機が揃った室内に響いているのは、男が苦渋に悶える声で、先ほどからのたうち回るほどの痛みを抱えて呻いているからであった。
「何とかしろ! この痛みを……」
「あなたがいけないんですよ。あれほど警告したのに……、あの培養液から出てくるのが早かったんです」
「ううううううう」
「分かりますよ、どんなに苦しいか……、まだそれぞれのDNAが定着しないままに、動いてしまったのですから、責めてあと三日あれば……」
「煩い! 貴様、わしに命令するのか!」
「とんでもございません、ただ、意見を言わせて頂きたく……」
「お前の意見など、聞かぬわ! 早くしろ! この痛みを何とかするんだ!」
「回復には一番手っ取り早かった、培養液の入ったチューブも壊してしまいましたし……、なぜあんな真似を? お陰で生徒に見つかる所でしたよ、何とか取り繕って校舎に返しましたけど」
 そう言って、スミエ・グラは笑顔でメガネの位置を直した。
「お前があの時、何か液を注入しただろう。あれは何だ、あれが苦しかったんだ……」
「我慢してくださいと申し上げた筈です。あれは筋肉増強剤でしたから、あなたは急激な成長をお望みで、それとDNAとの適合を考えて培養液に混ぜたつもりでしたが、駄目でしたね……、あなたが急ぎすぎた結果ですよ」
 スミエ・グラは大きな注射器を男の腕にした。
「それは何だ」
「ようするに筋肉定着財ですよ、剥がれ掛けて苦しいから悶えなければならないのです。それを落ち着かす物です、培養液の代わりに体内に直接注入します。私だって博士の助手を長年務めて来ましたから……」
「ああ、神になろうとした男か……」
「まあ、博士はそんなこと考えていませんでしたが、単に自分の研究を追及していたら、人間と猫の子供が出来てしまっただけで……」
 くくくく、と男は肩を震わせて笑った。
 幾分、楽になったようだと判断したスミエ・グラは彼に尋ねた。
「どうして、そんなに性急に彼を必要としているのですか?」
「お前に言う必要はない」
 部屋を凍らすほどの冷たい視線を寄越した魔王の顔に戻った男に、質問したことをスミエ・グラは震える程後悔した。
 そこに居たのは、残酷な光を宿した闇の帝王そのものだったからだった……。




「ほらな……」
 青の手の平で、頑としても動かない石を見つめて、フドー陽は溜息を吐いて言った。
「なめんじゃねえぞ、青」
 おまけに拳骨を一発くらわした。
「痛いってーーっ、暴力教師!」
 昨日と同じ屋内練習場で、漫才のような二人のやり取りを聞いている生徒から、忍び笑いがクスクス漏れている。
 決して、なめてる訳でも、やる気が無い訳でも無いのだが、青にとってこの能力は、ままならないのだ。
「ノノア、ちょっと来てくれ!」
 呼ばれてやって来たのは、昨日、梨子から紹介された青い髪に薄群青の瞳を持ったスガ・ノノアだった。
 同じ練習用の戦闘服を着ていても、男の子と違い何となく可愛い。
「ノノア、こいつに見せてやってくれ、あの石を浮かせてから、壁に当てて粉々にするんだ」
「はい。先生」
 ノノアはにっこり微笑んで、5メートル先の石に手を翳すと、石はふわっと浮き上がり、急スピードで壁に当たって砕けた。
「すっげぇ!」
「こんなんで感動する馬鹿があるか!」
「だって、すげぇよ!?」
「アホかお前は……」
 がっくりと肩を落とした陽は、ノノアにありがとうと言って下がらせた。
「お前、何か忘れてないか? 昨夜の力はどこ行ったんだ?」
 回りに誰も居ないことを確かめ、やや小声で言う。
「それが問題なんだよな……教えてくれよ先生」
 青は手の平に乗せた小石がピクリとも動かないのを、陽の目の前で再び見せた。
そして、がっくりと項垂れた陽が言う。
「ああ、お前はオレの教師生活至上、最大の難関だ……」


 

 今日も、何の進展も無く、青自信がっくりして教室を出てきた所で、ノノアに呼びかけられた。
「大丈夫だよ青くん。私だって、最初はなかなか石を持ち上げられなかったんだから」
「そうなのか?」
「そうよ。練習を積み重ねて、やっとあのくらいになったの」
 そう言ってノノアは、可愛く微笑んだ。
「おれってほんと、イザというときじゃ無いと出ないんだよな」
「取りあえず、それでいいんじゃない? だから私たちはここに勉強に来てるんだし」
「そうだよな、うん。そうだ」
 ノノアは青が嬉しそうな顔して笑ったので、自分も嬉しくなった。
 青のような天真爛漫な男の子に会ったのは初めてで、良い意味で喜怒哀楽が激しくて楽しいと思う。
「あれ? あそこに居るの瑠華さんとシオくんじゃない?」
 渡り廊下を歩いていたら、もうひとつ向こうの廊下を瑠華とシオが歩いていたが、突然立ち止まると向かい合わせで話をし始めた。
 そして、青が二人に手を振ろうとした瞬間、なんと瑠華の手がシオの頬をぶった。
「な、なんだーーー?」
 青とノノアは目を丸くして手摺に捕まったまま、向こうの二人に釘付けになった。




「ちょっと、待ちなさいよ!」
 研究室を出てから漸くシオに追いついた瑠華が、シオの肩に手を掛けて振り向かせた。
 彼は機嫌悪気で鷹揚に振り向いて、瑠華を睨んでいる。
「折角、バーディーがあなたの為に装置を開発してるのに、どうして協力してあげないのよ」
「今日は疲れた」
「何が疲れたよ、みんな一生懸命対策練ってるのに」
「誰が頼んだよ」
 こういう事を平気な顔して言うシオに、瑠華はムカついた。
だいたい莉空先輩はこいつを甘やかし過ぎだと、瑠華は心の中で悪態を吐く。
「ムカつくクソガキね」
 瑠華はシオを睨んで言った。
「うるせぇ、ブス」
 その時、瑠華がシオの腕をガシッと掴んだ。
「何すんだよ……」
 シオはそう言いつつ、鬱陶しい瑠華から離れるつもりでテレポートしようとして、出来ないことに気がついた。


『あ、……あれ?』


 身体が動かないのだ……。
 そして、息がかかるくらい間近かで、瑠華がにやりと微笑んだかと思うと……。
 

 ” バッチーーン!!!”


 ――え?


 次の瞬間、シオは瑠華から思いっきり平手打ちを食らった……。

 


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