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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   25. 三人のDNA
 食堂へ降りる為に待っていたエレベーターのドアが開いた時、中にいた数人の学生は驚いて左右に避けた。
 青を先頭に、シオ、タイガ、トオルと、莉空、アッシュと一同が一緒に乗り込んだものだから、他の学生が何事だろうかと一様に訝しげな視線を寄越した。
 窓際にはシオを挟んで莉空とアッシュが陣取り、扉の後ろでは青を挟んでタイガとトオルという、トリオで並んでいたが、会話の内容は全く違った。
「てめぇ、部屋の中では裸禁止だからな」
 タイガがドスの利いた声で威嚇するも、青の態度はさほど反省してるようにも思えない。
「朝から変なもの見せやがって」
「あははは、良かった。俺はベッドルームで着替えていて」
 極力、他人と接触しないようにしているタイガが、青が素っ裸でうろうろするのを見て、どんなに驚いた顔をしたと思うと、トオルは可笑しくて仕方なかった。
「とにかく、わかったな!」
 タイガに後ろから首のあたりで制服を掴まれた青は、まるで猫のように成すがままでいる。
「はい」
 しおらしく返事をした青から手を離したと、同時にエレベーターのドアが開いた。
「飯だぁ〜、メシメシ! 今日は何食べよっうかな〜」
「てめぇ!」 
 全く反省の色も見せずに、スキップして出て行った青の後を、怒り心頭のタイガとトオルが追って行く。


「あいつ……面白い奴だな」
 アッシュが笑いながら、青の後姿を見て言った。
「何だかんだ言って、オレあいつに何度も助けられているんだよ……」
「サイコパスは能力の使いようによっては頼りになるからな、僕たちと居るよりそっちがいいか……」
 莉空は少し寂しそうに言った。
「そんなんじゃないよ……」
 莉空の気持ちを感じ取ったシオは即座に否定した。
「笑えるな、あいつ! あんな、惚けた奴がシオを救ったんだぜ、凡そ信じられないが……」
 同じく、莉空の気持ちが分かるアッシュは宥めるように言った。
「それに、今日からX−DS6が青の補習を部屋でしながら、夜中もずっと居てくれるんだって、だから心配ないよ……」
 シオは並んで歩く、莉空の端正な横顔をチラリと見た。
「そうだ、僕たちも一緒に泊まろうか?」
「こらっ莉空、何を言い出すかと思ったら! おまえ、シオ可愛がり過ぎ! DS6が居るんだから大丈夫だよ」
「忘れたの? DS6は武器装備体もあるんだよ。それに超高感度センサーがあって、どんな気配も逃さないし、万が一、誰かが現れても全システムに繋がった警報は、素早く保安室に知らせが届んだ、第一、部屋まで一分もかからない所に警備員がいるから」
「そうだよ、莉空は心配しすぎだから」
 相変わらず難しい顔して、目頭を寄せている莉空を見た。
「おまえに何かあったら……」
「莉空!」
 とうとうシオに睨まれて、莉空は我に返った。
「莉空、おまえシオに対して、異様に過保護過ぎ! ……でも、まあなぁ、こんな女の子みたいに可愛い弟がいたら、俺も分からないでもないけどね」
 にっこりと、アッシュがシオを見て微笑んだ。
「やめろアッシュ!鳥肌立ったぞ」
 シオがそう言って彼を睨む。
「それに弟じゃないし……」
 その事実が少し寂しそうに俯くシオの髪の毛を、莉空は微笑みながらクシャクシャと指で撫でた。




「えええ!?」
 食堂のテーブルを囲んで一同が、悲鳴に近い驚きの声を上げた。
「莉空先輩とシオって従兄弟だったの?
 まず、トオルが言った。
「みんな知らなかったんだね。そうだよ」
 さっきと打って変わって、莉空は穏やかに笑って答えた。
「驚いたわ! でも言われれば、似てるわよね二人!」
 そこにいた梨子も目を丸くしている。
 言われなくても実は良く似ていたのに、みんなが気が付かなかっただけだと、シオは密かに思っていた。
 それは幼い頃から周りの者に言われ続けて育ってきた。
 母親が双子だったので、必然的に彼らは似ていたし、同じ時間を共有することが多かったので、兄弟と言ってもいいくらい仲良く育ってきた。
「勿論、アッシュ先輩は知っていたんですよね?」
 梨子が尋ねた。
「当然、莉空の可愛がりようは普通じゃないでしょ」
 アッシュはあっさりバラした。
 そして一同が、うん、うん、と頷いた。
「いや〜確かに変だとは思ったのよね。莉空先輩はシオに気があるんじゃないかと思ってたのよ、禁断の学園バージョンなんてね……」
 頭上からの声にみんなが見上げると、トレイを持って意味深な微笑みを浮かべた瑠華が現れた。
 そんなことを本人の前で堂々と言えるのは、彼女しかいないと一同は密かに思う。
「悪かったね、瑠華の期待に添えなくて」
「でも莉空先輩ってしっかりしてるようで、シオのことになると盲目になるのよね」
 そう言いながら、話の中心に入ろうと、瑠華は青の左横に無理やり座り込んだ。
「あんた何、そのキッシュのてんこ盛り!」
 青のトレイを見ると、独り占めしてきたかと思えるほどのキッシュが、山高く積まれていた。
 それに、会話にも加わらず、さっきから独りだけ無心に食べている。
「上手よこれ、姉ちゃん! 」
「ここの食事がタダだと思って、薄汚く食べないでよね、みっともない」
「だっ*+‘〜だ+*‘……も……ん」
 口いっぱい頬張って、それでも喋る弟を呆れて見ている。
「……ああ、情けない、これが私の実弟なんだから……、先輩、シオと変えてくださいよ」
「遠慮するよ」
 莉空は微笑むと、きっぱり断った。
「ところで先輩、朝から女子寮でしまかに流れているニュースがあるんだけど……?」
 何を言わんとしているか察して貰いたそうに、瑠華は急に小声で話し始めると、真面目な顔して莉空を見た。
「言ってみて……」
「昨夜、何者かが男子寮に侵入して、誰かが連れ去られたって」
「侵入されたのは本当、でも誰も連れ去られて無いし、怪我も無いが、犯人は捕まって無いので、事を大きくしたら学園がパニックになるから、今日の所は授業を続けるんだって」
 莉空は静かに言った。
「それって、どこまで喋っていいの?」
「知らないって惚けた方が面倒無くていいんじゃないの? 実際、公式に発表してないしね、真夜中の事で寮の窓は防音入ってるから、昨夜の一件を知るものは少ないと思うんだ」
「分かった。そうするわ」
「で、誰が狙われたか知ってるの?」
「いいえ……。誰なの?」
「シオ」
「ええ? 嘘でしょ……」
 瑠華はパチリと目を見開いてシオを見るが、何事も無かったかのように澄ました顔してジュースを飲んでいた。
「そして、誰が助けたと思う?」
「誰?」
「君の弟」
「えええええええええ」
 瑠華の大きく開いた口に、青のキッシュが詰め込まれた。


 職員が集まって朝食を取っている食堂の一角で、青たちが居る賑やかなテーブルを眺めながら、早瀬学長が向かいの席に座っているバーディーに言った。
「彼らと向こうで一緒に食べてもいいんだよ、バーディー」
「どうして? そんなんじゃ……ないから……」
 友人の忘れ形見とも言えるバーディーが、心配を掛けないように一生懸命笑顔を作って微笑む姿は、どこと無く痛々しい。
 早瀬はバーディーが職員寮と大学か研究室の往復で、同じ年頃の友人がいない事を気に掛けていた。
 食事はいつもこうやって大人達に混じって食べているが、きっと向こうで同い年の学生と食べたいに違いないだろうが……、学年をスキップしたことを本人も、それを許可した学長自身も少なからず後悔していた。
 その時、近くに食べ物のお代わりを取りに来た青が、バーディーに気がつき声を掛けた。
「あ、バーディーじゃないかぁ! お前、そんなところにいたのか?」
「え……、あ、青……」
 名前を呼ばれて、バーディーは顔を上げた。
「こっち来てみんなと食べないのか?」
「僕はいいんだ、いつもここなんだ」
 少し寂しげにバーディーは言った。
「お前、そんなんだから友達できないんだよ 」
 そう言うなり、バーディーの食べているトレイを掴んだ青は、有無を言わさずそれを持って元いた自分の場所に戻り、持ってきたバーディーのトレイを自分の隣、瑠華と反対方向のテーブルに置いた。
 フォークを掴んだまま、突然のことに戸惑っているバーディーに学長が微笑んだ。
「行きなさい。行ってみんなと一緒に食べてきなさい」
「……はい」
 小さな声で返事をしたバーディーの顔が嬉しさをかみ締めているように、綻んでいたのでそこにいた教師もみんな微笑んだ。
 バーディーが席を立つと、木も微笑んで言った。
「良い友達ができたみたいですね」
「ああ」
「あいつでいいんですか? ――たく、ふざけた奴ですよ」
 陽が呆れたように微笑んだ。
「少々、やんちゃ過ぎるが、あのくらいが丁度いいんじゃないか? バーディーは真面目すぎるから」
 相変わらず賑やかな青たちのテーブルを見ながら学長が言った。
「少々? 学長! きっといつか後悔する日が来ますぜ」
 学長は声を立てて笑った。
「早々、手こずってるようだな」
「普段のあいつは、やる気無し、能力ゼロです、ゼロ。石ころだって転がせませ――ん」
「だからそれは教官である君の役目だろう? 陽。あいつには絶大な能力が眠っているような気がするんだけどね俺には」
 誰もが苦笑する中、木が話しに入って来た。
「お前、他人事だと思ってるだろ」
 ぶつぶつと不平を言う陽の後ろを通って、オロン教頭がそそくさとやって来ると、学長の耳元で何やら呟いた。
 すると、俄に学長の顔色が変わったのに誰もが気がついて不穏な空気が漂った。
「わかった。直ぐに行く」
 それだけ聞くと、教頭は再び同じ道を戻って行った。
「どうしたんです? 何か分かりましたか?」
「昨日、青が投げつけたテーブルに、男のDNAが残っていてな、それを分析したらなんと……、木京介、フドー・陽、そして現在は先鋭部隊で活躍しているテレポーターのスガ教官、三人のDNAが混ざっていたそうだ……」
「な、なんと……」
 木は言葉に詰り、陽は目を見開いて言葉を失っている……、数ヶ月前に連れ去られ殺害された情報管理センターの室長から、データーを抜き取られた事態を重く見た国家警察は、機密事項の徹底管理と研究機関に携わる人物の安全管理を指導したが、それにも関わらずDNA総合研究所が狙われ、侵入者によって荒らされたことがあった。
 その時は、生徒のDNA保管法は幾つものセキュリテーが掛かった後だったので、盗難を免れたのだったが、実は教師のDNAのサンプルがいくつか盗まれていたのだった。
 まさかとは思っていたが、実際、目の前に衝撃の事実を突きつけられて、教授陣はその根底を揺るがすような事実に打ち震えたのだった。
「それはつまり、男がテレポーター能力、木の超自然能力、陽の念力の能力を操れる可能性が出てきたと言うことだ……」
 学長の言葉に誰もが息を呑んだ……。

 
                
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