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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   24. 夢か現実か


 何やらドアの外が賑やかになって、徐に学長室のドアが開いた。
 先頭に入って来たのは早瀬学長で、その後にオロン教頭、そしてサイコメトリーのエリアス・ロー教授、そして木、陽の両新鋭先生と、寮監ミラ・アンダーソンが続いて入って来た。
「待たせましたね皆さん。やっと実証検分が終わりました」
 オロン教頭は立ったまま、青たちを見渡して静かに言った。
 四人は身を深く沈めていたソファから、起き上がり体制を直してオロン教頭の次の言葉を待った。
「サイコメトリーのロー教授が、重形(しげかた)君の言う、”怪物のような大男”を確かに感知しました」
 青以外の三人は驚いて、呻きにも似た声を漏らして声を失ったようだが、当の本人はホッとしたように顔をほころばして言った。
「……良かった、夢じゃなかったんだな」
「君の言う通りだよ、その”何者”かは、リビングに降り立ち、勉強室の中を伺い、そして寝室へと歩いて行ったらしい……」
 ロー教授がそこで一旦言葉を切ったのは、今回騒ぎの張本人の重形青が、自分の見た物が夢で無かったことに、安堵したのか笑みを浮かべているのに対して、他のルームメイトの三人が、およそ信じられないとでも言うような、困惑をした表情をしていたからだ。
 実際、学年でもトップクラスの実力を持っていると思われている、タイガやシオが気づかないのに、落ち零れ一直線だと思われていた青だけが侵入者を察知したなんてと……、トオルは戸惑っていた。
 タイガもシオもしかり……、目が覚めなかった自分自身にショックを受けていたのだ……。
 ロー教授は再び言葉を続けた。
「……そして、そこでたまたま目が覚めた重形君に気付かれて、サイドテーブルをごと外へ投げ飛ばされた。それまでは確かに私も追跡できたが、そこからその男は忽然と姿を消している……」
「やっぱり……」
「やっぱりとは?」
 教授が青に尋ねた。
「おれ、直ぐに窓へ駆け寄って外を見たんだ。でもテーブルは食堂の屋根に当たって砕けたけど、男の姿は見えなかった……おかしいと思ったんだ」
「……うむ、なるほど……」
 ロー教授は白い物が混ざる豊かな顎鬚を、考え事をする時の癖でゆっくりと撫ぜた。   もし男がテレポーターとしても、学園都市は外から進入できないように、特殊なバリアーが施されていて、勿論ここから出て行くことさえ出来ない。
 しかも、そのバリアーが破られたのなら、警報装置が作動するはずで、警備局から連絡が無いと言うことは、男はまだこのターミナルから出て行って無いと言う事になる……。
 ここ第二ターミナル、通称学園都市への入り口は、飛行艇からの出入ゲートはひとつしか無い故、他からの進入は絶対にあり得ないのである。
 だから、その男がゲートを通る為に、堂々とIDを取ってここに進入して来たと言うのなら、 管理局若しくは内部犯行の危険が高まる……、しかし、彼の言うように優に2メートルを超える大男となると、身なりからして怪しいと判断されて、管理局に連れて行かれるだろう……。
「オロン教頭、管理局へは問い合わせしているんですよね?」
「ええ教授、今データーベースで探しています、そこで引っかからなければ、それはとても大変なことになりますが……、学長、今日の所はもう深夜ですし、そろそろ彼らを休ませてはどうでしょうか、明日の授業にも差し支えそうです……」
 教頭は生徒をチラリと見た。
「おお、そうだった。アンダーソン君、彼らの仮のベッドは用意できているだろうか?」
「ええ学長」
「では、彼らを案内してくれたまえ、それと先生方も深夜に集まってくれてすまなかった、後は警備本部で捜索を続けるから、今日の所は休んでくれたまえ」
「はい。分かりました」 
 陽先生が返事をした。
「学長、明日の授業は平常通りでしょうか?」
 木が尋ねる。
「取りあえずはそのつもりだ。下手に授業を止めてもみんなの不安を煽るだけだからな」
「そうですね」
 木は同意した。
「重形君、今回は良くやったね、誰にも怪我が無くて幸運だった」
 学長に褒められて青は照れくさそうに微笑んだが、その目は明らかに睡魔に襲われつつあり、瞼が重くのしかかっている。
「さあ、みんな眠いでしょうけど私に着いて来て下さい。今夜は職員寮の方にベッドを作ってあります」
 四人はずるずると立ち上がると、寮監の後に続いて学長室を後にした。
 その後を、木と陽が続いてエレバーターの前までやって来た。
「青、今部屋を見てきたぞ、凄まじいな……」
 側に来た陽先生が青に言った。
「あの防御ガラスを粉々にするなんて……本当に、お前ひとりでやったのか?」
「先生! 信じて無いんだな」
 青は憤慨した。
「まあなぁ、信じろと言う方が無理だろう? 今日の放課後お前の実力見せて貰ったばかりだからなぁ……」
 丁度、エレベータがやって来てドアが開いて、 中へ皆がぞろぞろと乗り込んだ。
「木、こいつは今日の授業で、石を動かすどころか、手の平の角度を変えて小石を動かす始末……、まるっきりやる気がなかっただぜ」
 木はクスクスと笑った。
「それで、彼の能力が試験のとき発揮されない理由が分かったよ。青は身に危険とか危機が迫らないと、その能力が発揮できないんだな。それを自由に操れるようにするのが陽、お前の仕事だよ」
「――だって。陽先生」
 青はニヤニヤと生意気に笑った。
「だったら、やっぱ崖から突き落とすとするか……」
「先生!」
「俺にはお前を立派な能力者に、しなけらばならない使命があるんだ」
 エレベーターの中から、白々と明けて来る街並みを見下ろしながら、陽が微笑を浮かべて言った。
「――ねえょ! その前にそんなことしたら、オレ死ぬだろ!」
 みんなが陽先生の言葉に、納得したように自分を見てるのに気づいた青は、ここは敵だらけだと密かに思うのだった。 


 翌朝、職員寮から着替えの為に、自分たちの部屋に戻ってきた四人は、ベッドルームが綺麗に片付いて、割れたガラスも直されていたことに驚いた。
 おまけにベッドメイキングも完璧だ。
「うわぁ、すげぇ! 何もなかったようだ……」
 嬉しそうに青は自分のベッドへ、うつ伏せに飛び込んだ。
 その様子は、ルームメイトが凡そ十一時間前に見たシーンとまるっきり同じ動作だった。
「何時までもあのままにしておくと、危ないからな。再び敵が襲って来ないとは限らない……、第二ターミナルから外に出た様子は無いみたいだし」
 そう言いながら、トオルは窓際に立って、ガラスの強度を調べていた。
「今までのガラスより、更に強度が増してる」
「窓枠に水硬石を嵌めたな……」
 いつの間にか側にいた、シオも窓枠に触れながらそう言った。
「こいつは、テレポーターが通り抜け困難だという石のことかい?」
「そう、電磁波の手錠と同じく、こうやって枠に敷き詰めるだけで、この石から出る微量の電子が、物質の因子を分解できないようになってるんだ、テレポーター泣かせの石だよ、擦り抜けは絶対に無理だ。」
「すごい念の入れようだな」
「しかし、あいつだけが起きていたなんて、不覚だったな……」
 続いて、側にやって来たタイガが、ベッドの上ではしゃいでいる青を見て言った。
「うん、それは俺も非常に悔しい」
 トオルもこっそり呟いた。
「でも、オレはこれで、あいつに二度も助けられたことになるんだよな……」
 あっさりシオがそう言うので、トオルもタイガも、この学園きっての優秀な生徒である彼を助けたという事実を思い出して、驚愕を隠しきれなかった……。
「あんなやつに……」
 シオは顔を顰めて、一生の不覚だと言わんばかりに、ベッドの上で仰向けになって、鼻を穿っている青を見た……。
「確かに……」
 みんなは悔しそうに頷いた……。




「起きやがれ!」
 その声と共に、お腹に鈍い痛みを感じて目が覚めた青は、自分の腹部にシオの足があるのを見た。
 そして、脳内時間差で再び鈍痛に襲われる……。
「痛ってーーーーーっ」
「さっさとフロ入って、着替えろ」
 それは命令だった。
「青ー、今シャワー出たから早く入れ! 朝食に間に合わなくなるぞ!」
 トオルが頭をバスタオルで拭きながら、バスルームから出て来た。
見るとタイガもシオも、既に着替えていて、タイガは今日の勉強で使う教科書を揃えていた。 
 そこで青は、自分が再び眠り込んでいたことに気がついた。
「いけね!」
 ベッドから飛び起きて、クローゼットから着替えを取り出すと、バスルームに駆け込んだ。
 規律を重んじるこの学園では、 朝食は朝七時から八時の間に済ませ、授業には遅れる事無く教室に入らなければ減点対象となる。洗濯物はランドリードアに入れると、翌日には確実に届くので、プレスの行き届いた制服、シャツを着用することは必須だ。
 勿論、訓練で朝早く出かけたり、学園を数日間離れる場合もあるので、その時の時間は大幅に擦れるが、それは担当教官から事前に連絡がしてあるので、生徒が心配することは無かった。
 ここでは、全てが学びを優先として配慮されていた。
 その時、来訪者を告げるブザーが鳴った。
『 ID1001工藤莉空と、ID2032ジロイ・アッシュが入室許可を求めています。許可致しますか?』
「いいよ」
 リビングの窓枠の上で胡坐をかいて座りながら、今日の時間割をチェックしていたシオが答えた。
 程なくドアが開いた。
 ふたりは目の前に目的の人物を認めて、やって来る途中、勉強部屋にいるタイガと、ベッドルームで身支度をしているトオルに声を掛けた。
「ありがとう、でも僕らは大丈夫ですよ」
「タイガも無事か?」
 アッシュが尋ねた。
「ああ」
 ぶっきらぼうにそう言うタイガにアッシュは微笑んで頷いて、青が居ないことをシオに尋ねた。
「今、シャワー浴びてる……」
 窓際にいたので、シオの髪の毛はより一層薄くプラチナに輝き、白い肌は透き通るようで、目の下にクマが見て取れて、莉空もアッシュも少しばかり眉頭を寄せた。
「シオ、大丈夫か?」
 窓に凭れると、莉空は髪の毛が触れるくらいまで近づいて、シオの顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ……」
「そうは見えないぞ」
 目を上げようとしないシオの、顔を隠す長い髪の毛を優しく払って、顔色の悪いシオを莉空は見た。
 そして、少し声を潜めて話を続ける。
「学長から聞いた……、お前を執拗に狙ってくるということは、お前のもうひとつの能力を知られてしまったんじゃないかって……」
 莉空の視線に耐えられなくなったシオは、顔を上げて彼を見返した。
「……うん。わかってる……」
「俺たちの部屋へ来いよ、守ってやる」
 いつもの悪戯な微笑みを消して、アッシュが莉空の後ろから言った。
 ふたりの真剣な表情に、シオの心は揺らいでいた。
「……誰も傷つけたくない」
「僕たちが傷つくとでも?」
 莉空がシオの頬に手を当てて優しく笑った。
「怖いんだ……」
 莉空の綺麗な薄い菫色の目を、真っ直ぐ捕らえて静かに言ったシオだったが、何かを訴えているかのようにその瞳は翳《かげ》っていた。
「大丈夫だよシオ……」
 莉空はシオの頭をゆっくり自分に引き寄せた。
 なすがまま彼の肩に顔を預けたシオは、莉空の腕の中で安心したかのように、ひとつ大きく呼吸をした。


 その時、バスルームのドアがいきなり開いて、青が素っ裸で出てきた。
「パンツがねぇーーーーっ」


 莉空たちをそこに認めても、恥らう様子も無く。
「ねー、どっか落ちてないか? おれのパンツ!」


「……」
「……」
「……」


 シオ、莉空、アッシュの瞳が見開かれ、みんなは硬直したが、やがて莉空とアッシュは大爆笑した。
「アハハハハハ」


「何がおかしいんだ?」
 ポカンと青が尋ねた。


「てめーーー、服を着やがれ!」
 シオの罵声が飛んだのは、言うまでもない……。
 



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