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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   22. 不穏な東の塔



 学園での授業は青が思った以上に忙しくて、広い構内を移動するだけで休憩時間は潰れるし、カリキュラムは多彩で結構大変だ。
 今日、最後の授業となるのは念力(サイコキネシス)の授業で、実習教室は周りを金属で壁を頑丈に覆われた、これ又ただっ広い部屋だった。
 先生はクドー・陽先生で前回の洞窟の訓練でサバイバルに長けた逃走役の教官だった。
 クラスには男女五人ずつ、合計十人で授業を受けることになっていて、陽先生とは初対面だった青だが、体格も良く少し長めの金髪碧眼の先生は、黙っていると一見怖そうだが笑うと爽やかな美男子であり、女性徒からの人気も高かった。
「……おまえなぁ……それ冗談か?」
 岩を積み重ねた広い演習場で、石を念力で動かす練習をしていた青の様子を見て、陽先生は訝しげに言った。
本人の嫌な予感の通り、青の能力は再び後退し、手のひらの石を動かす程度に戻ってしまっていたのだ……。
「マジっすよ……」
 青の手のひらで小石が左右に転がる。
「それ手の平の角度を変えて転がしているだけだろう!」
 先生は呆れて言った。
「いや、一センチは動いたと思うぞ?」
「真面目にやれ!」 
 陽先生の拳骨が青の頭に響いた。
「痛って〜、真面目にやってるさ!」
 周りの生徒から忍び笑いが漏れた。
 彼らはそこにあある五十センチ程の石を、空中に上げては四方へ自由に投げる事が出来ていたからだ……。
「木から俺は、お前が大木を倒したと聞いてるし、その現場も見てきた。あれは本当にお前の仕業だったのか?」
「いやー、気が付いたら、おれベッドの上だったんで実感ないんだよなぁ……。あの時は死にそうに疲れていて、必死だったのは覚えてるけど……、だから夢だと思ってたんだ」
 陽は大袈裟に溜息を吐きながら両手で顔を拭った……。
「お前は、崖から突き落とさないと能力を発揮しないタイプなんだな……。一番厄介だ」
「まさか、突き落とさないよな?」
 青は陽先生をマジと見た。
「やるか! 俺はこう見えても教師だ!」
「ちぇっ、脅かしかよ」
「こらっ、クソガキ! 何もできないくせに、てめぇはふてぇ野郎だな」
 背の高い陽は青の頭上からどなり散らしているが、青は聞いているのかいないのか、鼻を穿(ほじ)りながらぼうっと突っ立っていた。
「時間割を見せて見ろ……」
 先生は徐にそう言って、青に腕の端末から授業内容のプログラム映像を広げさせた。
しばし、その時間割をじっと見た後に言う。
「昨日、防御術の講義を受けてるな、おまえこれもさっぱりだったろう?」
「何でわかんの?」
「能力を扱う上での基本中の基本だ」
「でも東(トン)先生は、編入生だからまだ難しいだろうって……」
「それはお愛想だ、”頑張らなければ前途多難だぞ”の裏返しだ」
 何故だか、目の前の陽が嬉しそうに見えて仕方無かった。
「先生……」
「何だ?」
「凄く楽しそうなんだけどさ」
「ああ、俺はおまえの教官だからな。お前の能力をどうやったら引き出せるか思案中だ。何なら、崖から落ちてみるか?」
 ニヤリと謎めいて笑う。
「てめぇは! 教師だろう!」
「気が変わった。必要とあらば何でもやる。お前を扱けると思うとやりがいがあるよ。覚悟しろ、重形青!」
「ぜーってぇ、やだ!」
 青の完全拒否に”ハハハハハ”と高らかに笑って、陽は他の生徒を見回りに行った。




 青は実習室を出たすぐ前の通路で、X−DS6と出くわした。
 彼は昨日会ったX−DD7と同じ色のジャケットとネクタイをしていたが、微妙に顔が違っていて、DD7が金髪だったのに対して、DS6は茶色い紙の色をしていた。
どちらにも共通して言えるのは、穏やかで優しげな雰囲気を漂わせていると言うことだった。
『はじめまして、重形青くん。教室がまだ把握できてないだろうと、DD7が言ってましたので、迎えに来ました』
「7が? そう言ったの?」
『はい。昨日あなたと話をされたようで』
 歩きながらふたりは会話した。
『今日使う教室は、実習室なのでまだあなたは行ったことが無いと思います。だから彼が言うには、あなたを迎えに行ってあげた方がいいと言いました』
「へえ、すごい! 会話するんだ」
『はい。我々は夜になると一旦集まって、今日の出来事を話合います。それから交代で警備を兼ねて構内を見回るんです』
「二十四時間動いてるのかと思ったよ」
『十分可能ですが、夜は私たちの需要は少ないですから、交代で仕事をしています。その間、仕事に就いてない者はチャージャーに戻ります。そうすることにより、より長くここで任務に就くことができます。DD7から聞いたと思いますが、基本百年働けますが、充電、節電を小まめに繰り返すと百五十年くらいは持つそうです』
「すっげぇ」
 青は感嘆の声を上げた。
『昨今じゃ、そんなに純粋に驚いてくださるのはあなただけですよ』
「だってさぁ、オリン岬には何にも無かったから、おれはここに来て驚くことばかりだ」『何時までも、その純真さを保ってくださいね』
 DS6は優しく微笑んで青を見ていた。
 やがてふたりはエスカレーターで、中二階にある自習室にやって来た。
 ここは全てふたり部屋で、そしてガラス張りで仕切られていて、外に音が漏れないよう防音室になっていた。
 各部屋には青のようにXーDD、X−DSと言った人工知能の教師や、上級生のボランティアとかに勉強を教えて貰っている者が数名いて、小部屋はそういった人たちでほぼ一杯になっていた。。
「おれだけじゃないんだ」
『勿論! 訓練が忙しくなったりすると、みんな勉強が疎かになりがちですから。さあ、そこの部屋に入ってください』
 三メートル四方の小さな部屋で、向かい合わせに二人は座った。
 他の自習室では補修を受けている生徒と、それを教えている上級生が並んで机に座っていたりしたが、それは二人が端末を見やすいからであった。
 青は持っていた運動着の入ったバッグを足元に置いて、社会の教科書を机の上に出した。
『学園での教科書は参考書のような位置づけで、ここでは教科書は要りません。必要な資料は全て端末に入ってますから。私の”頭脳”は各端末と繋がっていて、君がそこに入力することが全て読み取れます。さあパネルに手を翳して下さい。機械が作動します。』
 言われた通り、手を翳すと電源が入って画面が明るくなった。
そして、そこには『初等社会科問題』という画面が直ぐに現れた。
『君の編入試験の結果を見たところ、この国の歴史について何も理解してないようだね。これから将来、ここでスカイ・ポリスの一員になろうと思っているんだったら、絶対に避けては通れない必要不可欠な常識なんです。ここは何が何でも覚える必要があります』
「……、どこに行っても同じ事言われるよ」
 そう言って、既に項垂れている青を見てDS6は微笑んだ。
『そうです。学園の授業は統べてがとても大事なことで、今から君がここで学ぶことは、君の将来において無駄はないですから。時には、授業が苦しくなって脱落してゆく者もいますが、しかし、彼らはきっと後悔すると思います。何故なら、一度は立派なスカイ・ポリスになろうと、志高く決心してここにやって来た者たちですから、そんな彼らが地上に降りてスカイ・ポリスより魅力的かつ重要で使命ある仕事に就けると思いますか?』
 青は首を振った。
『ええ、君らの能力に見合ったこんな素敵な仕事は無いと思いますよ、市民の安全を守り悪い奴を捕まえる。スカイ・ポリスの一員になるって事が、どんなに素晴らしく名誉ある事か、肝に銘じておくといいですよ』
 人工知能とはとても思えない心に響く彼の言葉は、青の胸の奥にずしりと鎮まった。
 言葉なくじっとDS6の目を覗き込んでいた青に、彼はにっこり微笑んでモニターの画面を見るよう促した。
『さあ、始めよう。まず基本的なこと、この国について初代大統領の名前から挙げてごらん……』
「……うぇ、いきなりかよ……」
『さあ、挙げてごらんなさい』
 微笑を絶やさないDS6の前で、青は両手の指を使って朧気な記憶を辿って暗唱始めた。




 机に向かって二時間が経過していた。
 教室の窓から外に帳が落ち始め、行き交う飛行船がライトを照らしているのが見えた。
『今日はこれくらいにしましょう。君もお腹が空いたでしょうし……』
「ぺこぺこだよ……」
 青は椅子に反り返って、背伸びをした。
『みんなに追いつくのも、そんなに先の話じゃないでしょう。今日は少し長くなりましたが、明日からはもう少し短い時間で大丈夫でしょう』
「ありがとう。おれ陽先生に習ってるんだけど、いまいち能力が使えなくて、その練習もするよう言われてんだ」
『今はみんなに追いつくのが大変でしょうけど、みんな最初はそうですから、頑張りなさい』
「陽先生に言わせたら、おれは”一番たちが悪い能力者だって”……」
 何かを思い出したように、クスリとDS6が笑った。
『クドー陽先生も、今はあんなに立派ですが、ここに来た時は親と離れて泣きべそかいている、ただの”小僧”でしたよ。あ、失礼”小僧”は暴言でしたね』
「知ってるのか?」
『当然! 彼にも数式の補習をしました。そうですね、あなたと同じ13歳の頃でした。それが今、一線で活躍されているんですから、人はどうなるか分かりませんが、ただ、私たちが因子分析した観点から言うと、今の彼が先鋭部隊で存在するのは必然的なものだと思われます』
 青が怪訝な顔をしたのでDS6は言い直した。
『彼は幼い頃から、そういう雰囲気を持ち合わせていました。95%の確立でスカイ・ポリスになるだろう予測ができていました』
「ふーん、そっかぁ」
 その事を聞いて何故だか青は彼が誇らしいような、嬉しい気分になり口元が綻んだ。
そんな青とDS6は並んでエスカレーターを降りていた。
『陽先生には黙っていてくださいね』
「うん」
 そう言うも、ニヤケている青を見たDS6は眉毛を上げた。
『君が陽先生に喋る確立は90%ですね』
「えええ、何でわかるの?」
『確立です、あなたの因子を計算して出した結論です』
「すげぇ……、うん。当たってる」
『笑い事じゃありません』
 二人は笑い合った。
 エスカレーターを降りきって、青は寮へDS6は教員室へ反対方向に通路が別れる所まで来た。
『帰り道は分かりますか?』
「うん、ここ真っ直ぐでいいんだろう? 大丈夫だよ。じゃあ、今日はありがとうDS6」
『では、明日の放課後お会いしましょう』
 二人は手を振り合って別れた。
 通路にはオートウォークがあっても、建物から建物への移動の通路は長く、チューブは透き通っていて、星が瞬いているのが見えた。
 未だに構造が良く分からない青は、案の定、寮に帰る途中で迷子になった。
「さっきあっちから来たから、こっちに行ってみるか……」
 誰かに帰り道を尋ねようとも、六時を過ぎた校舎には人っ子一人居なくて、そして、こんな時に限ってX−DDやX−DSの姿は見えなかった。
 夜間通路は薄青のエコライトに光は絞られていて、人が歩き出すとセンサーで電気がつくが、徐々に薄暗くなってゆく構内で、 どっちに進んでいいのか途方に暮れていた……。
 その時、何か音が聞こえた。
「ん? ……何だろう」
 それは何かガラスのような物が割れる音で、東の塔の辺りから響いて来た。
 そこまでの距離は百メートルほどあったにも関わらず、ここまで聞こえて来ると言うのは、何かが壊れたような音に違いない……。
 青は何となくそちらに向かって歩き始めたが、程なく、通路の中央に置かれたメッセージボードに気が付いた。”東の塔は現在封鎖されております。立ち入り禁止”赤い文字でそう書かれていた。
 でも今の音は確かに向こうから聞こえて来た……。
「君、そっちの教室は侵入禁止だよ。読んだかい?」
 いきなり後ろから声を掛けられ、青は飛び上がった。
「ああ、びっくりした!」
 音も立てずに背後に居た人物は、バイオ科学の先生スミエ・グラだった。
「君は確か、編入生の重形青くん。迷ったのかい? 」
「はい……、迷ってはいたんですけど、さっき向こうで何か音がして……」
 東の塔を指差した。
「あの塔は今は使われていないんだよ。従って、誰もいないはずだ」
「でも……」
「君はこれ以上構内を歩き回って、禁止されている東の塔に無断で侵入しようものなら、再び減点評価を貰ってルームメイトに叱られるんじゃないのかい? 心配なら私が調べてこよう。君はもう戻りなさい、――と、言っても帰り方がわからないんだね」
 先生は腕の装置でXと連絡を取ってくれた。
 ま、確かに先生の言うとおりで、青はトオルの激怒する顔が浮んで胸を撫で下ろした。


 そして、程なく迎えに来てくれたのは、昨日のX−DD7だった。
 彼は昨日と同じ優しい笑みを零していた。
「彼を寮まで……いや、もう食堂の方がいいかな? 夕食の時間だね。案内してあげてくれ」
『はい。わかりました。ではこちらへ』
 DD7は早速、青を塔に繋がる通路から本校舎へと先導し始める。
『DS6と一緒じゃなかったのですか?』
「さっきまで勉強見てもらってたんだけどさ、おれも迷うと思わなかったんであっさり別れたら、こんな所で迷っちゃってさ……」
『そうでしたか、私はてっきり彼が職場放棄したかと思いました』
「ち、違うからな! あいつが悪いんじゃないんだ! おれが馬鹿だからまた迷っただけなんだよ」
 DD7が静かに言うので、DS6になにかあったら悪いと思い、青は慌てて彼を弁護した。
『大丈夫ですよ。別に彼のことを報告したりしませんから』
 そう言って、DD7は全てを見透かしているかのように再びニコリと笑った。
「ああ、驚いた……」
『それにしても……、全く反対方向の東の塔になんて、どうして向かったのですか?』
「それがさぁ、音がしたんだよ……、何か、ガラスの割れるような大きな音が……」
『……音? 』
 DD7の顔が怪訝そうに変わる。
「うん。様子を見に行こうとしたら、途中でスミエ先生に呼び止められたんだ……。東の塔は立ち入り禁止だって言われて……」
『……そうだよ。あの塔は五年前から封鎖されているんだ……。なのに……、音がしたと言うのかい?』
「ああ、聞き間違いではないと思うけど……」
 オートウォークの上で黙り込み何やら考え込んでいるDD7の、まだ見たことも無い真剣な表情に不穏な空気を感じ取るが、それが何なのかその時は理解できなかった青だった……。



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