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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 


  1、空に浮ぶ国立特殊能力学校



 繊細な彫刻が施された、円錐形の先鋭な塔らしき建物の中は、夜も深く湿度を帯びて陰気で酷く不快だった。
 天井は高く暗闇に覆われて、その先は肉眼では確認できない。
外から光につられて入ってきた蝶が、壁に取り付けられた年代物の蜀台の蝋燭に、命を落として時折炎が揺らめいた。
 音も無く光も乏しい、あるのは永遠の孤独と絶望、そして心の奥に広がる漆黒の闇……。
 そんな肌を刺すように緊張した時間の流れの中、二人の男が向き合っていた。
 1人は拷問椅子の上で腕を縛りあげられ、頭には幾つものコードが差し込まれていた。 もう1人の男はコードから送られてくる情報を、コンピューターの画面で確認しながら、その価値の大きさに満足げな微笑を漏らしている。
 しかし、白衣を着た拷問椅子の男は白目を剥いて、もう殆ど虫の息だった……。
くすんだ皮膚やピクリとも動かない様は、まるでマリオネットのようで、男の成すがまま乱暴に頭からコードを引き抜かれても、最早、何の反応も無く、頭を横に倒したまま口から唾液を垂らしていて、魂が抜けたかのを知らせるかのように、やがて椅子から転げ落ちた。




 
惑星暦191125年。
 ますます貧富の差が激しくなって、犯罪はさらに巧妙、そして特殊で悪質になる一方、多国間同士の小さないざこざや協定破棄など、情勢も不安定な中、ここメガシティにおいては国家警察部隊が強力な力を持って抑圧してきてはいたが、近年、特殊能力者の犯罪が多発し、彼らの横行を阻止すべく、それに対抗する国家特殊能力警察部隊、通称NSAPを設立した。
 メガシティの大地は浮硬石という、名前の通り硬くて浮く性質を持った石を、多く含む強力な磁場を発する土でできていいて、太古の昔に大陸から地殻変動で切り離された島が、空中に幾つか点在しており、NSAPの本部は第一ターミナルと言われる、一番大きな島に建設されていた。
 未来のNSAP候補生やバイオ研究機関、そして心理学など、あらゆる犯罪に対しての研究機関とそれを学ぶ生徒が通う学園都市は別の浮島にあり、その他、国家警察本部とその横に前人未到の脱獄不可能な監獄が、個別にこの広い空中に点在していた。
 人々は何度かの地殻変動が起こった後の、陽の降り注ぐ大地と、地下に潜って生活する民、或いは海に居を移して海上都市で暮らす者と千差万別に暮らしていた。
  しかし、概ね光り輝く緑の大地と海上都市には裕福層が居を構え、岩をくり抜いて生活する民は貧困に喘いでいた。
その、大地と海の狭間に建設された素神を祭った大神殿の一角に、7歳から15歳までの子供たちが勉学と修行に勤しむ武道館があった。
「 宮司《ぐうじ》様、重形青(しげかたあお)が午後の授業に現れません。また武道の授業をサボったようです」
 執務室で祭事の準備をしていた宮司に、禰宜《ねぎ》が眉を潜めて伝えた。
「 うむ 」
 年配の宮司は手を休め、いつもの事とは言え、あきらめ顔で頭を振った。
「 どうせ奴は今年も学園入学は無理でしょう。身体能力は人並み以上でも、素養、教養、協調性全く無しで、選考試験資格はおろか推薦もできません。去年から全く進歩無しです」
  厳しい口調で禰宜が言った。
「 三年前に姉の瑠華(ルカ)が学園に入学した時、かなり悔しがっておったから負けじと頑張るかと思いきや、反対にあれ以来、年々意欲が失せるようじゃのう……」
 宮司は長く白い顎髭を撫でながら思案した。
 重形瑠華と青の姉弟がここに来てかれこれ十一年になる。青はまだ三歳になったばかりで瑠華は物心ついた五歳になっていた。
 その頃から瑠華は物体を空中で止めることが自在にできる、特殊な能力を持っていたが、同じ血を引く弟の青は成長しても能力と言えば、手のひらで石ころを転がせるくらいでしか無かった。
三度の受験失敗は、いかに呑気な青とて落ち込まざる得ないのか、最近では意欲もすっかり失せて、授業をエスケープしては洞窟に入り込んで仲間と遊んでばかりだ。
「 姉の瑠華とは仲が悪くしょっちゅう喧嘩してましたからね……、自分より先に学園に入学されてがっかりしたんでしょう。まあ、年齢も3歳違いますから当然と言えば当然ですが、ある意味ライバルでもあり、たったひとりの肉親でもあって寂しさもあるんでしょう」
「 尚更、学園に行けるよう頑張れば良いものを……。全くやる気無しで遊び惚けておるな」
「 はい、その通りです」
  NSAP学園に入るには、瑠華のような特殊能力が要求されるので、試験だけができても入学を許可されるわけではない。
重形の出た一族の系統を辿ると、青に能力が遺伝してない方がおかしいが、それにしても能力の開眼があまりにも遅くて宮司は危惧していた。
「 ところで、明日の準備はそつが無くできておるか?」
「 はい宮司様。NSAPの生徒を乗せた護送艇が降りてくる広場は、午前中誰にも使わせないよう通達しておりますし、学園の学生達も一緒に食堂を使えるよう昼食の準備をしてあります。午後に出発と聞いておりますので」
「 よかろう。」
「 では、失礼いたします」
「 うむ」
  禰宜が去った後の執務室で、宮司は久しぶりに青の機密出生ファイルを取り出し広げると、暫しそれに目を通した後に深くため息を付き、窓の外、子供達の歓声が上がる運動場を見るとも無しに見るのだった。




「 ひゃっほ〜、ついて来れるものならついて来なっ」
 青《アオ》のエアーボードは勾配60度の岩窟道を、猛ピードで走り抜けていた。
 ここは神殿から30キロも入った薄暗い地下道の中で、地下四層から三層になっている一番上の階で、奥に入り込み過ぎて殆ど人が訪れない場所で、青は隣町の少年達とエアーボードのスピードを競い合っていた。
所々に天然の空気穴が開いていて、地上からの光が差してぼんやりと道を照らしてはいたが、光と陰のコントラストは返ってそれが災いし、目の焦点が合わしずらい。
 青は暗闇でも見えるゴーグルを掛け直した。
先頭を走らなければ、このスピードで少しでも岩盤に触れると、小石が散って後方に飛ぶ。
しかし、先頭を走る青は態と石壁に触れて、小石が剥がれるのを念じた。すると、その石が当たった後者の隆二が悲鳴をあげた。
「てめ〜〜〜、青っーーー待ちやがれ! ショボイ能力使うんじゃねぇ!」
「うっせぇ、がけ崩れ起こしててめぇを下敷きにするぞ!」
「偉そうな口利きやがって、できねぇくせによ〜、そんな能力あったらとっとと受験受かってんだろうが」
 青は悔し紛れに指先で壁を崩すまねをして、幾らか小石がぽろぽろと落ちてきたが、全くもってそのしょぼさは拭えなく、落ち込むのであった……。
以前、姉の瑠華が一メートル程の岩を空中で止めたことがあって、それを見たときはその凄さに唖然としたものだった。
あんな風に大きな岩を投げ飛ばしてみたいものだと常々思ってはいても、どうにも青の能力はこれ以上開眼しない……。
「反則だぞ! 危ねぇじゃないか!
「竜二、今回も俺の勝ちだ。金持ってんのかよ」
 竜二は、2メートル程前を進む青の、靡《なび》く漆黒の髪を眺めながら悔しさに喚《わめ》いた。
 ここ、洞窟の中は無数の縦穴だけでなく、横穴や螺旋といった通路は縦横無尽数にあって、浮力を利用したエアー・ボードでスピードを競い合う、青ら少年達の絶好の遊び場となっていた。 
 しかし、こんな狭い所で人と接触したら重大事故にもなりかねない。
 洞窟のあちらこちらに住居を構えて、生活をしている人々との事故を避ける為に、こんな奥深くまで入り込まなくてはいけなかったので、青はこの日のように授業を度々エスケープしなければならなかった……と、言うより進んでエスケープしていた。
「ゴール!!!」
 青がゴールを決めると、そこにいた数人の少年達から歓声が上がった。
急ブレーキで足元のエアー・ボードを止めると、青はしたり顔で竜二に手を差し出した。
「ほら、500ユンよこしな」
「ちくしょーーーーーーーっ、この貸しは倍にして返して貰うからな」
 竜二は胸ポケットから500ユン札を一枚取り出し、忌々しそうに青の手中に手渡した。 
 それを見ていた竜二の仲間三人も、彼と同じ顔して悔しそうに青を睨んでいる一方、青の仲間、同級生のセイとふたつ年下の誠《まこと》は、同世代では青に敵無し、竜二に100勝25敗と断トツに勝っている青を賞賛、或いは仲間として鼻高々で彼の肩を抱いた。
「さすがだな青」
「楽勝さ! じゃ、竜二、また修行しとけ、いつでも相手してやっからな」
「生意気な口利きやがって、いつかその口を塞いでやる」
「負け犬は黙ってな、帰るぞ、セイ、誠」
 そう言って青はゴーグルに手を当てた。
「よー、おまえらは孤児だから、毎日遊び惚けても誰も気にも掛けやしないだろうけど、俺達ゃ両親揃ってるし、ちったー勉強もしないと叱られるしな」
「なんだとーーー」
 殴り掛かかろうとする青を、セイと誠が両脇からとり押さえた。
「てめー、もういっぺん言ってみやがれ」
「何度でも言ってやるよ、みなしご、孤児め!」
 青の腕力に押さえきれなくなったふたりは、諦めたようにあっさり手を離し、ため息を付いた。
その瞬間、青の拳が竜二の頬に当たった。
「やりやがったな、青ーーー!」
 そして、直ぐさま反撃に出た竜二だったが、取り押さえる者は無く、セイらと共にふたりの取っ組み合いを呆れて見ていた。
「毎度のことなんだけどね、試合で負ける度に青にいちゃもん付けるの止めてくんないかな、毎度毎度止めに入るのもアホらしくなってきたよ。」
「まーなー、竜二も負ける度に喧嘩吹っ掛けるのは、癖みたいなもんなんだけど、いい加減青もそれに気づけばいいのに、毎回毎回、あの口車に本気で乗りやがってさぁ……、お約束みたいなもんじゃないか……」
 竜二の取り巻きのひとりが、うんざりしたように呟いた。
「青の単純さは長所なんだけどね……」
 セイが苦笑いした。
 青とセイ、そして誠の三人は神殿の横に建っている孤児院で育ち、同じ広大な敷地に建っている学校で、竜二たち一般家庭出身の者と、一緒に勉学に励んでいる。
一般家庭と言っても、この辺り地下で暮らす者は貧しく、片親だけと言うのも珍しくなかった。
よって、少年達の境遇はさして変わる物でも無かったが、元来、負けん気が強い青は喧嘩を吹っ掛けられるたびに、いちいち乗ってしまう単純な性格なのであった。
「どっちもどっちだけどね」
「まったくだ……」
 で、全員うなずいて、ふたりの気が済むまで見守ることの、暗黙の了解がいつしかできていた。
 五分くらい経っただろうか、ふたりは呪いが解けたようにいきなり立ち上がると、気が済んだのか衣服の埃を払うと、何事も無かったようにエアー・ボードに乗っかり、その場を後にした。
「なんだよ青、待てよ」
 少年達がそれぞれの住処に戻って行くと、辺りは静寂に包まれた。



 



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