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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   19. 羽交い絞めされる青




「……なんだよ」


 みんなの視線を一身に集めたシオは入り口に立ったまま、いつも通りぶっきらぼうにそう言った。
 灰色のブレザーにネクタイを緩めた出で立ちで、両手をポケットに突っ込んだ彼もまた鷹揚にみんなを見返している。
 この前の黒い戦闘服とは雰囲気が全く違う、ソフトで温い制服姿に緊張の欠片も見当たらず、白金に輝く長い前髪が眠そうな瞳を半分隠していた。
「おまえか? 最後のルームメートって?」
 驚きと、嬉しさが混ざったような顔して青がシオに言った。
 なんてったって青にとっては、トオルもシオも始めて一緒に戦った仲間であったから、それはもう嬉しくてしょうがない。
「おまえ……、誰だっけ……?」
 真面目な顔したシオに言われて、今度は青が落ち込む番だった。
「ちぇっ、薄情な奴だ、おれが死ぬ思いして助けてやったのによー、忘れちまったのか?」
 そう言いながら、ふて腐れる青の頬にある傷を見て”痕が残ったのか……”と、シオはぼんやり考えていた。
 エレベーターで最後に見た日は、その頬にテープが張られていたが、それよりも印象に残ったのが、希望に満ち輝いていた青の目がシオには焼きついていた。
 噂で青が編入するだろうと聞いていたからかも知れないが、初めてであの度胸にあの体力、そして未知なる能力の可能性を、学園が放っておくはずがないとシオは思っていた。
 何しろオリン岬の森林公園を滅茶苦茶に破壊した張本人だからだ……、あれはシオも上空で見たがロケット弾が落ちた爆風地点を差し置いても、青が真っ二つに折った大木の数は数十本にのぼり、すっかり公園の景観が変わった程だ。
 そして、学園が国立なので青本人への厳罰は、辛うじて免れることができたのだった。
「ハハハハハ、忘れられてやがんの」
 トオルは笑ったがシオは笑ってなんかいなかった、寧ろ眉間に皺を寄せて険しい顔をして青を見ながら言った。
「冗談だよ、重形青……」
「だろう? だろう? 当然さ! おまえがおれの名前を忘れるはず無いだろう? 命の恩人なんだぜ」
 青がそう言っても、シオの眉間は緩まない。
「ちげぇよ、お前……、 あの時、オレが撃たれてたのも肩を脱臼してたのも、知らなかっただろう……」
 物凄い形相で、綺麗な顔を歪めて青を睨んでいる。
「撃たれたのは知ってるけどさあ……、だ、脱臼??? それは気が付かなかったなぁ……」
「気が付けよ、てめぇ……」
 額がぶつかる距離で、シオが青にガンつけていた。
青は間近でシオの瞳を見ながら、本当に綺麗なブルーでこんな色見たこと無いと思っていた。
「でも、元気そうじゃん」
「あたりまえだ! あれから何日経ってると思ってんだ!」
「そうだよなぁ……」
 気のない返事をしながら、青は鼻を穿(ほじ)っている。
「ま、よろしくな」
 青はにこにこしながら、鼻に突っ込んだ指でシオの肩に手を掛けたが、思いっきり振り払われた。
「汚いだろ! てめぇ、触んな!」
「機嫌悪りいなぁ、これからずっと一緒らしいじゃないかーー、仲良くやろうよ」
「うっせぇ」
 シオはそう言い残して奥のベッドルームへと向かったが、その後姿に何気なく青は呟いた。
「おまえ顔だけじゃなく、性格も女みたいなのか?」
 その言葉に反応したシオは、青の目の前にいきなりテレポートしてきて、強烈な頭突きをくらわし、……そして、一瞬にして消えた。
「痛ってっっっ、あのやろう……今のは反則だろう」
 余程痛かったのか、青は両腕で頭を抱え込むと床に蹲(うずくま)った。
 これで全員揃ったようだ……。
 青の飄々とした性格は、どうやらここでもやっていけそうだと思ったバーディーは、寂しいような羨ましいような奇妙な感覚に囚われた。
 バーディーは彼らを全く知らない分けではなく、タイガとトオルは九歳で入学した年の一年間は一緒に勉強をした仲だ。
 それから一気に飛び級を繰り返して、あっと言う間に大学院まで進級してしまった為、バーディーの周りはいつも年上ばかりで、人間の姿をしていても見た目が、絶対的に幼いバーディーは友達を作ることが難しかった。
 だから、今から学園生活を送ろうとしている青が眩しく映り、この季節、新入生や青のような編入生を見かけるたびに、少しばかり飛び級を後悔するのだった……。
 シオは時々バーディーの所属する研究室に現れた。
 そこはテレポーターに対して学園への侵入を防ぐ為、或いは捕獲方法などを日夜研究開発する部門だった。
 学園ではテレポーターに関する学術的なことに秀でる教授は稀で、寧ろシオほどの能力者はスカイ・ポリスに数名いるだけで、しかも彼らテレポーターは戦闘能力に長けているので、たいがい任務に就いていて教官としてここに来るのが難しく、授業がままならないのが現状で、シオは研究に協力することで単位を貰える仕組みになっていた。
 しかし研究はテレポーターに限らず、あらゆる超能力者に対して行われており、開発と同時に能力者も切磋琢磨し合いながらその結果、いたちごっこのように新しい技術の阻止と突破を繰り返していた。
 シオとバーディーは普通に話をしたが、それは技術的なことに限られていて、友達と言うほどでは無かった。
 まあシオは元来人をあまり寄せ付けない性格ではあったが……。


 程なくトオルの使用人がベッドルームから戻って来たが、来たときと同じ数のトランクを持っていた。
「それでは坊ちゃま、クローゼットは整理いたして置きました。トランクは持って帰りますね、狭くて収まらないようですし」
「ああ、ごくろうだったな」
 本人は気にしてないだろうが、いっぱしの領主さまのように腕を組むと、自分より何倍も年のいった使用人に頷いてみせた。
「それでは、我々はこれで失礼します」
「うん。ありがとう」
 彼らはトオルに頭を下げると、ブランド物のトランクを数個抱えて部屋を後にした。
「じゃあ青、僕もこれで帰るよ。明日の授業に必要な物は机のスケジュールボタンを押すと出てくるよ。今から夕食まで時間があるから、それまでに揃えておくといい。あ、それと今夜の夕食はちゃんと制服を着て行くんだ。制服はクローゼットに入ってるからね。何かあったら連絡してきて、さっき瑠華と僕の連絡先をインプットしておいたから」
 そう言って、バーディーは腕の機械を指差した。
「ああ、ありがとうバーディー、じゃ、またな」
 青は手を振ってバーディーを送った。
 彼が居なくなるとすることが無くなった青は、机の椅子に腰掛けてくるくると回りながら、四人部屋とは言え十分すぎるほど広く、設備の行き届いた快適な部屋を見渡した。
 どうやら青の背中合わせで後ろの机はシオらしく、青と同様まだ片付けられて無いので教科書が高く積まれたままだった。
 そして、通路を挟んだ隣の席がトオルの机、対角線にタイガの机という配置で、彼らもまだ教科書や参考書類を棚に片付けている。
 急に思い立った青は、足元に置いてあったリュックの中からマルを取り出し、机の上に置いた。
「あーまた持ってきやがった、汚いぬいぐるみを」
 トオルが背後で言うが、別に気にも留めない青は、それから徐に教科書を片付け始めた。
「無視かよ」
「トオル、おまえあれから見かけなかったけど、ここに帰ってきてたのか?」
「何だよいきなり……」
 それについてトオルは少なからず心が痛んでいた、何故なら、あんな戦闘態勢の中、素人の青を残して自分だけ帰還してしまったのだから……。
「あの時は悪かったよ。俺が先に護送艇に乗り込まなけりゃ、おまえはあんな危ない目に合わなくてすんだのにさ……、ほんとあの時、もう駄目かと思ったぜ……」
「それについてはおれも、あの”怒りん坊”に感謝してるんだ、奴が来てくれなかったらほんとヤバかったんだよな」
「誰が”怒りん坊”だって?」
 振り向くと、寝室から上着とネクタイを取ったシオが出て来て、自分の椅子にドサッと乱暴に腰掛けた。
 こいつはほんとにその繊細な見かけと、口と態度の悪さが違いすぎると青は思う。
 ”しかも直ぐにキレるしなぁ……”と、言葉にしたら殴られそうなので心で呟く。
「でもさー、こいつ直ぐにあの能力者に眠らされちゃってさ、おれがどんなに苦労したか知りやしないのに、怒ってばっかだ。少々ピストルで撃たれたって、脱臼したって我慢しろってんだ」
 青は笑いながら再びクルクルと椅子で回っていた。
「……おまえ、まだ頭突き足りないか?」
 睨みを利かせてシオが言うも、青は幼い子供のように天井を見上げながら、回転し続けていた。
「折角ポケットに入れて命がけで持ってきた、金貨や宝石も没収されるしよう……」
「お前、あれほど注意したのに持ち出して来てたのか?」
 トオルが目を丸くして言った。
「うん。ポケットに入れておいたんだけどさあ、ここでおれが眠ってる間に服を洗ったらしく、バレて没収だとさ……。惜しいことしたなぁ……、こんなんだったら飲み込んでおくんだった」
「……絶対、馬鹿だコイツ……。どっちにしろ見つかるだろうに、ナメてんなここの科学技術を」
 呆れ果てたトオルは青を見たが、張本人はどこ吹く風でまだ椅子をクルクル回転させて遊んでいる。
「いい加減にしろ! そうやってぐるぐる回られるとイライラする」
 シオが足で青を椅子ごと蹴ると、床を滑ってリビングまで転がって行き、それが面白かったのかまたやってくれと向こうでせがんでいる。
「あいつバカ過ぎる……」
 トオルはこれからの授業のことを思うと項垂れた。
 ルームメイトはチームメイトなのだ。
 何事に置いてもチームワークが要求されるスカイ・ポリスでは、それが一番重要なことであるから、トオルがこのチームの行く末に不安を感じるのは至極当然のことであった……。
「ウルトラバカめ」
 そう言って、さっきから自分の名を呼ぶ青を無視して、シオは教科書の整理を始めたのだった。


 学園の寮だけでもエスカレーターは常備7基稼動していた。
 寮と言ってもここは立派な高層ビルディングで、マンションと言っても良いくらいい全部屋が機能的に設えられていた。
 主に学生寮となっているこの高層ビルは、全部ではなく教授も何人か住んでいて、何百人が絶えずビル内を移動している。
 特に食事時のエスカレーターの混雑は、今でも年功序列で下級生は階段を使う羽目に時々なる。
 上の階の上級生から先に乗り込むと、どうしても下の階の生徒はあぶれてしまい、満員になった時に各層のボタンが押されていても、決して扉は開かない構造になっていたが、空いてると判断された場合は扉が自動で開く、よって、たちが悪い上級生は中が空いていたとしても、わざと下級生を乗り込ませはしないのだ。
 丁度、青を真ん中に右にトオル、左にシオと並んでいる扉の前に、上から降りて来たエレベーターの扉が開いた。
 そして運悪く、昨日エレベーターの中から外へ青に吹っ飛ばされた、トロエ・ミキとその相棒ハナリ・コウが目の前に立っていた。
 十二人乗りのエレベーターには、彼らの他に数人しか乗っていない。
 すぐ青に気付いたふたりは、薄く残忍な笑顔を返した。
「これはこれは、昨日のチビ助じゃないか。これに乗れると思ってんのかよ」
 ミキが腕組みをして立っていた。
 ――が、しかし、青は無視してドカドカと中に乗り込むと、トオルにネクタイの結び方を教わろうと、必死で俯いて格闘している。
「ねーねートオル! 結んでくれよ〜」
 青は首からネクタイを垂らして、トオルの前でひらひら翳している。
「おまえ、ネクタイの結び方くらい習っておけよ!」
「シオでもいいからさぁ〜、頼むよ!」
「撃つぞ」
 シオは鬱陶しそうにそう言い捨てて、青に背中を向けた。
 タイガは既に鬱陶し気にそっぽ向いたままだ。 
「こら、てめぇ! 無視すんじゃねぇよ」
 とうとう痺れを切らせたミキが怒鳴った。
「うっせぇよ、あんちゃん! おれ今それどころじゃないから」
 頭ひとつ分背の高いミキに向かって、青は真顔で見上げた。
「ふざけてんのかおまえ!」
「あんちゃん誰?」
「誰だと?」
 ミキの顔がより険しくなる。
「何? おまえ何かやったのか?」
 トオルが不審そうに尋ねた。
「知らねぇ……、あれ? もしかしたら昨日ぶっとばした奴かな」
 タイガは真顔で尋ねている青が、すっかり昨日の相手の顔を忘れているのが可笑しかった。
「えええ?! ぶっ飛ばした?」
 トオルが悲鳴に近い驚き声をあげた。
「ふざけんじゃねえぞ、クソガキ!」
 そう言って胸倉をミキに掴まれた青だったが、別に慌てたそぶりも無く上級生を見上げて言った。
「あんちゃん、懲りてないの? またぶっとばされたい?」
「何だとてめぇ!」
 ミキが殴ろうと拳を振り上げた瞬間、青もまた彼の腹向けてパンチを入れようとした、その動作を察知した、タイガがミキの肩をわし掴みし、シオが青の首を腕で締め上げて、二人を一気に引き離した。
 その防御のジャストタイミングは、タイガとシオの運動神経が抜群に良いという他ならない。
一触即発の重い空気の中、トオルとコウの二人は呆然とその場に立ち尽くしていた……。
「てめぇ、殺すぞ……」
 青の耳元で静かに、そして脅すように囁いたのはシオだった。
 首が絞まって声が出せない青は、真っ赤な顔して手足をバタつかせている。
「先輩……、ガキ相手に本気になんないでくださいよ」
 肩を押さえつけた相手を見ようと振り向いたミキに向かって、タイガが低い声で呟いた。
 シオに劣らずドスは利いていたし、そして、細めた目が切れそうに怖いと覆えるのは、タイガの能力を知っての事で、この状況では上級生と言えども彼に逆らうのを躊躇(ちゅうちょ)してしまう。
 監視カメラもある事だし、ここは大人しくした方が得策だと踏んだミキは、それでも悔しそうな顔して腕を下ろした。
「まあ、ここはお前に免じて許してやろう……」
 ミキは肩を動かして、タイガの手を忌々しそうに払った。
 そしてタイガはトオルを見て言う。
「さっさとそいつのネクタイを結べよ、煩くてかなわねぇ」
「そうだな。――ったく、こっち向きな、食堂に着いちゃうよ。身だしなみは基本だから入り口でチェック受けるんだよ」
 シオは青をトオルの前に突き飛ばした。
「痛ってぇなあ、おまえほんとうに乱暴だな……、だから結んでくれと、さっきからみんなに言ってんのにさぁ? 聞いて無かっただろう、なあ、なーあー」
「うるさい!」
 タイガとシオは、同時に叫んだ。 

 




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