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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   18. ルームメイト




 セド・タイガはエレベーターの中で一連の出来事を客観的に見ていた。
 元々、彼の性分は売られた喧嘩以外は興味無いからである。
 しかし、新入生だろうか……私服のあいつは、凡そ学園の事には疎そうだったが、怖いもの知らずでしかも度胸があった。
 久しぶりに面白いものを見たと、微笑を浮かべたのが気に入らなかったのか、殴られた少年の相棒に睨まれた。
「タイガ……何が可笑しいんだよ」
「別に……」
「てめぇも、いつまでもナメてんじゃ……」
 タイガに近寄ろうとしたハナリ・コウの後ろから、戻ってきた青の身体がぶつかったので、とっさに避けたタイガの真後ろのガラスに彼はしこたま頭をぶつけた。
「あ、悪りぃ、あんちゃん! 躓《つまず》いちゃったよ」
「てめぇわざとだろうが!」
 青はふと手を動かして上空で止め、そしてゆっくりその手を降ろして頭を掻いた。
 その動作に殴られると勘違いしたコウは身構えた。
「ほら! バーディー・バーディー案内しろよ! どこだよ部屋は! どっち行けばいいんだよ」
 目を丸くしたままエレベーターの床にしゃがみ込んでいた、バーディーの手を取って立ちあがらすと、青は彼の背中を押して先に歩かせ、通路の人垣が二つに別れて彼らを勇者のように崇める視線の中を歩いて行った。


 さっきの出来事が頭から離れないバーディーは、オートウォーク(動く歩道)から外の景色を見下ろしている黙り込んだままの神妙な顔の青を見て、先輩に足蹴りを食らわすなんて、青でもやはり気にしているのだろうかと不安になった。
「青……さっきは……」
「バーディー……、おれさぁ、おしっこちびりそうだぜ……」
 悪寒がしたのかぶるっと身体を震わせて、手すりを両手で握りしめた。
「あ、青〜?」
 拍子抜けする青の言葉に、バーディーは笑いがこみ上げてくる。
 青ってばどうしようもなく、面白い奴だ。
 さっきまで上級生相手に、堂々と渡り歩いたかと思えば、今はへなへなのぐだぐだだ……。
 そして、泣きべそを掻いている。
「おれ高い所苦手なんだよ」
 思いっきりへっぴり腰で、窓際から胴が引けていた。
「あれ? お前さっきの……なんか用かぁ?」
 青は五メートルほど後ろで手摺に凭れている、エレベーターで一緒だった少年に気がついて言った。
「……別に、おまえに用はねぇよ」
「そっか」
 そう言うなり青は手摺を押さえ、手を伸ばしてぶら下ったまましゃがみ込んだ。
「ねーねー、まだかよぅ……まじトイレ行きてぇ……」
「なんでおまえはそんなに急変するんだ! 今のおまえはぐだぐだだぞ!」
「寮も学園も高すぎる! しかもガラス張りの窓だらけで、空を歩いているみたいでさぁ、おれヤダここ」
 手摺は絶対放すものかと死守している。
 しかも涙目で……。
「ほら、着いたよ」
 バーディーはそう言いながら、青の服を掴んで一緒にオートウォークを降りた。
 すると、タイガも一緒に降りたので、バーディーはさっき先生に貰った紙をポケットから取り出して確認する。
「そっか……、君……」
 バーディーが言い終わらないうちに、タイガは部屋の前まで歩いて行くと、彼を認識した装置が作動して重厚な扉がゆっくり開いた。
「彼と同じく、君もこの部屋のようだよ青」
「そっか? ……って、トイレ、トイレ!」
 青はそんなことなどどうでもよく、タイガもバーディーも差し置いて、中へどかどかと入って行ったかと思うと、トイレを探して駆け込んだ。
「マジトイレ行きたかったんだな……」
 騒々しく青がトイレに入ると部屋は静寂に包まれ、中には誰も居ないようだった。
 タイガは真っ直ぐ勉強部屋に歩いて行くと、自分の机を探して持っていたバッグの中から教科書を取り出して棚に並べ始めた。
 二つずつ勉強机が背後に並んだ勉強部屋、 隅に小さなキッチンを配した広いリビングと、浴室と洗面所、そしてリビングを挟んだ反対側にベッドルームが設えられていた。
 四人部屋とはいえ確かに普通の寮よりかなり広く贅沢な作りだ。
 そしてベッドルームは角部屋なので、恐らく青が怖がるほどに窓が広く明るい。
バーディーは寮に入ったことが無かったので、初めて見る部屋はとても物珍しかった。
 他のルームメイトはまだ到着していないようだが、荷物はそれぞれ指定の場所に置かれていて、主を待っているばかりのようだ。
 程なく青がトイレから出て来ると、ベッドルームを改めて見渡し、怖がると言うよりその絶景に驚いて感嘆の声をあげた。
「すっげぇ! この部屋からオリン岬が見えるぞ!」
「良かった。君が怖がるかと思ったが……、心配なさそうだな」
「あそこでおれは育ったんだ! ここから見えるなんて思ってもなかったよ」
 丁度、青のベッドは窓際にあって、小さな岬を眺めながら眠ることができそうだった。
「今度、連れてってやっからな」
 青は振り向いてバーディーを見ると微笑んだので、バーディーもその笑顔に勇気付けられ、ちょっぴり涙ぐみながらも嬉しくなってコクリと頷いた。
 そして、いつまでも窓から離れようとしない青に、机の前で荷解きをしているタイガに挨拶をするよう勧めた。 
「そうだな」
 あっさり青はベッドから降りて、タイガの側に歩いて行った。
「おれ重形青、よろしくな」
 タイガは顔を上げて青を見た。
「ああ」
 彼は無表情でそれだけ言って、再び作業に専念した。
 青も格別気にした風も無く、自分の椅子に座ると机の上に置かれた教科書の山に目をやった。
バーディーはその上に置かれた購入リストをチェックしながら、殆ど揃っていて他に買い足す必要が無いのを確認する。
「流石、瑠華だよ。学用品も制服関連も全て揃ってるから安心していいよ」
 その時、部屋の扉が開いて一人少年が入って来た。
何故だか、後ろにはポーター三人も従えていて、それはどえらい荷物の数だ。
「あ? あれーーー? 」
 青が少年を指差した。
「あーーーーっ、おまえは!」
 薄い青灰色の髪をした少年も驚いて青を指差した。
「……てか、誰だっけおまえ……? 顔は何となく覚えてるんだけどさ……」
 青がそう言うと、少年はがっくし肩を落とした。
「おまえなぁぁぁ! 俺はナイガ・トオル! 覚えとけ! 重形青!」
「そうそう! おまえあの時の! 海でおれより先に救出された奴だな!」
「てめぇ重形青! あれはお前があっさり術を掛けられて海に落ちたからだろう? 誰が助けに行ったと思ってんだよ!」
「……うん、まあなぁ……」
 青はポリポリと頬を掻いた。
「お前がここにいるってことは……もしかして……もしかして?」
「へへん! おれ今日からここの学生になったんだ! おまえ、おれのルームメイトなのか?」
 嬉し恥ずかしそうに、青が微笑んだ。
「ええええっ、お前と一緒なのかぁ?」
 トオルはがっくし項垂れて、自分の机に両手を着いた。
「坊ちゃま、この荷物どこに置きましょう?」
 ポーターの一人が尋ねた。
「適当にクローゼットに仕舞ってくれないかな、殆ど洋服だから……」
「はい。わかりました」
 ポーターはそう言って、トオルに一礼するとベッドルームへと入って行った。
「おまえ、金持ちの坊ちゃんなのかぁ?」
 トオルは高慢ちきな顔して、青を見ながら鼻で笑った。
 仕方なくバーディーが説明する。
「ジェネレル・コーポレーションって知ってる青? 世界銀行の創立者はトオルのお祖父さんなんだよ」
「すげぇ、トオルは金持ちなんだ」
 ――でも、青はトオルがどれほどの金持ちなのかは理解していないとバーディーは思ったが、そんな事にあまり興味なさそうな青の前で、あえて説明をする必要も無いだろうと判断して、詳しい話をすることはやめた。
「ところで君は確か、シャーロット・V・バーディーじゃないのか?」
 トオルが尋ねた。
「うん。そうだよ」
「見たことある顔だと思った。十二歳にして君はもう大学院に進学してるんだよね? どうしてここに?」
「僕は今年十三歳になるよ、君らよりひとつ年下なんだ。そう大学の武器開発部門で研究してる。瑠華が研究室に所属してる関係で、青の世話を頼まれたんだ」
「瑠華? ああそうか……、青は瑠華の弟だったな」
 その時、トオルにタイガの姿が目に入った。
「タイガ! また一緒なんだな、よろしくな」
 十三歳までは広い寝室で大部屋だった為、タイガとトオルは必然的に顔を合わせていて、知らない仲では無かった。
 タイガはさっきと同じように”ああ”とだけ言った。
「ところでさぁ、もうひとり居るんだろう? ベッドは四つあるんだけど?」
 青が素朴な質問をした。
「そろそろ……」
 トオルがそう言いかけた時、まさに扉が開いて、外から一人の少年が入って来た。

「えええーーー!?」


 彼を見るなり、トオルと青は驚きの声をあげたので、タイガまでもが顔を上げてその人物を見た。


「おまえか!?」
 トオルと青が同時に叫んだ。


「リグラス・シオ!」


 そして、その声にアイス・ブルーの瞳が不快そうに二人を見返した……。






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