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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― 学園の怪人編 ―
   17. 青のともだち




 飛行艇はあまりに振動も音も無く、静かにステーションに着いたので、巨大なターミナルビルが目の前に迫って来なかったら、操縦ミスでビルに激突するのではないかと思える程に、到着ゲート前で滑らかに停止した。
 そして、飛行艇の扉が開いて外に出てみると、高い天井には無数の立体広告が空中で揺れていて、ぼうっとそれを見上げていた青が、目の前の職員らしき制服を着た女性に気がついた時には、彼女とぶつかってしまった――と、思ったのに、一瞬にして彼女は消えた。
「な、なんだーーー?」
『……失礼いたしました。お怪我はありませんか?』
 唐突に目の前に再び現れた彼女は満面の笑みをして、アナウンサーのように滑らかな声で話しかけてきた。
「立体映像よ。ターミナルに設置されている案内人なの。返事してあげないと行ってくれないわよ」
 驚いて目をくりくりしている青を見ながら、瑠華がクスリと笑ってそう言った。
『行き先がお分かりにならないのでしたら、ご案内いたします』
 まるで本物のような動きや、その皮膚感覚に目を丸くしてる青を見て、”彼女”は再び話を続ける。
『どちらに向かわれているのでしょうか?』
「だ、大丈夫です……」
『そうですか。分かりました。それでは良いご滞在を』
 微笑みながら彼女はそう言って去って行った。
勿論、足音さえ響かせずに……。
「すっげぇ! おもしろいなぁ」
 瑠華はいつまでも彼女の後姿を見送る青をせっついた。
「人間そっくりだったよ、何でも喋れるのか?」
「そうねぇ知能指数は一般常識人並かしら、でも、必要なこと以外はプログラムされてないと思うわ、ここではあくまでも案内人としているから、空港の施設には詳しいと思うわ。それ以外は彼女たちには実体が無いから何もできないしね」
「そっか、ロボットのようにはいかないか」
「あら、それがロボットもいるのよね」
「えーーーっ、見たい! 地上ではあまり見かけなかったぞ」
「そのうち見ることができると思うわ、学園にも居るしね。ここがどんな所か忘れてやしないでしょうね。あらゆる研究施設の頂点が集まってるのよ、日々開発研究は進んでいるの、技術に関しては先端行かないと犯罪に対処できなくなるのよ」


 程なく瑠華と青は建物内にあるショッピングセンターに出てきた。
通路を挟んで無数の店が犇(ひしめ)いており、飲食店や衣料品、学園都市らしく当然文具店や書籍を扱う店など、それぞれ人々で溢れ返っていた。
 明らかに青より幼いが学園の制服を着た生徒も無数にいる。年長組は単なる買出しだろうか、着崩した制服のネクタイを緩めて、菓子を頬張りながらウインドウを覗きこんで何やら楽しそうに話をしていた。
「姉ちゃん、おれ腹減った〜ここで何か食べようぜ」
「そうね、昼食は出ないからここで食べて行こうか」
 店内は見たところ学生で賑わっており、青が先立ってカフェに入ろうとした時、後ろから聞いたことのある声がした。
「おまえ! 無視かよ!」
 その声に振り向くと、カフェのウインドウに凭れて一人の少年が立っていた。
学園の制服を着ていたが、短めの茶色い髪の色した少年の記憶が青には無かった。
少年は青を見て言ったにも関わらず、知らない顔なので青は無視して再び店内に身を翻した。
「こらっ」
 仕方なく青は振り向いた。
「しつこいなぁ何だよ、誰だ、てめぇは……」
「呆れた奴だなぁ、折角ここまで迎えに来てやったのに」
「だから誰だよ、てめぇは」
「青、彼はバーディーよ。シャーロット・V・バーディー。会ったことあるでしょう?」
「えええ! 何だとぉ? おれの知ってるバーディー・バーディーは猫だったぞ」
 どう見ても目の前の少年は人間で、青と年格好は似ているが、この前の猫とは似ても似つかない……。
 少年は大げさにため息をついて頭を振った。
「だから言ったろう。僕は半分人間で半分猫だって……」
「人間じゃないか! ほんとうにあの時の猫かぁ?」
 そう言いながら、青はバーディー・バーディーの頬を掴んだり、髪の毛を触ったりして感触を確かめている。
「マジか?」
「瑠華……このバカどうにかしてくれる?」
 耳を引っ張られながら、バーディー・バーディーは瑠華に助けを求めた。  
「ああ、この前会ったって言ったのは猫の時だったのね、じゃあ驚くのも無理ないか……。この子ったら、さっきから立体映像のお姉さん見ては驚き、興奮してるんだもの、田舎物でごめんねバーディー」
 瑠華は気の毒そうな顔をバーディーに向けた。
「すげぇなこいつ、猫になったり人間になったり、自由にできるのかぁ?」
「そうだよ。主に街に出るときは人間になるよ。じゃないと、やはりお前みたいに驚く奴が多いからね、それに、猫だと都合悪いだろ……」
「いいなぁ、おまえ面白れぇ!」
 嬉しそうな顔して、青はまだバーディー・バーディーの頬を摘んでいる。
「瑠華の頼みだから、こいつの案内役を受けたんだからね」
 しつこい青の手を鬱陶しそうに払って言う。
「うん。悪いバーディー、あなたの好きなレモネードおごるからさ、店で一休みしましょう」
 瑠華はそう言ってカフェに先立って入って行った。
 窓際の席に座ると、店内からは空を飛ぶ飛行艇が行き交う姿を見ることができた。
 そして、ビルの間を縫うように進む無数の楕円形モービルカーが、前後の距離を上手に取って走っていた。
 きっと全てが制御されているのだろう、統率の取れた制御都市だ。
「私は炭酸入りアップルジュースとバーディーはレモネードね、青は?」
 テーブルに浮かび上がったホログラムの立体メニューを見て、青は難しい顔をしていた。
「なんかよう、変なものばっかだぞ、”惑星一号の涙粒入りミックスジュース”とか、”大地から取れた炭酸石入りオレンジジュース”とか……なんだよこれ」
「そっか慣れないうちは分かりにくいわよね、単純にメニューに書いてある通りなんだけどね。”大地から取れた炭酸石入りオレンジジュース”は単に炭酸入りオレンジジュースと思っていいの、青はそれ好きでしょ」
「うん……」
「じゃあ、炭酸入りアップルジュースとレモネードに、炭酸石入りオレンジジュース、それと”ハムとマッシュルームのポテト・ケーキ”を三人前ください」
「誰に言ってんだ?」
「これよ」
 テーブルの隅にある小さな青いランプを指差した。
 それは高感度マイクで、横のボタンを押すと声を拾ってくれるので、普通に喋るとオーダーが完了する。
『かしこまりました。少々お待ちくださいませ』
 ランプが消えて注文が終了した。
「バーディーありがとうね。わざわざここまで来てくれて」
「僕はいいんだ。君みたいに忙しく無いからね、瑠華はもう部屋は移動したのか?」
 バーディーが尋ねた。
「勿論よ、今朝早く移動したけど、青を迎えに行かなくちゃいけなかったんで、まだ荷解きできてないの。青の制服や教科書とか必要なものは買い揃えてあるけど、バーディーが何か気が付いた物があれば買い足してあげてくれる? 男の子の物は良く分からなくて……。それに私はこれからまだ新入生を迎えに行かなくてはいけないの」
「大変だなぁ瑠華は……」
 バーディー・バーディーが関心している所に食べ物とドリンクが運ばれてきた。
「瑠華それよかさぁ、 おれたち金あるのか?」
「何よいきなり」
 瑠華は噴出した。
「だってさ、国立学校と言えども無料ではないって聞くぞ、それに制服だとか寮の費用だとか……」
「あんたさぁ、心配するのが遅すぎない? 呑気にも程があるわ。あのさぁ、私たちが孤児だとしても何にも親からの遺産が無かったわけじゃないのよ。両親が残してくれていた遺産は、神官さまが私たちの後見人としてしっかり管理して下さってるの、だから私はこうしてここで学ぶことができてるの、まあ、確かに国立学校だから費用は微々たる物で、殆どが無料なんだけどね。あんたは何も心配すること無いのよ」
「じゃぁさ、おれの小遣いは?」
 青は安心したのか目を輝かせて瑠華を見た。
「そうね、もうあなたのIDは登録できてると思うけど、ここでは誰も現金なんて持ち歩いて無いの、買い物は機械に手を翳すだけであなた本人と認識されるから、月末に請求引き落とし通知がくるのよ。でもあんたの場合、私が使える上限設定してあるからよく考えて使うのね」
「ちっ、抜け目の無いクソ女だ……」
「じゃないと使いたい放題使うでしょボケ」
「なんだと、クソブス!」
「バズーカ級のウルトラ・バカ」
 食べながらの悪口の応酬にバーディーは苦笑いする。
「瑠華、完全にキャラ変わってる……」
「みんなさぁ、私にどんなイメージ持ってるわけ? 時々、言われるけどさぁ……」
「黙ってれば超お嬢様……」
 そこで瑠華と青は急に意気投合したかのように、顔を見合わせてガハガハガハと大笑いした。
「あり得ないわよ」
「うん。あり得ない、あり得ない! 瑠華がお嬢さんなんて」
「悔しいけど、それは認めるわ。だってねぇ青……」
「……だよな、姉ちゃん、笑える」
 瑠華の自他共に認める幼い頃からのお転婆振りを思い出して、二人は苦笑いを隠せなかったが、バーディーには彼らが仲が良いのか悪いのか、顔を見合わせて笑っている二人を見て判断しかねたが、しかしそれは兄弟がいないバーディーにとって、少しばかり羨ましかったりするのだった……。


 慌しく食事を終えた瑠華と別れて、青とバーディーは取り合えず学園の寮に向かう事にした。
 足りない物にしても、見てみないことには瑠華が何を買い揃えていたか、わからないからだ。
 ターミナルを出て、モービルカー乗り場にやって来たふたりは、程なく横付けされた銀色の車に乗り込んだ。
 ゆったりとしていて向かい合わせのシートは横三列で、ふたりの他は誰も居ず、向かい合わせで席に着くと程なくアナウンスが聞こえてきた。
『行き先をどうぞ』
「セントラル学園前、B2棟ラウンジ5へ」
 バーディーが告げる。
『かしこまりました。凡そ10分の乗車です。』
 土地が狭い理由もあって、ここ学園都市では建物は超高層だ。
 どのビルも優に百階は越えているだろう。勿論、学園も例外ではなく、幾つかのビルの中に教室が犇いていた。
 そして、寮もしかり……、見晴らしが良いのでどうしても上級生の特権で、高学年になるほど上の階になるのだ。
 青はモービル・カーが上空をゆっくり進むので、少しばかりの恐怖を交えながらも、その絶景とも言える景色を堪能できた。
「何かさぁ……、すげえょここ……、地上とは世界が違うよ」
 すっかり見入ったまま、浮島の光景に圧倒されて言葉が詰ってしまう青だった。
「都会と言うか……、次元が違うと言うかさぁ……」
「僕は君の住んでた地上に憧れるな……、海は透明で青いんだよな」
「ああ。それはもう息を呑むくらい綺麗さ。おまえ泳いだこと無いのか?」
「……うん。僕はここで生まれて、ここから一度も出たことないよ……。知ってるのは無機質なビル群と、他人行儀なホログラムの案内人ばかりさ……」
 少しばかり自虐的にそう言って、窓の外に目を移したバーディーの横顔が、悲しそうに曇ったのを青は見ていた。
「じゃさ、今度の休暇におれと一緒に岬に帰ろうぜ、そしたら洞窟も案内してやるし、海で一緒に泳ごう」
「……本当?」
 青に向きなおしてバーディーは瞳を輝かせた。
「うん。おれが友達連れて行くと、じっちゃんも喜ぶしさ」
「ともだち……」
 バーディーが怪訝そうに青を見た。
「なんだよ? おれと友達嫌なのか?」
「僕、青の友達か……?」
 驚いて見開かれた瞳はじっと青を見ていた。
「あったりまえじゃん! 何言ってるんだよ」
 青はいつもの屈託ない笑顔で笑ったが、バーディーが半泣き顔で、今にも涙を零しそうなのを見て焦った。
「な、なんだよ! そんなにおれと友達になるのが嫌なのか?」
「……ちがう。……しょうがないなぁ、じゃあ友達になってやるよ青……」
 バーディーは零れ落ちる涙を拭いながら、一生懸命笑顔を作って笑った。
「てめぇ、どっちなんだよ! 嬉しいのか、嫌なのかはっきりしろ!」
 そう言って、バーディーの頭を小突く青だったが、今度の休暇にはバーディーを連れて帰ると決心を固めていた。


 そうこうする内に、モービル・カーは寮の入り口に到着した。
 本来なら部屋の近くまで乗り付けることができるが、今日は入り口で入寮の書類手続きをしなければならないからである。
 どこもここも吹き抜けの天井は高く広々としていて、学生寮と言えども一流企業のラウンジのように、ソファもテーブルも一級品で揃えられていて、高級感と言うよりとても品良く設えてあった。
 どうやらここの案内人は本物の人間らしく、青を見つけると靴音を響かせながら三十台半ばのスーツを着た綺麗な女性が側にやって来た。
「入学おめでとう重形青くん。私はこの寮の寮監主任のミラ・アンダーソンです、よろしくね」
 微笑んだ彼女は隅にある受付のテーブルへ案内すると、腕時計のような四角い機械が付いた物を渡した。
「前回、治療でここに来られたときに、あなたの生態サンプルを徴収してあるから、今日はもう格別することは無いのよ。バーディー、あなたが彼を案内してくれるの?」
「はい。アンダーソン先生」
「じゃあこれを……」
 恐ろしくアナログな紙に印刷された、青の部屋のb竰壕モ事項が書かれた用紙を渡された。
「彼を部屋に案内して頂戴ね。道すがら身分証の説明もしてあげてくれるかな? 今日は私も本当に忙しくて、手が回らないのよ。君がいたら安心だわ、お願いね!」
「はい。わかりました」
 挨拶もそこそこに、先生は玄関に到着した次の新入生に向かって歩いて行った。
 受付でどっしりと座って待ってればいいのに、態々側まで駆けつけて生徒に挨拶するなんて、相変わらず先生らしいとバーディーは微笑んだ。
 ふたりはエレベーターに乗り込むと、バーディーはアームバンドの説明を始めた。
「右左どっちにしてもいいんだよ。それにはあらゆる機能が詰ってるから、絶対に落とさないようにね、まあ、一度はめるとなかなか外れないようできてるけどね。水に濡れても全然大丈夫だから」  
「これ何?」
「まず、君のIDが入ってる。身分証だね。それから通信機能、TV機能、授業スケジュール、とにかくいろいろ、後で説明書読んで自分好みにカスタマイズするといい、ちなみにそのバンドの色も変えることができるんだ」
「へぇ……」
 青が腕に嵌めて弄っている所に、扉が開いて男の子がひとり入ってきた。
 大きなボストンバッグを持っているから、彼もまたどうやら移動らしかった。
 黄土色の短い髪の毛の中央が、スタイリングなのか自然なのか分からないが立っていた。  
 彼は青の私服をチラリと見たが、別に何も言わずに壁に持たれた。
 そして、程なく次の階で二人の男の子が乗り込んで来る。
「あ、バーディーじゃないか」
 ひとりの男の子がバーディーを見つけると、嫌な薄ら笑いを浮かべて言った。
 何故かバーディーの顔色が変わる。
「猫人間のバーディーか? そういや最近見かけないと思ったら、まだ学園にいたのか?父親と一緒に失踪したのかと思ったぜ」
 少年たちはへらへらと口の端を残忍そうに歪めて、バーディーを見下したように笑っている。
 バーディーは顔を真っ赤にして、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
 なんだなんだ、こいつら?
 青は顔を上げて少年達の顔をマジと見た。
 ひとりの少年と目が合った。
「何だよ、てめぇ、ガンつけやがって……新入生か?」
 金色の短髪の男の子が、横柄な態度で青に向き合った。
「だったら何だよ……、新入生で悪いか」
「青!」
 彼らに絡むと面倒なことになるのを知っているバーディーが止めに入る。
「いい度胸じゃないか、ここでは先輩に逆らえないんだぜ、知らないようだから教えてやるよ」
 少年は青の胸倉を掴んで、壁に押し付けた。
 しかも、それだけでは無いようでじわじわと首が絞まってゆくのは、きっと念力だろうと青は思った。
「先輩、すみません。僕が悪いんです、彼に色々教えとかないといけなかったんですが、すみません」
 バーディーは必死で謝ったが、少年の瞳から残忍さが消えることは無く、見せしめのように青の首はさらに絞まってゆく……。
 二人組みの少年の片割れがバーディーを押さえつけたと思ったら、いきなりお腹の辺りを膝蹴りした。
「うぐっ……」
 呻いてバーディーはその場に崩れ落ちた。
 そんな一連の出来事を静かに見守っていた、最初に乗り込んできた少年が持たれた壁から姿勢を正した時、丁度エレベーターが指定の場所に止まりゆっくりと扉が開いた。
 その時、素早く身体を捻って肘鉄を食らわした青は、少年が怯んで数歩下がった隙を見て、彼のお腹に足蹴りをした。
 蹴飛ばされた彼は外で待っていた学生の群れに突っ込んで、彼らと一緒に将棋倒しでその場に崩れ落ちた。
 外でエレベーターを待っていた他の生徒は、扉が開くなりいきなり人が飛んできたので、呆然とその場に凍りついたように立っていた。
 青はエレベーターから降りてくると、金髪の少年の側に立って彼を見下ろしながら言った。


「誰だろうと、おれの友達を侮辱する奴は許せねぇ!」
 ガツンと先輩に向かって一言そう言い捨てると、その場を後にした。
 









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