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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― Prologue ・秘められた能力編 ―
   15. 青、浮島に立つ




 重厚な扉の前に立った青は、バーディーに言われた通り名前を告げた。
すると何かを照合するような微かな音がして扉が開いた。
「すっげぇ」
「本来ならデーターに登録している者は自動で扉が開くんだけどね、君は外部の者だから今あらゆるデーターをあそこで取られたんだよ」
 中にはまだ小部屋があり、秘書の女性がにっこり笑って二人を迎え入れた。
「ごくろうさま。バーディー」
「こんにちは、アリシア」
「中へどうぞ、学長がお待ちかねですよ」
 扉が自動で開き、窓を背にして机に座っている人物がすぐ目に入った。
恰幅が良いがっしりとした体格で、ちらほらと白髪が交じる黒髪で、背広を着て大きな椅子に座っている。
バーディーに促されて一歩前に進んだ所で、その側に木教官が立っているのに気がついた。
「あ……」
「やあ、青くん。体調は良くなったかい?」
 木はリラックスさせるよう青に話しかけた。
教官としてでは無く、スカイ・ポリス本部の真新しい特殊部隊の制服を、始めて間近に見た青は、今まで木を恨んできた恨みを差し引いてもかなり格好いいと思った。
「はい」
「そうか、良かった」
 木はそう言って微笑んだ。
「木教官から聞いたよ、青くん。今回君はかなり活躍してくれたんだってね」
 いきなり学長に話しかけられて、その体格の良い人間的な器量と正比例する太い低音の声域に、この学園を取り仕切る相応しさを感じた。
「一般市民の君を巻き込んだことは、とても遺憾だと思ってるよ。しかし、我々は本当に君に感謝しているんだ。今、木君に聞いたんだが、君はこの学園を三度受験したんだって?」
「……はい」
「今年も受けるのかね?」
「いや。もう諦めたよ。今回自分がみんなと一緒に戦って、どんなに無力なのか思い知ったんだ。もう受験はしないよ」
 悔しいけど認めたくない事実であった。
「おや? 私は木君から君が念力を使って、木をなぎ倒したと報告されたんだがね? それに体力も気力も十分だと……」
「え? ……おれが? ……」
 そんな長い夢を見ていたような気がする……。
あれは夢じゃなかったのか?
「なんだ覚えてないのか?」
 木は苦笑いして青の顔を覗き込んだ。
「えーと、上空二千メートルでおしっこチビりそうになった事や、海底のお宝の事は覚えてるんだけど……あーーーーーっ、それよか、おれのお宝は?」
 青は急に思い出して、全身のポケットというポケットをまさぐった。
「ないーーーーーっ」
「悪いけど、あれは没収な。無線でも散々ごねていたようだけど」
 木はニヤリと笑った。
” 聞いていたのか!” 青はがっくし肩を落とした。
「そういう事は覚えていて、自分の使った能力については覚えてないのかい?」
「……うん。なんかさぁ、手をこうして翳して”枝よ折れろ! ”って言ったら、バキバキ折れた気がするけど、あれは夢で見たんであって……」
「夢だって?」
 木は声を立てて笑った。
「あれが夢だと思ってたのか? 三日間も眠ると忘れてしまうものなのかな?」
 まだ笑っている木を見て、青は試験会場で渋い顔して立っていた木のイメージがかなり崩れた。
容赦ないほど厳しい人だと思ってたのに、目の前の木は大笑いしている。
「お前、大物だな」
 バーディーが横で呆れて言った。
「うるせっ、猫に言われたくねえや」
「僕は人間だ!」
「まあまあ二人とも、学長の前だぞ静かにしなさい」
 苦笑いの木に窘められる。
「話しは戻るが、もう君はこの学園に来ることが嫌になったのかね?」
「そりぁあ来たいさ! ……でも、もう諦めたんだ」
「そうか、残念だのう、今年の編入生に推薦しようかと思ったのに……」
 学長の言葉に、青とバーディーが硬直した。
「す、推薦だってよ青……」
 バーディーはさぞかし感激してるだろうと思い青の顔を見上げると、案の定まだ驚いたままの青は微動だしないで学長を見ていた。
「良かったな青、頑張った甲斐があった」
 木が青の肩を叩いた。
「どうした? 念願叶って呆然としたか?」
「あのさ……、す、すいせんって何だ? ”へんにょう”って?」
「おまえなーーーーっ! ”へ・ん・に・ゅ・う”!」
 バーディーが叫んだ。
「お前は、かの有名な才色兼備な重形瑠華の弟だと聞いてるぞ! 血は繋がってないのか?」
「バディー・バーディー殴られたいか! 正真正銘、あいつはおれの姉ちゃんだ!」
「なのに弟はこんなバカか……」
「てめぇ!」
 青は拳をバーディー・バーディーの目の前に突き出す。
「まあまあ、落ち着きたまえ。推薦ってのはね青君。実技を免れてそのまま入学を許可されるってことだよ。君は確か十三歳だったよね? 一応は二学年に編入するが、成績次第では放課後居残りで補習授業を受けることもある。ここでは世間並みに学力も重視するから馬鹿にしてはいけないよ、成績が万が一、一学年レベルに達してないと判断されたら、新入生と肩を並べて勉強することになる。しかしね、年二回の編入テストを受ければ、どんどん飛び級できて上級クラスに上がることができる。その例がバーディーだ。彼は三年前にこの学園に入学したが、あっと言う間に大学院まで進級して、今は開発研究部所属だ。相応しい者にはどんどん進級してもらうよ」
 学長に褒めてもらって、バーディーは鼻高々に微笑んで青を見た。
「おまえ、すげぇんだなぁ……」
 さっきまで犬猿の仲だった青に尊敬の眼差しを向けられ、バーディーは素直に嬉しかった。
「おまえも解らない事があったら、何でも僕に聞け!」
「お、おおおおれかぁ? おれ本当にここの生徒になれるのか?」
 青は涙目で木を見た。
「そうだよ。君を推薦したのは僕だからね、だてに君の試験官を3年も続けてないよ。今までだって君の身体能力の高さは十分把握してたんだけどね、君のお姉さんの持つ力を知っていたから、血筋としてその能力が絶対開眼すると信じて待っていたんだよ。今回君は命の危機にさらされた極限の緊張状態で、その能力が開眼されたんだと思う。何も特別なことではなく、それはありがちな話しなんだけどね、でも、学園としては何時までも開眼しない生徒を、先を見越して時間と労力、そして費用をかけて受け入れるほど甘くはない。それに、ここの学生は戦闘の最前線で戦う事になるから、どうしても体力だけでは勝負にならない。世の中には色々な凶悪犯がいるって事を、今回君も身をもって体験しただろう? 」
「うん。マジ恐かったよ」
「そうだね。あれが君らが将来対決する本当の敵だ。特殊能力を使うから逮捕、連行はとても困難なものになる。だから君らも特殊戦闘部隊に入りたいと思うのなら、日々能力、肉体ともに訓練し、より一層強くなる必要があるが、やはり中には志半ばで自分の能力に限界を感じて、学園を去って行く者もいることは事実だ。その他、ここはあまり知られてはないが生物兵器に対する研究室もあって、学部は違うがそちらに進む者もいる。能力次第で未来への選択は様々だと思っていい。わかったかな?」
「うーーーと、なんとなく」
 青は苦笑いした。
「まあ、そう言うことだ。君を我が学園に快く迎える事にした。一ヶ月後には入学式があるが、君は編入生として扱うから特別なことは何も無いんだが、ここの生徒は一学年から校舎や寮の建物が変わるで、入寮式があるんだよ。その時にまた会おう」
「はい」
 青の満面の笑顔を見て、学長は椅子に深く腰掛け微笑んだ。
この日を境に青の運命は果てしなく変わり行くのだった。



「どう思われます? 学長」
 青とバーディーが去った学長室で、微笑みながら木が訪ねた。
「なかなか大物振りを発揮しおるな、ここに来て何も臆する事なく突っ立っておった」
「姉の瑠華と違って、四年間放置された分伸び伸びと育ち過ぎたきらいはありますが、彼は本気で今年の受験を取りやめるつもりらしかったですよ」
「四年目にして漸く開眼しおったか……」
「彼が育つとかなりの率先力になると思います」
「先が楽しみだ……。それより例の男の件はどうなった?」
「はい。テレポーターには逃げられましたが、後の二人は拘束して自白術を施してますが、余程、強力な術を掛けられてるとみて間違いないです。なかなか口を割りません」
「近頃、不穏な空気が漂っておるから気をつけるんだ」
「はい」
「まあ、どっちにしろ賑やかになりそうだな」
「そうですね」
 二人は用心深く微笑むのだった。




「良かったな青」
「ありがとうバーディー・バーディー、夢みてぇだ」
 二人は学長室からエレベーターに乗って、夕闇迫る学園都市を見下ろしながら下降していた。
「今回、君がかなり活躍したのは聞いたよ。シオを守ったんだってね」
「……かな? あいつはそうは思ってないかも知れないなぁ」
 あの時の、上空で怒っていたシオの顔が浮んで、僅か数日前の出来事なのに、懐かしさを覚えて微笑んだ。
「そんな奴じゃないよ、シオは……」
 バーディーも青を見上げて微笑んだ。
「あ、ほらシオだよ!」
 バーディーが射した指の先を見ると、十五メートル程の中庭を挟んだ真向かいのエレベーターに乗った、シオとオルがガラス越しにこちらを向いて上昇して来るのが見えた。
 バーディーが立ち上がって彼らに手を振ると、バーディーと傍らにいる青に気が付いて、二人は一瞬驚いたような顔をしたが、トオルは二本指を額に当てて微笑み、シオは相変わらず無表情だったが、丁度、お互いのエレベーターが同じ高さになった時、青を見ながら口角を少しだけ上げた。 
 上下するエレベーターの中で、絡み合った視線は否応なしに離されたが、再び彼らに会うことができると思うと、ヴェルミヨン色の夕日を頬に浴びながら、青の心は夢と希望に弾むのだった……。






             ―
プロローグ・秘められた能力・編

                    END
 





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