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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― Prologue ・秘められた能力編 ―
   14. 人間と名乗る猫




 青はエアーボードで森の中を猛スピードで走っていた。
 空を掴むように差し出した手を握りしめた。
 すると、木がバサバサ面白いように切れて、少し指を翳しただけ、あるいはイメージしただけで真っ二つに折れた巨大な木は、ズシンと大きな音をたてて地面に倒れ、コンクリートに大きなひび割れを作った……。


”おもしれっーーーーっ”思わずニヤついて、顔を綻ばせたと思ったら、ふと目が覚めた……。


 あれ? 何だ? 
 夢か……?



 ここは、どこだ?
 とても静かだった。
 いつものように子供の声もしなければ、神殿の朝に鳴る鐘の音もしない。
 しかし、明るい窓からは頬を撫でる穏やかな風が、そよそよと心地良く吹いてきていた。
 ゆっくりと目を開けた青は、見たことも無いような精巧な飾りが施こされた高い天井と、その下の窓とベッドの数、そして広い室内に面食らったが、でもどうやらここのベッドを利用しているのは青だけのようだった。
 まるで人の気配が無い。
 いったいここは何処だろう……。


「気が付きましたか?」
 タイミング良く白い白衣を着た若いドクターらしき女性と、看護婦がやって来て青に微笑みかけた。
「あの……ここはいったいどこですか?」
「ここはSADS、特別能力学園と言った方が、分かりやすいですか?」
 ドクターはにっこりと微笑んだ。
「ええええええ、おれあの浮島に来てるのか?」
「浮島ねぇ……、ま確かにこの学園都市は浮いてるけど、通称第二ターミナルと言われてるの。第一は国家特殊警察部隊と国家戦略機構があるわ、説明しなくても知ってるかな?」
「すっげぇ」
 青は自分がもうここに来れないと思っていたので、理由はともかくいたく感動した。
「ここは第二の医療室ですよ。君は今回学園の訓練に巻き込まれた負傷者だと聞いてます。それと、色々と事情を聞かなくてならないようなので、通常は地上の病院で治療をするのですけど、今回は特別にここでの治療となったみたいです。あ、心配しないでね、ここの治療は下と比べても、最も優秀ですから……」
 ドクターは不思議そうに周りを見回す、青の心を読み取って言葉を続けた。
「患者がいないのはその証拠です。すぐに良くなるので、ベッドはいつもがら隙なのよ」
 言われたせいでは無いが、青は心なしか身体がとても軽く感じた。
戦闘中の死にそうに疲れきった身体を思い起こすと、疲労感が全く無くなっていることにまず驚いた。
「じゃ、そろそろ診察させて貰えるかな?」
 ドクターは再びにっこり微笑むと、四角く薄いプラスチックボードを取り出して、青の身体の上で全身くまなくかざした。
 それはどうやら内臓や筋肉の状態を映す、スケルトンスコープのようだった。
 地上の、青の住んでいる周辺の病院ではまず見ることができないだろう、確かにここの医療はかなり進んでいそうだと青は思った。
「うん。大丈夫よ。どこも心配無いわ」
「じゃあさ! ここを探検してもいいかな?」
「勿論いいわよ。でもねあなたの目が覚めたら学長に連絡することになってるの。きっと、直ぐにお呼びがかかると思うわ。それから学長に直々頼んでみたらどうかしら?」
「うん。わかった。でもさ…ひとつだけお願い聞いて貰っていいかな?」
「何?」
「お腹がぺこぺこなんだけど、何か食べ物もらえないかな……」
「あら、ごめんなさい。うっかりしてたわ。直ぐにここへ持ってくるから。じゃ、少し待っててね。着替えのお洋服はその横のチェストに入ってるわ」
 そう言って、ドクターと看護婦はどこかに行ってしまったが、青が興味津々で辺りを見回しているうち、程なく食事が運ばれてきた。
 ベッドの上でパンとスープという、とりわけ平凡な食事を終えたが、浮島の食事はどんなだろうと、期待していた分かなりがっかりした青だったが、それは三日間も眠ったままの胃に負担が掛からないよう配慮した病人食だと言う説明と、自分がそんなにも眠っていたのだと言う事実を教えられて驚愕した。
「急に沢山の食事を取ると、胃に負担になるから軽めにしたの」
「おれ何で三日間も眠ってたんだ?」
「切り傷、打撲は沢山あったけど、これと言って深い傷だったわけじゃないし、体内に毒を取り込んだ様子も無かったのよね……他に原因と言えば単なる疲労かしら……」
「疲れてはいたけど、三日も寝るかなぁ……」
 自分が信じられなかった。
「まあ、酷い目に遭って精神的にも、疲労困憊したんじゃないのかな?」
「みんなは無事なんだよね?」
「大丈夫よ。みんな元気で授業に出てるわ」
「シオは? 足に深い傷をしてたようだけど……」
 血のりの着いた手を思い出すと、上空二千メートルの恐怖に青は身震いした。
とりわけ切れそうに怖い、アイスブルーの瞳……。
「シオくん? ここへは来なかったわよ?」
「えーーーっ、結構深い傷だったのに」
「そうなの? でもまあ、彼はここに来たこと無いんじゃないかしら、怪我をしたって何度か聞くけど、ここへ来てくれないのよね。我慢してるのかしらね。ああ、見えても強いからシオくんは」
「ふーん、そうなんだ……」
 天空ではキレてたよなぁ……痛い痛いって叫んでたのに……、不思議な奴だと青はぼんやり考えていた。


いつの間にか、再びベッドで眠り込んだらしい。
 何か声が聞こえたような気がして目を開けたが、辺りを見回しても誰もいなかった。
「夢か……」


「夢じゃないよ。ここだ、ここ」


 男の子の声がベッドの左側から聞こえたが、どこにいるのだろうか姿は見えない。
「どこだよ?」
「ここだって、言ってるだろうが!」
 どう考えても、声はベッドの下から聞こえてくる。
 青は身体を半分起こすと、ベッドの下を覗いた。
 そこには一匹のキジ猫が、前足揃えて行儀良くちょこんと座っていた。
「あ、猫だ」
 キジ猫は緑の大きな目でじっと青を見ていた。
「ここにも猫がいるんだ! 可愛いや……」
 手を差し出して触ろうとした瞬間……。


「当たり前だ!」


「……」


 ――ね、猫が喋ったーーーーっ?


「えええ! 猫が、猫が喋ったーーーーっ!」
 真ん丸い緑の瞳が、真っ直ぐ青を捉えている。
「えええ?」
「浮島は科学が進んでいて凄いとは聞いていたが、言葉を喋る猫がいるなんて聞いてないぞ!」
 初めての相手に何度こういうリアクションを取られたか分からないキジ猫は、うんざりするように青を見続けていた。
「僕の名前は、シャーロット・V・バーディー」
「猫なのに名前は鳥か?」
 あんなに驚いたのに、突っ込むところは見逃さない青だった。
「うるさい! 僕の半分は人間だ!」
「……」
 青は目を丸くして、バーディーを見たあと吹き出した。
「あはははは、どこが人間だってんだよ! 猫まんまじゃないかよ!」
 青の言葉に傷付いたのか、いきなりバーディーは大きな瞳を潤ませた。
「だから一介の人間は嫌いだ!」
 泣きそうな顔をしている、猫なのに……と、青は心の中で突っ込んだ。
「わ、悪かったよバーディー。泣くなよ」
「泣いてなんかいない!」
 口元を真一文字に結んで、どう見ても大粒の涙を零しながら、バーディーは泣いてないと言った。
「泣いてるじゃないか」
「泣いてない!」
 今度は嗚咽(おえつ)とともに大泣きし始めた。
「わ、悪かったってば! おれが悪かった! だから泣きやんでくれよ」
「お前は僕を侮辱した」
「気位の高い猫だな〜」
「半分人間だ!」
「わかったって! もう泣くなよ。それよかおまえ、おれに用事があって此処へ来たんじゃないのか?」
「そうだ。学長がお前を呼んでくるよう、僕をここへ寄越したんだ」
「早く言えよ」
 青はベッドから飛び起きると、揃えられていたブーツを履いた。
「今日、僕は休日で、屋上で昼寝していた所を呼ばれたんだ。だから着替える間も無くやって来たと言うのに、お前はおれを侮辱したな」
 ”青は猫が着替える?” なんて変わったことを言うのだろうかと思ったが、それ以上突っ込んでまた泣かれたらたまらないので、口に出すことは止めて靴を履き終えるとベッドから立ち上がった。
「さあ、案内してくれバーディー・バーディー」
「僕の名前を繰り返すな」
「いやー、面白ろいなーおまえ。バーディ・バーディー」
「こらっ!」
 二人は長い透明のチューブのような廊下に出て、動く歩道に乗り移った。
ここはターミナル0メートルから100メートル上空にあって、島が一望できる場所でもある。天に聳え立つ幾つもの鋭角の塔や巨大な建物は、だてに”学園都市”と言われてないことがわかる。
 道路らしき道を車が走っているのや、エアーボードで移動する生徒らしき人々が見て取れた。近くの広場ではみんな楽しそうに笑い合い、ふざけあっている。
 そう、ここはまるでひとつの都市なのだ。
「バーディー・バーディー、すげえなぁここ」
「あたりまえだ。ここの創立には僕のパパも関わってるんだからな」
「猫が関わってんのか?」
「アホか! 僕の父親は人間だ!」
 毅然と言い放つも、バーディーが悲しそうな顔をして外の景色を見ていたので、不可解だらけの人間発言に、後で瑠華に説明してもらった方がいいと判断した青は、それ以上突っ込むことは止めたのだった。









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