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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― Prologue ・秘められた能力編 ―
   13. 空中の攻防




「ええええええええええええ」


 気がついたらコンクリートに顔をぶつけて、前のめりに跪きながら青は叫んでいた。
 疲れきった身体と高所からの生還、主にそれは恐怖を伴っていたが……、それにより息絶え絶えの青は、頭の痛さと移動のせいで、吐きそうだった。
「あいつ絶対わざとだ……、なんでコンクリに俯せになるんだよ」
 目の端にぼんやりと複数の黒いっぽい服を着た人々や、幾つもの飛行艇を確認し、それがスカイ・ポリス特殊部隊の制服だと思うと、安心して随分気は楽になったが、もう身体は疲労で動けなくなっていた。
 額を地面に着けたまま、青は近づいて来る数人の足音を聞いていた。
「お帰り青」
 弾んだ声に顔を上げると、瑠華と梨子が側に駆け寄って来るのが見えた。
 二人の制服や顔も汚れてはいたが、その満面の笑顔に勇気付けられて、つい青は顔が綻んだ。
「姉ちゃん! 無事だったか?」
「私たちは大丈夫よ。あれからスカイ・ポリスが救助に来てくれたの。あんたこそよく頑張ったわね」
 労いの言葉に思わず涙ぐむ青だった。
「オレ死ぬかと思ったんだぞ!」
 テレポーターも海賊も、そして上空のシオも、死にそうなほど怖かった……、とは口にできなかったが……。
「うんうん。怪我は無いのね?」
「大丈夫だ、でもトオルはどうなった? 無事か? 迎えに来てくれた救護艇も、砲撃を受けて煙が出てたけど……」
「救護艇はかなりの損傷はあったみたいだけど、安心して、何とか神殿まで辿りついたわ、トオルも無事で、そこで他のみんなと待機中よ」
「そっか、よかった……」
「あんたの無線は途切れて話が出来なかったから、トオルが私たちに連絡して来たの、凄くあんたを心配してた」
「トオルったら、訓練生の自分が救護艇へ先に乗った事を嘆いていたのよ、あいつは大丈夫だろうかってオロオロしてたよ」
 梨子が可笑しそうに笑った。
「うん……」
 遠ざかる救護艇から、必死になって叫ぶトオルの声が蘇った青は、悪い奴じゃなかったなと思えて、胸が熱くなりそして嬉しかった。
「まあ、話しは後で聞いてあげるから、そこでじっとしてなさい。今テレポーターの仲間とスカイ・ポリスが戦闘中だから行って来るわ」
 そう言うと、瑠華と梨子はまだ戦闘が続いているらしい、森に向けて走って行った。
 

 森では爆音が轟いていた。
 あちらこちらで粉塵が舞い上がっている。
 そして、シオがどこに行ったか探して見ると、彼は遥か上空でエアーボードに乗ったまま、空中を瞬時に移動しまくって、緑の髪のテレポーターと格闘していた。
 青はゴーグルを目に翳すと、望遠で二人の様子を見た。
 地上のスカイ・ポリスも、この高さでは流石にテレポーター相手に歯が立たないのか、じっと上空を見ていた。
 ここからは遠過ぎてきっと銃も届かないだろう……、それが敵の罠なのだろうか……。
 それにしても、まだ自分と同じ13歳だと言うのに、大の能力者と互角に戦っている。
 男はシオを殺す気は無いが、どうやらあの形の銃は麻酔銃だろう、眠らせて連れ帰るつもりらしいが、狙いを定めても移動の速度が速すぎて照準が合わせずらそうだった。
……と言うか、あいつキレてないか?
 青が見ていると、素早い動作で瞬時に移動して、男の近くに現れたかと思うと、ぼこぼこパンチを入れるが、男も黙ってはいない。並みの男では無い証拠に、シオが銃を撃っても、目に見えぬバリアーのようなものであっさりレーザーを跳ね返して笑っている。
「そんな子供騙しの銃で、俺がやられるわけが無いだろう」
「ちっ」
 シオは悪態を吐いた。
 そして一瞬消えたかと思ったら、瞬く間にとび蹴りしながら現れて、男のわき腹を思いっきり蹴り上げた。
 流石の男もふらりと蹌踉めいた。
「……やるじゃないか、小僧。俺様がこんなに翻弄されるのは久しぶりだ……」
 シオのレーザー銃が、男を捕らえている。
「そんな物、俺に向けても役に立たない事は知っているだろう? 捕まえる事もできないと言う事実もな……」
「どうかな? では何故逃げないんだ」
「おや、それは愚問と言うものだリグラス・シオ。俺と一緒に来い、俺たちはお前が求めている答えを持っている」
 男はニヤリと笑った。
「何のことだ……?」
 困惑したのはシオの方だった。
 その隙を見逃さなかった男は、一瞬にしてシオの背後に回り込み、身体を押さえつけて麻酔を打とうとしたその時、身を翻したシオが男の腕を押さえつけた事によって、それはギリギリで阻止された。
 二人は向き合う形になり、麻酔銃は力の均衡で、二人の間に保たれていた。
 地上ではミサイルやロケットと言った、砲撃の準備は整っていたが、その使用を躊躇っているのは、シオに当たる事を案じていたのかも知れないと青は思った。
 瞬時に移動するテレポーターの一進一退の攻防は、悔しい事に誰もが手を出せず、見守るしかなかったのだ……。


「観念しろ」
 麻酔銃の針がシオの耳元10センチの所で阻止されている。
 耐久力となると、流石にシオは力の差を感じ始めていた。
 ”地上に引き摺り降ろそう、スカイ・ポリスのいるど真ん中へ”と思った時、男はさっきからシオに向ける不可解な話を続けた。
「お前は真実を知りたいだろう? 俺たちと一緒に来れば教えてやる……」
 シオの目が見開かれた。
「……何を、言ってるんだ?」
「……」
 本気で尋ねているらしいシオの顔を見て、今度は男が驚く番だった。
「……リグラス、お前は……」
 そう言って、男が言い淀み腕の力が緩んだ瞬間、男は地上に降ろされた。


 そして、あっと言う間に、数十人のスカイ・ポリスによって周囲をぐるりと囲われ、標的を捕らえた銃口が二人に向けられた。
 地上に降りた瞬間、シオは青の時と同様、しかし、もっと力を込めて地面に激突させたので、男は頭から血を流しながら、逃げる気力も無くうつ伏せになり呻いていた。
 そして、男の背中に乗って抑え付けたまま、先生から貰っておいた手錠を、男の右腕に素早く嵌めると、無理やり男を立ち上がらせて、木の前に突き出した。
「良くやったシオ」
 硬い表情のまま頷くシオに、木は探るような視線で見返した。
「リグラス、お前はもしかして覚えて無いのか……?」
 男はしつこく尋ねた。
「だから、何の事だと言ってるだろう」
 二人の噛み合わない会話の真意を悟った木は、終止符を打つべくシオを遠ざけようとした。
「もういいシオ、後はスカイ・ポリスに任せておけ」
 不可解な顔をした男が、今度は木を向いて言った。
「お前らこいつに……、あの力はどうなったんだ……」
「黙れ」 
 その時、木が男の腹に*4気砲弾を食らわした。
 男は間近の攻撃に咽て、身体を折って咳き込んだ。
「……まあ、いい……、まあ、いいだろうリグラス」
 それから男は”くくくく”と、奇妙な笑いを零した。
 この期に及んでも、余裕すら感じられるのはどうしてだろう……、そして、男がさっきから言ってる意味不明な言葉の数々……、シオは訝しんだが、それらを打ち払うように告げた。
「人の心配するより自分の心配をしろ、この手錠は10桁のシリアルナンバーが解らないと外すことが出来ない。テレポーターの能力を完全に封じる電磁波でブロックされていて、移動は絶対に不可能だ。もし、そのままテレポートすると手首だけ置いて行くことになるからな気をつけるんだな」
 シオは子供には見えない、残虐な表情を浮かべて男を見ていた。
「……油断してしまったようだな、まさかお前が……」
 男は言い淀んだが、それでもまだ目の奥に怪しげな光を揺らめかせて微笑んでいた。
「歩け!」
 木に背中を突かれた。
「まあ、待て! 急ぐ事もなかろう?」
 手錠に繋がれた手を上に振り上げ、観念したように木を見て時間を請い、今度はシオの方に向き直った。
「リグラス・シオ、お前は新時代の幕開けにふさわしいメンバーとなるだろう」
「新時代だって?」
 シオは鼻で笑った。
「お前の探し物は闇王様の手の中にある」
「だから、何のことだ……」
 顔を顰めて問う。
 男は黙ってシオを見ていた。
「まあ、今はいいだろう……」
 こいつは何を言ってるんだ……?
 シオは自分を見つめる男の粘着質な視線を、振り払うように目を逸らした。
「そうさ、超人でないと戦えない世界、そしてその世界を支配する力の結集は最早誰にも止められ無いだろう……。光は何時までもお前達の頭上で輝くとは思わない方がいいぞ」
「どういう意味だ」
 木が問う。
「ふふふふふ、はははははははは。これから闇王様の時代が来るのだ!」
 男は狂ったように空に向いて、大笑いをしながら叫んだ。
そして、木が握り絞めていた手錠が、いきなり軽くなったと思った瞬間、男は木とシオの前から突然姿を消した。


 そして、ボトッと言う鈍い音がして、木とシオが足元を見ると、彼の繋がれていた右手首がそこに落ちていた。


「闇王様が待ってるぞ、リグラス・シオ」


 声がする頭上をシオが見上げると、その頬に空からポタリと赤い血が一滴落ちてきた。
 

 男は空中に浮いたまま、血塗れの手首を押さえていた。


 先鋭な刃物でスパッと切り取られたような傷口の先は無く、関を切ったように血が溢れ出ていたが、それをかまう風も無く不気味に微笑んでいた。
「また向かえに来ようぞ……」
 そう言って、男は一瞬で姿を消した。
 そこにいた皆がどよめいて、さっきまで男が宙に浮んでいた、青い空を呆然と見上げていた。


 地上では手錠に繋がれ、護送艇に送り込まれようとしている海賊たちが、テレポーターたちとは仲間でないと抗議していた。
 瑠華と梨子がこちらに歩いて来るのが見えたが、シオのことが気がかりだった青は、悔しそうな表情をしたシオの横顔を見ながら、何時の間にか意識を失った……。







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