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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― Prologue ・秘められた能力編 ―
   11. 秘められた能力




 鬱蒼とした木立に覆われた森の、中心部にある通気口の蓋を開けて、青は渾身の力を振り絞り、やっとの思いで地上に出てきた。
 まずはテレポーターの気配が無いか、草むらに潜んで辺りを見回したが、今の所どこにも人の気配は無かった。
 上着の結び目を解いてシオを草むらの上に寝かすと、青もその側に仰向けに横たわる。
爆発しそうに激しく鼓動する心臓とは対照的に、穏やかな小鳥のさえずりが聞こえるてくる上空を見つめた。
 木々の隙間から青く澄んだ空が見え、青はこのまま眠ってしまいたいと思える程に、身体は疲労困憊しきっていた。


 瑠華が着けてくれた、腕の装置が発動していなかったので、二、三回叩いてみたら、6個の青いランプの点滅が復活した。
 どうやら海に落ちたり、洞窟で暴れた拍子に接触が悪くなっていたのは、自分のアームバンドのせいらしかった。
 シオの腕にも、まだ装着されている。
 横たわったままピクリとも動かない美麗な少年は、青の気も知らないで意識を手放してスヤスヤと眠り続けている……。


しかし……。


 こいつは戦闘態勢中、みんなをここに残したまま、本気で再び学園に戻るつもりだったのだろうか……?
 でも、一度は帰還していたと思われる学園から、ここへ自分を助けに来てくれたのも事実で……。


 いまいち優しいのか非情なのか、図りかねる性格をしている……、そう思いながら、傍らで目を閉じたままの”眠る悪魔”を、青はじっと見ていた。


 ここから何処かに避難したと思われる、トオルを含め生命確認と位置表示は、手首に装着されている機械で確認できる。
 これを装着している限り、仲間の安全がほぼ分かるのだ。
「とにかく、みんな無事なんだな……良かった……。しかし、いったいどうしたらこんなに何時までも眠れるんだ? 起きやがれ!」
 青は一向に目を覚ましそうにない、シオの眉間にデコピンを数発繰り返したが、全く目覚める兆候は見あたらなかった。
「起きろよ……オレ泣きそうだ……、身体がもう動かねぇ……」
 遥か高く遠い空を見上げながら、つい弱気になって呟いた……。
『青君、応答できるか? 木だ』
「木先生……?」
 イヤホンに、いきなり声が聞こえてきた。
 アームバンドを見ると、緊急ラインの赤いランプが点滅している。
『そうだ。大変だったねシオのことは聞いたよ。今君と一緒にいるんだよね?』
「うん。でも目覚めないんだこいつ」
『それは大丈夫だ。眠らされてるだけのようだからね、それより今まで上空で待機していたんだけど、洞窟を抜けたことでやっと君の正しい位置装置が発動したよ。今から森を抜けて来られるかな? 森から出て来ないと救助艇への乗り込みが不可能なんだ。そこは木々が高くて森が深過ぎる。南南東に向かってくれないか? アームバンドに方位が出てるはずだからそれを見ればいい。君もシオを抱えて大変だろうから、こっちからも向かえに行くよ』
「うん。頼んだよ先生、本当はもう一歩も歩けないくらいだ……」
 木はクスリと笑った。
『承知した』
 相変わらず大の字で上を向いたまま、木の言葉に安堵して大きく息を吸う。
”もう少しだ”そう思って心が緩んだのもつかの間、青は、どこか遠くで大きな爆音を聞いた。
 身を起こして耳を澄ますと、この静かな森のどこかでもう一度爆発音がした。
 地下ではないと思うのは、大きな樹が倒れるバリバリという音を聞いたからである。
「近づいてくる……」
 青はリュックからエアーボードを取り出し、リュックを捨ててマルをポケットに突っ込み、汚れてぼろぼろの上着で再びシオを背中に結わえた。
 そして最後の力を振り絞って、エアーボードに乗ろうとした時、いきなり目の前に立ち塞がったのは、宝の砂浜で見た海賊の二人組だった。
 爆音の距離から言って、まだ遠いと踏んでいた青は、敵が余りに速く現れたので驚きつつも、彼等の他にもしかしてまだ敵がいるのだろうかと思案した。
 銃を振りかざしながら、ニヤニヤ笑って立っている。
「待ちな坊主……」
「何だよ、オレは宝石はすべて返したぞ」
「顔を見られちゃ、素直にお前を帰すわけにはいかねぇんだよ」
「今まで宝石は見たこと無かったけど、洞窟の奥で会ってもみんな返してくれたぞ」
「今回は別だ。お前はお宝を見ちまった……」
「今までだって誰にも言わなかったろ?」
「俺たちの顔も見られたし、お前がこいつらの仲間だと知れば、帰す分けにはいかねぇんだよ」
 ずしりとシオの重さが肩に掛かる。
 どう言い訳しても、逃れる術は無さそうに思われた。
 額から汗がどっと噴出すのを感じる。
 絶対絶命……と青が思った時、どこからか飛んできたミサイルが、海賊と青の頭上を越して前方に落ちて爆発した。
 その爆風で辺りの木々は吹っ飛び、青も盗賊も宙を舞った。
「痛てててててっ……」
 青も勿論、背中にいたシオも盗賊も、折れて粉々になった木に覆われた。
 地面には大きな穴が開いて、もくもくと粉塵が立ち上っている。
”今度は何だ?”青は煙の向こうから、こちらにやって来る人影を見て嫌な予感がした。
「盗賊め、邪魔をしやがりやがって」
 煙の中から出てきたのは、長いロングコートを着たテレポーターだった。
 ミサイルランチャーを抱えているので、先ほどからの爆音の主はどうやらこいつだと、青は目星を付けた。
「おめえこそ誰だ! グリズリー海賊団の縄張りでこんなことしやがって、只じゃおかねえぞ」
 爆風に吹き飛んだ海賊が、落ち木を払いながら立ち上がって言う。
 俯せに落ちた青は、懇親の力を振り絞って上半身を起こした。
 全身が痛みで軋んでいた……。
「俺は”闇王様”の使いだ」
「ふざけんな、”闇王様”だって?」
 海賊は見下したように、テレポーターを見て大笑いしたが、男はそんなことは見越していたかのような、鼻にも掛けない態度で鷹揚に言う。
「恐らく! 笑っているのも今のうちだ。雑魚に用は無い。今逃げたら命だけは助けてやるぞ虫けらども」
「何だとーーーー!?」
 海賊はテレポーター目掛けて銃を連射したが、瞬時に移動するテレポーターには擦りもしない。
 鉛の玉が無闇に森に消えて行くばかりだった。
「な、何だこいつは!」
「テレポーターだよおっさん! 普通に戦って敵う相手ではないよ」
 驚愕の表情をして、目の前で消えては現れる男を見つめる海賊に、青は説明をした。
「どけ」
 腰を抜かす海賊にランチャーを向けて、道を開けさせたテレポーターは、青の前に立ちはだかった。
「万事休すとはこのことだ。渡せそいつを」
 そう言って、後ろのシオへと手を伸ばして来た男の手を、青は払い退けた。
「来るな!」
必死の思いで振った手が、思わぬ風圧と威力を伴い、テレポーターを後方へ退けた。
それは、風に飛ばされたような感じだったが意外と強烈で、青は思わず自分の手の平をマジと見た。
「なんだ? 今のは……」
「……」
 怯んで後ろに下がったままの男も、青の反撃に少しばかり驚いている。
 テレポーターの隙に乗じた海賊が、男目掛けて再び銃を乱射した。
 今度は二人の男が乱射するので、テレポーターも足止めされているようだ。
 青はこの隙に逃げるが勝ちだと思い、とにかく早くこの場を離れようと、エアーボードに乗った。
 ここまで必死に耐えてきて、こんな所でシオを奪われたくは無い。
 第一、すぐ側まで助けが来ている筈だ。
 とにかく、木先生の所までシオを送り届けたい。
「絶対逃げ切ってやる!」
 そう思ったのもつかの間、後ろから飛んできたミサイルは、再び頭上を通り越し、前方の森に落ちて、大小無数の大木が裂け散った。
 エアーボードのスピードが出ている為に、上空前方から無尽に落ちてくる木っ端微塵の木片を、避けようと手で払ったつもりが、それは跳ね返って勢いよく他の木に突き刺さった。
「おおおーーーっ、なんだ?」
 すげぇ威力だ。
 もしやと思い、青は手を伸ばして、頭上を覆う枝を折るイメージをした。
 するとどうだろう! 枝はあっさり折れて落ちてきた。
「マジかぁ? 面白しれーーーっ」
 青の顔に笑顔が戻った。
 こうなったら、手当たり次第に木を折って道を塞いでやる。
 青が手を伸ばして木を切り倒すイメージをすると、あっと言う間に切れ目が入り大きな大木が横倒しになった。
「すっげぇえええええ」
 指を横にすっと流すだけでスパッと真っ二つになり、後方に倒れるイメージをするだけで、思うように道を塞いで、背後に感じるテレポーターの進路の邪魔をした。
「オレどうなったんだ?」
 じっと手を見ても、汚れているだけで何の変化も見あたらない。


 しかし、その能力に唖然としてる時、目の前にいきなりテレポーターが現れた。


 青が移動するのと同じスピードで、前方へ背を向け移動している。
 なんて奴だ!


 次の瞬間、銃口が青の眉間に触った。


「お遊びは終わりだ、覚悟しな」
 青は自分を防御するような仕草で、顔を覆うように腕をクロスしたと見せかけた。
 

 そして……。


「失せろ!」


 青が両手を左右に思いっきり振った時、目の前の男はその言葉通り横に吹っ飛び、大木にぶつかり気を失ったかのように、ずるずると下に落ちて行った。
 それを尻目に移動した青は、簡単に人を吹き飛ばしたりしたことで、少しばかりの恐怖とショックで自分が怖くなってきた。
 死んだのかなあいつ……。
 でもシオを守らないといけなかったんだし……。
 複雑な思いを抱えながら前方を見ると、数人の人影が見えて来た。
 あの制服は特殊部隊の制服で、木先生だと確信すると青は涙が出そうだった。


 ――しかし、その時である。


 ミサイルが青を掠めた。


 それは青の目の前、数メートルの所へ落ちて爆発し、その凄まじい爆風に青とシオの身体は上空に吹き飛ばされ、結んであった上着が破けて、シオが青の肩から滑り落ちて行く……。
 その時、やっとの思いでシオの手を掴んだ青は、その指先が青の手をきつく握り返したのを感じて、彼の顔を見た。


 上空20メートルで、事の次第を理解したのだろうか、口は真一文字に結んではいたが、シオは瞳を丸くしている。


そして、次の瞬間!


青とシオは更に高い、2000フィート上空にいた。









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