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  スカイ・ポリス 〜国立特殊能力学園〜 

   ― Prologue ・秘められた能力編 ―
   10. 眠り続ける”悪魔”




 
 普段は誰も通らぬ道ではあったが、狭く急勾配なので、エアーボードの速度が必然的に減速する。
 これから一気に地上まで出ようか、それとも奴らの仲間が地上にいて待ち伏せとかあるだろうか?
 この道は郊外の広い森に通じており、少し進むと巨大なビル街に出て何より人が沢山いる、明らかに電波状況の改善や救助の確率も増えそうだ。
 このままほぼ一方通行の洞窟内を戻る方が危険ではないだろうか……。
 青は色々と考えた末、一旦地上に登る事にしたが、何しろひと休みしないと体力に限界が来ている。
 真上に通じる縦穴の前で、少し休憩を取ることにした。
 身を隠せそうな岩陰を見つけて、相変わらず意識の戻らないシオをそっと凭せ掛ける。 その横に腰掛けた青は、リュックの中から水の入ったボトルを取り出し、喉の渇きを癒す為に口に含むと、硬水は胃の中に優しく流れて行った。
「……なんてこった……、偉そうな口ききやがってこれか……?」
 隣で眠っているシオを見つめて悪態をついた。
 でも、近くで見ると本当に綺麗な顔をしている。
 長い睫や鼻筋の通った白い肌、それを半分覆い隠す長いプラチナ色の髪の毛……。
「やっべーー、マジ可愛い顔してるな、こいつ」
 しかし、今までの自分に対して、暴言の数々を思い出した。
「いかん、いかん! 危ねー! こいつ目を開けたら悪魔だからな」
 青はシオの顔を頭から追い払うかのように、頭を振った。
 そして再びバッグの中を漁って林檎を取り出し、それを齧りながら上に通じる縦穴に掛けられた鉄の階段を見上げて、ここは一気にシオを抱えて登るしかないと思案した。
 その時、イアホンから声が聞こえた。
『青、大丈夫?』
「姉ちゃん!」
『今どこなの?』
「あの三叉路まで戻って、迷路とは別の方の森に出る道に向かってるけど、今縦穴に登る階段の前にいるんだ。姉ちゃんは今どこにいるんだ?」
『今ね青が落ちた滝まで来てるの、あなた達はそのまま地上に出た方が良いわね。そしたら木先生が護送艇で向かえに来てくれると思う』
「うん、わかった。でもさあ、いったい何時になったらこいつ目が覚めるんだ?」
『ああ、シオね』
「全然目が覚めないんだよ、担いでるんだけど重くてさぁ……」
『さっきのテレポーターはどうやら呪術も使えるらしいわね、あんたも掛かったでしょう?一瞬にして意識を失わせる事ができると言う術よ。それは同じ呪術能力を持つ莉空先輩か木先生じゃないと解けないわ」
「でも、さっきはオレ気がついたぞ?」
『海に落ちたからでしょ、皮膚、呼吸困難などの体的変化を細胞単位で感じて、それで覚醒できんたんだと思うわ』
「まあよくわかんないけど、じゃあ、こいつは当分何があっても、目が覚めないって事なんだな」
『そう言うこと。気を着けて、さっきまで戦闘態勢にあった二人のうちの1人を逃してしまったの、きっとあなた達を追ってると思うから気をつけるのよ』
「いったい何人いるんだ? 海では海賊に狙われて、洞窟ではこいつらに追われて、オレは幼気な一般市民だと言うのにあんまりじゃないか?」
『喋る間があったら逃げなさい!』
 そして瑠華からの連絡はいきなりプツリと切れた。
「お、おーーーい!? なんだよ、いきなり切りやがって! おまえら無責任過ぎやしねえか?」
 滝まで来てるという瑠華の言葉に、青は少しばかり元気を取り戻したが、それでもここに留まる事の危険性が、少なくなった分けじゃ無い。
 青はリュックに詰め込んであった、幾つもの林檎を泣く泣く捨てて、中にエアーボードを仕舞うと、着ていた上着を脱いで、背負ったシオが落ちないように、ウエストのあたりできつく結んだ。
 そして、洞窟が曲がりくねって先が全く見えない上空は、ある意味、身を隠すのに好都合とも言えで、青は意を決するように錆びた鉄の梯子に手を掛けた。
「なんて一日だ。ちくしょう……、頑張れオレ!」
 気分を奮い立たすようい呟いて、止め処なく長い階段を登り始めた。
ここは避難経路と空気穴の役目を果たし、こういった縦穴洞窟内の所々に数多く点在する。
 人が独りか二人くらいすれすれに通れる程の狭い縦穴は、ごつごつした岩肌が剥き出していて、少し触れるとパラパラと小石が下に落ちて行った。
 穴蔵の道は左右前後、縦横無尽に掘られていて、もしも下から銃を撃たれても素早く隠れれば何とかなりそうなカーブが続く。
 しかもシオが狙いなら、そう簡単に撃ってこない事も考えられた。
 最初から殺す目的だったら眉間を狙って、意識を無くすような面倒なことはしない筈だ。
 青はそう思うと幾分気分が楽になったが、取り合えず死に物狂いで鉛のように重いシオを、地上まで運び上げなくてはならない。
 イヤホンからは途切れ途切れに瑠華たちの戦闘の爆音や、悲鳴とも取れぬ声が漏れてきていた。
 不穏は募るが、向こうには助けが行ったと聞いたし、まして能力を持つ訓練生でもあるし、それに独りで戦っているわけでも無いので、瑠華の心配よりも自分の置かれている状況の方が深刻に思えた。
 今までだって盗賊や犯罪者に、ここで会ったことは何度もあるが、恐ろしい目にあってもそれは恐喝や、洞窟に深く入り込み過ぎたことで、知らず知らずに彼等のアジト近くまで近づいてしまった事などへの、警告、或いは脅かしを受けた程度で、子供ゆえ大幅に見過ごされてきたが、先ほどのように財宝の在処までは、辿り着いたことは無かった。
 今現在、身の危険に晒されるのは確かに当然のことだった。
 でも、こんな危険な無法地帯で、訓練を考える学園の方もどうかしてると思ったが、もしかしたら、それ以上に彼等の能力は、大人を相手に出来るほど凄い物なのかも知れない。
 年齢に関係なく能力次第の世界では、戦闘能力がプラスされれば、確かにどんな凶悪犯も手が出せないだろう。
 改めて同年代が恐ろしい敵と同等に戦っている事実を、賞賛しなけらばならない事への、嫉妬と羨望の複雑な思いに駆られる青だった。
 瑠華の動いている物体を止めることができる能力は、子供の頃から間近で見て知っていたが、シオのテレポート能力やトオルの植物を操る能力、又は梨子の追跡能力など、通常ではあり得ない驚異の身体能力を持つ、学園の生徒の凄さを改めて感じたと同時に、自分は試験に落ちて当然だと思い知らされた。
 そんな彼等から託された、使命でもある今自分にできることと言ったら、シオを守ることだ。
 それだけに集中しようと、きつく錆びた梯子を握りしめた時、耳元で風圧を感じたと思ったら、青の上空2メートル程の所に、下から打って来たレーザー銃が当たって、岩が飛び散った。
「うわぁ、下から撃ってきやがった!」
「観念しやがれ、逃げられやしないぞ小僧!」
 さっきとは別の男が薄暗い底から、這い上がってくるのが見えた。
手に持った銃で二人を狙ってくる。
「なんでだよう、もう見つかってしまったのか……、ちくしょう……」
 再び上空に当たったレーザーが岩を崩して、パラパラと音をたてて青の頭に落ちてくる。
 青は反対に自分からレーザーを、足元の敵向けて闇雲に撃った。
 それが側面に当たって壁を崩した。
「もっと落ちろ!」
 そして、言葉に連動したように、意外にも壁がごっそり崩れた。
「わぁ……、てめぇ!」
 下の方から、喚き声が聞こえる。
 しかし、男はそれでも銃を上空に乱射して来る。
 足元の岩が崩れる。
”このままだと、本当にまずい!” 
 何時かは銃に当たりそうだが、今は必死で上に登るしかない。
 例え銃に当たったとしても……。
 青は再び銃を下に向けて、側面を撃ちまくった。
「崩れろ! もっと崩れて道をふさげーーー!」
 言葉通りに壁は崩れ落ちるが、その中を下から突き上げてきたレーザーが、握っていた青の銃に当たって弾き飛ばされ、銃は下に落ちて行った。
「ざまあ、みやがれ! てめーーーふざけんなよ! 小僧! もう何も出来ないだろう」
「まずい!」
 亀裂が入った岩の壁を見やりながら、青は死に物狂いで階段を駆け上がった。
「落ちろ、落ちろ! 岩が崩れて穴を塞げばいい!」
 すると、次の瞬間、剥き出しだった大きな岩が動いたかと思うと、大きな音を立てて下に落ちて行った。
「うわぁぁぁぁあああああ」
 下で悲鳴にも似た声があがった。
 どうやら、今の落石で穴が塞がったようで、途中に大きな岩の固まりが見える。
「マジか? すっげぇ、オレの能力! ……って、亀裂入って落ちそうだったんだよな。まあ、これでしばらく時間稼ぎできるかな」
 青は土埃舞う洞窟内を見下ろしていたが、男の反応が無い事に少しばかり安心して、更に上層階を目指した。








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