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 Kiss Me

3


 自分の家具も無い、さめざめとした部屋に帰って来ると、シャワーを浴びて熱いカフェオレを作って飲む頃には、気持ちが少し落ち着いていた。
 確かに私は聖駕に甘えきっている、何かあったらいつも聖駕の所に行き、そして泣きつく……、痛いところを突かれたので、反論のしようが無く、いたたまれなくなって部屋を出てきたものの……。
 でも、それは友達の範疇を超えたのだろうか?
 金銭的に大きな借りは無いのだが、寝泊りする光熱費や、食費等の細かいものをあげればきりがないが、これら細かい所も突っ込まれたら言い返すことはできない……、自分で何とかしているつもりが、麗音の言う通り結局は”聖駕に頼る”と言う事なのだと改めて思った。
 六年ぶりだと言うのに、ほろ苦い再会になったものだ。
 しかも、麗音は三ヶ月も前に帰国しているのに、私には黙っているなんて……、余程私は嫌われているのかな? 
 会いたいとは思ってくれなかったのだろうか?
 そう思うと、再びどん底に落ち込んだ……。


 しかし、更に落ち込む事がその週の始めに起こった。




 どんよりとした気分のまま、週末が終わって、風邪を拗らせたのか咳が出たのでマスクをして会社に向かった私は、会社に着くなりいきなり社長に呼び出された。
 そして、リストラ計画により解雇すると伝えられたのだった。
 そこからどうやって家まで帰って来たのか覚えてもいなかった、お先真っ暗過ぎてこれからどうしたものか、考えが頭に浮ばなかったのである。
 しかも、熱が急上昇中で具合悪いことこの上ない。
 部屋に入ると会社から持って帰ってきた荷物を置いて、取り合えずお布団で横になっていたら、玄関のベルが執拗に鳴っている。
 恐る恐る覗いて見ると、ドアの向こうに立っていたのは六十過ぎの派手なワンピースを着た大家だったので、交渉がまだだったのを思い出し、話をしてみようとドアを開けた。
「こんにちは、大家さんあの……」
「橘さん、これ以上家賃の滞納は困ります。何度も言ってありますよね? 払えないのであば、今日、遅くても明日中には即刻出て行ってもらいます。掃除もお願いしますね」
 大家は私がもう払えないと踏んでいるのか、こちらの話も聞き耳を持たないという風で、言うだけ言ってとっとと帰って行った。
 確かにリストラにあった今、溜めた家賃をすぐに払える可能性は低い、私も待ってくださいと、懇願する気力もとうに失せていた。
 しかし、どこに行く?
 あの日、飛び出して来たからには、聖駕のところには行けない……、まあ、取り合えず荷造りをしなければ、私は重い身体を叱咤してスーツケースを取り出した。


 考えてみたら学生時代に仲の良かった友人は、外国に行ったり結婚したりして近くに居なかった。
 数人いた友人とも、最近では私が忙しすぎて連絡も取っていなかったし、何より父の会社の倒産騒ぎがあってみんなに同情の目を向かれれるのが一番いやだったので、彼女らと一線を引いたのも事実だった。
 だけど聖駕だけは別で、家が近いせいもあって幼い頃から大の仲良しだった。
 ――が、そんな彼も今や甘えることができない……。
 私は公園のベンチに横になりながら、傍らのスーツケースとボストンバッグを見て、我ながら恐ろしい状況になったと、改めて思った。
 行くところが無いのだ……。
 おまけに、今朝部屋を出るときに熱を測ったら38度を超えていた。
 さっきから鳴りっぱなしの携帯には、サラ金の取立て着信記録と、聖駕からのメールがひっきりなしに届いていた。
 でも出てしまうと、聖駕は優しいから結局は甘えてしまう。
 それが分かっているので、私は必死で堪えた。
 でも、この状況どうしたらいいのだろう……。
 夕闇迫る茜空の、流れ行く雲をぼんやりと見上げていると睡魔が襲ってくる。
 私このまま死ぬのかな……、そう思うと、疲労で何も考えられなくなった思考に、それもいいかも知れないと、安易な答えが頭を掠めた。
 疲れ過ぎていて身体がだるい。


 少しだけ、横になろう……そしてゆっくり考えるのだ、少しだけ……。


 私はそう思うと何時しか意識を無くしていた……。






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