Citron  シトロン
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当然のことながら、3クラスの瑠音のチームは決勝まで勝ち進んだ。


勿論、相手は瑠衣率いる三年生だ。
文武両道、生徒会長である真鍋省吾、他、元バスケ部員を集めたハイチームだ。
私達は、女子のバレーボールチームが準決勝まで進むのを応援し、丁度お昼になったのでサクラとカフェテリアでランチを取っていた。
そこに賑やかな一団がやって来たと思ったら、まだ対戦していない瑠音と瑠衣のチームの面子が顔を揃えて、仲良くランチを食べに入って来た。
その横では亜里沙や取り巻きの女の子達が、にこやかに笑顔を振りまいている。


「女子のバレーどうだった?」
拓人がトレイを持って、私達のテーブルに来て座った。
「残念だけど準決勝で負けちゃったの、残るはあなたたちのバスケチームだけ」
サクラは残念そうに言った。
「ごめんね、それもきっと負けるだろうから、先に謝っておくよ」
その声に、みんなが顔を上げると、にこやかに微笑む瑠衣が横に立っていて、私の前にトレイを置いた。
黄色のゼッケン、NO1を付けている。
確かバスケの試合は一番から三番は、審判のサインと間違いやすいから、普通は使わない筈だが・・・、この兄弟は・・・と、苦笑する私。
拓人は隣の瑠衣を横目で見ながら、眉間に皺を寄せて笑った。
「何で帰ってきたんですか?今年は楽勝だと思ってたのに」
拓人が笑って言う。
「君らに勝つためさ、」
「やってらんない」
拓人は吹き出し、瑠衣は微笑んでいる。
そこへ瑠音がトレイを持ってやって来て、瑠衣の隣に腰掛けた。
瑠音が私達と同じテーブルに着くなんてことは始めてだったので、私は勿論、サクラも目を丸くして驚いている。
「大人気ないにも程があるよ、」
そんな私達の戸惑いなど、欠片も気付かずに瑠音が文句を言う。
「瑠音には負けられないからね、特に今回は」
瑠衣がそう言って私を見たので、みんなの視線が私に集まった。
そうする間に、翠や亜里沙、省吾という煌びやかな集団が近くに座り始めて、辺りは独特な雰囲気が漂った。
今まで、あり得なかったし・・・、サクラを見たら”何ごと?”って顔して、私に疑問符を投げかけていた。
笑いながら、私は肩を賺す。
「このガキがさ、由妃に無理難題を押しつけてくるから、僕はその尻ぬぐいに奔走しているのさ」
「無理難題って?」
瑠音の隣に座った亜里沙が尋ねた。
「・・・君は知らない方がいい・・・」
そう言って、瑠衣は笑った。
瑠音はゴムを口に咥えて、落ちてきた前髪を纏め直そうとしている。
その時、私と目が合った。


そんな薄い瞳をしていたっけ・・・・、


ゾクッとするほど綺麗な顔をしている。


そして、心を見透かすような鋭い眼差しに、少し戸惑う私がいた。


「僕が勝ったら、逃げも隠れもできないよ由妃」


「何の話?」
亜里沙は不振気に瑠音を見たが、彼はそれに答えず私を真っ直ぐ見ていた。


瑠音は本気だ・・・。
私の胸がドクンと鳴った。


「我が弟ながら、その愚かさが愛おしいよ」
瑠衣はクスクス笑って、フォークを手にした。
すると、それが合図のようにみんな食べ始め、テーブルは賑やかに笑い声が零れた。




体育館に戻る途中、横に並んで歩いていた瑠衣が耳元で囁いた。
「ホントに僕、勝っちゃっていいのかな?」
「どういう意味?」
私は、顔を近づけて静かに笑った。
「どうも君らを見ていると、勝たない方が良いのかと思ったりして」
瑠衣はにこりと微笑んで、数歩後ろを歩いてくる瑠音を振り返って言った。
私も何気なく振り向いたら、一瞬、瑠音と目が合った。
「とんでも無いです、省吾さんから聞いてないんですか?今まで瑠音が私にした悪行の数々・・・、瑠衣が勝ってくれないと、平穏な学園生活送れませんから、応援しますので、ぜひ瑠音を負かして下さい」
「ま、どっちにしろ僕らは勝つけどね、あの小憎たらしい瑠音の悔しがる顔を見たいんだ」
「同感!」
私達は顔を寄せ、笑い合った。
渡り廊下を抜けて体育館に入って行くと、選手を見つけたそれぞれの応援団が歓声を上げた。
午後の試合はこの第一体育館のバスケと、第二体育館のバレーボール二試合のみだったが、ダントツ人気のバスケの試合には大勢の生徒が押しかけて、観覧席は超満員だった。
私とサクラは亜里沙達とは別れて、3クラスの人が多い東側の観覧席に目をやると、歩美が手招きをしてくれていたので、歩いて行き確保してくれていた席に二人は腰掛けた。
「ありがとう」
私は歩美に礼を言った。
「絶対、来るだろうと思ってたから」
会場はまだ試合が始まっていないにも拘わらず、もの凄い熱気でざわめいていた。
所々で、奇声が上がる。
「私、ちゃんとあなたにお礼言って無かったわ」
「え?」
歩美は振り向いて、私を見た。
「あなたは勇気があるわ、いつも助けられてばかり・・・、ありがとう」
「由妃さんこそ何いうの、私はあなたに勇気を分けてもらっているのよ、ひとりで頑張って来たじゃない、私は何も出来なくて・・・」
「とんでもない、あなたにはとても感謝しているの」
「私こそ・・・」
と、言いかけて、話がエンドレスになりそうな予感に、顔を見合わせて私達は笑った。
「とにかく、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
その時、先生が試合開始の合図をした。
ジャンパーはどうやら、瑠音と瑠衣、甲乙付けがたい麗しの人選だ。
二人が歩み寄る動作をしただけで、女の子達の奇声が上がる。
遠くから見ると、まるで双子のような二人が、コートの真ん中で微笑みながら向かい合わせに立っている。
彼女達にすれば、それだけでも必見の見物なんだろう、華麗な兄弟対決は今年が最後だ。


そして、次の瞬間ボールが上空に投げられた。


タップしたのは瑠音の方で、悔しがる瑠衣に指で挑発している。
ボールはコウのバウンドパスをカットした、省吾が投げたスローパスを瑠衣が受け取り、ランニングシュートで鮮やかに決めてあっと言う間に得点を入れた。
今度は瑠衣が、瑠音を挑発している。
「すごい・・・瑠衣、」
思わず声が洩れた・・・。
「中学までは、彼バスケやってたからね」
しかし、瑠音も負けてはおらず、得点されたら取り返す、均衡した試合が続いていた。
こんなにも一生懸命な瑠音は見たこと無かったし、リズムを奏でるような軽やかな足取りは、普段の無気力そうな瑠音と比べたら、不思議なことに楽しんでいるかのように見えた・・・。




そして、あっと言う間に、最初のインターバルになった。
みんな額から流れる汗をタオルで拭っている。
いつもの、おちゃらけムードの欠片も無い瑠音は、真剣な顔して翠や拓人と話し込んでいた。
きっと作戦を考えているんだろう。
それに比べて少しばかりベンチが明るい上級生チームは、談笑しながら時折笑顔が見られた。


二分の休憩の後、再び試合が始まる。
バックボードに当ったボールを奪った拓人が、スローパスで瑠音に渡すと、それを素速くスリーポイントラインの外側から決めると、得点が同点になって3クラスが湧いた。
瑠衣が笑って、頭を横に振る。
しかし、まだまだ試合は続行中で、瑠音は真剣な顔してバスケに専念している。
きっと頭の中には、亜里沙の事や、私の事、あらゆる雑念が払われていて、今、やるべき事で一杯なのだろうと思うような、見たことのない真面目な顔をしていた。
そして私は、フックシュートをする彼の指先や、汗が吹き出ている横顔や、軽快な身のこなし、一挙一同に魅入られていた。
まずい・・・。


瑠音から目が離せない・・・。


試合は第四クォーター、残り一分を切っていた。


同点だったが、味方からチェストパスでボールを貰った瑠衣は、その時、微笑んで瑠音を見た。


一瞬、時間が止まる。


そして次の瞬間、ボールは瑠衣の手から綺麗な弧を描いて、リングへ向かって投げられた。











                      
                        







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