Citron  シトロン
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23




あの後、私はサクラのバスケット・チームを応援しに行くも、瑠音の言葉が頭で不穏に渦巻いていて、気のない応援を繰り返す後、三組はあっさり負けてしまった。
サクラには気の毒だったが、今日は決勝でもないのに拘わらず、男子チームが順調に勝ち進んでいるのか気になって、何事も上の空だった。


そして試合の終わったサクラと一緒に、拓人の応援と称して見に行ったバスケットのコートで、華麗なシュートを決める瑠音を見た時、私は”マズイ”と思った。


恰好良すぎる!


瑠音は長い前髪が邪魔なのか、後ろで束ねて額を出しているが、それが何とも可愛らしいし、美麗なのだ。
その、隣のコートには兄の瑠衣がいて、どちらも順調に勝ち進んでいるようだった。
だからきっと又”あの”話をくどくど言われるんじゃないかと危惧した私は、ホームルームが終わると猛ダッシュしてメトロへと向かった。
「ちょっと待ってよ由妃!どうしてそんなに急いでるの?」
慌てて後ろを着いて来るサクラが言った。
「だって、又、車で帰ろうなんて誘われたら大変でしょ?」
「どうしてよ、あの兄弟に囲まれて通学なんて、誰もが羨む話しなのに由妃は変わってる!」
「瑠衣はまだしも、瑠音は少し変だから・・・」
「そうかな、私に言わせれば由妃が変よ!」
私は笑いながら、サクラに舌打ちした。




帰宅すると、私は早めの夕食を厨房で取り、東屋に本とブランケットを持って出かけた。
部屋にいたら、何時、瑠音が入って来るか気が気では無かったからだ。
まだ外は明るく、十分に本が読めた。
風が心地よい、初夏の夕暮れだ。
「ここに居たんだ」
顔を上げると、穏やかに微笑む瑠衣がいた。
「瑠衣・・・」
「どうして君はみんなと一緒に食事を取らないの?いつも厨房で食べているんだって?」
「瑠音と顔を合わせたくないからです」
瑠衣は意表をつかれたのか、目を丸くしたかと思うと笑い出した。
そして隣に腰掛けても、まだ笑っていた。
「君ら、面白いね」
「君ら?」
「瑠音と君」
「一緒にしないでください、あんなイカレたヤツと」
私は冷たく言った。
「誰がイカレてるって?」
手に三つのレモネードのグラスを持って瑠音が現われた。
それぞれの前に配り終わると、私達の前の椅子に腰掛けた。
「だって、ほんとうの事じゃない、頭おかしいんじゃない?」
「何の話し?」
瑠衣が尋ねた。
「由妃がね、自分は僕らの妹だって言うんだ」
そっちかい?
「え?」
流石に瑠衣は驚いている。
「妹って?・・・」
「それは・・・」
私が口籠もると、瑠音が続けた。
「十七年前の春に、由妃の母親がここに来たんだってさ、そして親父と火遊びした結果由妃が出来たと言うんだ、本当だと思う?」
「その”妹”にエッチしようって、瑠音は誘ってるのよ、」
瑠衣はレモネードを吹き出しそうになった。
「何だって?」
「変態よ、コイツ!」
「瑠音!」
何処吹く風で、瑠音はレモネードを口にしている。
「・・・妹?・・・でも、それはあり得ないかな・・・由妃には悪いけど」
「どういう事?」
素速く、瑠音が尋ねた。
瑠衣は中学まで、瑠音は小学四年くらいまでアメリカに住んでいた帰国子女だとは聞いていたが、話にそろそろボロが出てきそうで、嫌な予感がしてきた・・・。
「確かおまえが生まれる年は、会社が丁度忙しくなって来た時期で、親父は日本に帰ってくる時間も、暇も無かった筈だし、四月にお前が生まれるんだよ、いくら親父だって一歳の僕と身重の妻をアメリカに残して帰る筈がない・・・、お婆さまに聞いてみたら?」
瑠音が真剣な顔をして私を見た。
私はまんまと騙された瑠音の顔を見て、吹き出しそうになるのを我慢していた。
「由妃・・・」
瑠音の喉の奥から出る低音が、不気味に私の名を呼ぶ。
唇がおかしさに歪むのを手で押さえた時、瑠音の怒りが爆発した。
「由妃、てめーっ!!!」
立ち上がって私に掴みかかろうとしている瑠音を、笑いながら瑠衣が制してくれる。
ハハハハッと、可笑しくて高笑いする。
それにより、瑠音の瞳が猫のようにいっそう細くなった。
怒っている証拠だ。
「嘘ついたな、」
「だってーーーー、本当に信じると思わなかったのよ、瑠音って意外と単純なんだもの」
「おまえ!ぶっ飛ばしてやる」
ぎゃーっと叫びながら、私は瑠音の手を避けようと、瑠衣の後ろに必死で身を隠す。
「あの写真のパパは本当のパパよ、四月には結婚が決まっていて、独身最後の思い出にって、母と祖父は日本に旅行に来たの、確か両親の結婚式にはアメリカにいたあなたのお父様と、真紀子さんが一緒に来て下さったって母が言ってたわ、ちなみに私の誕生日は九月、母が日本に来たときには既にお腹にいたってわけ」
クスリと笑った私を、頭に手を当てて瑠音は睨んでいた。
「パスポートを見るべきだったな、瑠音」
瑠衣が可笑しそうに笑う。
「瑠音の事だから、本気でDNA鑑定されたらどうしようとは思ったけど、」
「しようと思って電話した!」
「えーーっ!!!」
今度は、私と瑠衣が驚く番だった。
真面目な顔して、瑠音は私を見ていた。
そこまでして真実が知りたい理由は、家族の混乱を防ぐため・・・?
それとも・・・。
でも、どっちにしろ真剣に悩んだとしたら、少し後ろめたい・・・。
「でも、未成年は親の同意書がいるって言うんで止めたんだ、」
「マジ?」
瑠衣が驚いている。
「それでも妹と思いながらも”禁断の果実を囓る”賭けをしてきたのはあなたよ、瑠音は絶対変態よ!」
「”兄と妹”・・・少し、背徳の匂いが興奮させるんだよな・・・」
ニヤリと笑って、いつもの瑠音様に復活気味である・・・。
「ヘンタイ!!!」
私は叫び、瑠衣は呆れたように頭を振った。
「節操の無いヤツ・・・、君が本当の妹で無くて良かったよ」
「ふん、おかしいとは思っていたよ、由妃が僕のこと好きなの知ってたからね」
「あなたが、私のことを好きなんでしょ?」
「好きだよ」
あっさり認めるな!
頭が変になりそう。
何処までが冗談で、何処までが本気かわからない、この取り留めのない会話。
「で、賭けの内容は?」
瑠衣が尋ねる。
「僕が優勝したら”禁断の果実を囓る”、負けたら今後一切由妃に手を出さない、平穏な学生生活が送れる保証をするって、」
「無理じゃないの?」
クスリと瑠衣が笑った。
「どっちが?」
「両方」
「言ってろ」
「じゃ、僕は禁断では無くなったけど、果実を囓られないよう優勝しなきゃいけないんだね」
瑠衣は可笑しそうに私を見た。
「禁断だから燃えてただけであって、禁断で無くなったから、賭けは成立しなくなっちゃったのかも、それに”背徳”の匂いも無くなったしね、」
「甘いよ、由妃」
瑠音は椅子に深く腰掛け足を投げ出しながら、指をお腹の辺りで組んで意地悪そうに微笑んだ。
「甘いのはお前の方だよ瑠音、僕たちに勝てると思ってるのか?そんなとんでもない賭けをして由妃を困らせた罰だ、後悔するんだな可愛い弟よ」


瑠衣は、瞳を煌めかせて微笑んだ。









                        
                        







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