Citron  シトロン
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19




「驚いちゃったわ、拓人があの人達とあんなに仲良かったなんて」
私とサクラ、そしてテーブルを挟んで拓人と一緒に、カフェテリアでランチを食べていた。
苦笑しながら、拓人はパスタを頬張っている。
「仲が良いってわけでも無いけど・・・」
「そうかなぁ、私の目にはそうは見えなかったわ」
「ま、拓人は教室でも学校でも、あまり誰とも話ししないしね、」
サクラが笑った。
「そうね、いつも寝てるかゲームしてるか、どっちかよ」
私がそう言うと、拓人も笑った。
最近では、こんな風に三人で食事することが多くなっていた。
で、食事が終わると拓人は昼寝に中庭へ、私達は飲み物を買うと、お喋りしながらここで飲むか、教室に戻って飲むか、最近の行動パターンになりつつある。
「別に特別仲が良いわけでも無いし、悪いわけでもないし、ガキの頃から知ってるから手の内は見えてるんだよ、」
「小学校からみんな一緒なの、ここは多いよ、ずっと持ち上がって来るから。小、中は毎年クラス替えがあるけど、高校は三年間同じクラスで、取ってる授業によって違うクラスの子と教室が一緒になったりするの、それは向こう(アメリカ)でも一緒なんじゃない?」
「そうね、学校にもよるけどね。向こうはどっちにしろ敷地が広大だから移動が大変なの。休憩時間なんて移動で終わっちゃいそうよ」
「いいなぁ、アメリカの学校って、何だかワクワクするわ、とても楽しそうじゃない?」
「あのね、確かにイジメなんて殆ど無いけど、宿題は山のようにあるし、現実は日々勉強に追われてるって感じよ、サクラはTVドラマの見過ぎなんじゃない?」
私は、夢見心地のサクラを見て笑った。
「でも、朝のクラスの様子じゃ、去年の球技大会はとても面白かったみたいね、バスケの話題であんなに盛り上がるなんて」
「最高だったわよ!真鍋先輩のチームには、去年までは瑠音のお兄さん、瑠衣先輩がいてね、他にもバスケに精通した人が多くて最強と噂されていたのよ、でも、私達のクラスは一年の割には、彼らと同等のもの凄い死闘をしたんだけど、最後の最後で瑠衣先輩にフリースローで得点決められちゃって負けたの、そりゃぁ面白かったわよ、イケメン勢揃いだし、大盛り上がりだったの!」
サクラは興奮したように、思い出して言った。
「へえ、だいたい瑠音がスポーツすること事態、信じられないんだけど・・・」
私がそう言うと、サクラが訂正した。
「何言ってるの、瑠音はクラブにこそ入ってないけど、スポーツ万能で、ほんとうはどのクラブも瑠音が欲しいらしいの、更に翠も、拓人も右に同じくだけどね」
「拓人がスポーツ万能なのは分かるけど、瑠音や翠は意外だったわ、汗なんて掻くこと事態嫌いなのかと思っていた」
すると、拓人が顔を上げて話しに加わった。
「うちはスポーツジムも経営しているだろう?そこにあいつら通ってるんだぜ、」
「ええー?」
驚いた。
「意外だなぁ・・・ただのお飾りに過ぎない崇高な王子様かと思っていたわ」
「群れたり、みんなと一緒する建設的な事が嫌いなだけで、身体を動かす事は好きみたいだよ、プールに入ると1q、2q、軽く泳いでるし・・・」
すごっ・・・。
それに瑠音がプールで泳ぐ?
想像出来ない!
いや、待て、私はアイツに対してどんなイメージを持っていたんだろう・・・。
か弱い美少年・・・、いや、少し違う・・・。
今は、機敏で喧嘩強そうで・・・、うーん、ヤツは計り知れない・・・。
「だって翠はモデルやってるでしょう?体型維持もあるんじゃない?」
「えーーっ、モデル?」
初耳だ、私は更に驚いた。
「え?知らなかった?時々、ファッション雑誌の表紙を飾っているし、人気あるみたいだよ。何でもお姉さんがファッション関係の仕事に就いていて、その薦めで始めたらしいの、勿論、瑠音にも誘いがあったんだけど、彼は断ったって聞いてるわ」
る・・・、瑠音がモデル?
あり得るかも・・・、背は高いし、何と言っても、あのカリスマ的意地悪な微笑みを持つ美貌・・・。
「何で断ったの?」
「わかんない、瑠音のことだから興味無かったんじゃない?上限無制限のカード持ってるからお金なんて困ってないし・・・、ま、それは翠も同じだけどね」
「家柄も頭も良い、顔も良い、その上スポーツ万能で、性格さえ良ければ無敵じゃない」
私がそう言うと、ふたりは笑った。
「今頃分かったの?だから誰もが敵に回したくないのよ、だから全校生徒、彼の一言で右向けば右、左を向けば左向く、その理由が分かったでしょう?」
改めて瑠音の存在の大きさを知った。
考えてみると、恐ろしく厄介なヤツだ・・・。
「だけど、更に上を行くのは、同じ条件、同じ顔、性格二重丸のお兄さんの瑠衣先輩なの、瑠音が悪なら瑠衣先輩は善、学園でも人気は二分してたわ」
「凄い・・・、会って見たかったなぁ」
「彼がいたらきっと、由妃へのイジメは無かったわ、だって省吾先輩とは親友同士だし、ある意味、今は瑠音の天下なの」
なるほど・・・。
猛獣は解き放たれているのか・・・。


このテーブルの先、つい、目が瑠音を追ってしまう。
賑やかな一画に陣取っている、瑠音の一挙一同・・・。
遠くからでも一目瞭然の美男子振りに、辺りが華やいで見える。


その時、瑠音の視線がふっと泳いでこちらを向いた。


目が合うと、私の心臓がドクンと波打った・・・。


散々、痛めつけられたのに、あまりに突然で急な解放に、なぜか戸惑う自分に気が付いた・・・。


そして・・・、その理由を知るのが怖いのはなぜ?






あれから、瑠音の無視は続いた・・・。
教室では勿論、隣に座っていながら、声を掛けてくることも視線を合わす事も無く、家に帰って来てからも、私を避けているのか彼の顔を殆ど見掛ける事は無かった。
今までは鬱陶しいくらい、暇さえあれば近寄って来ていたが、肩透かしをくらうぐらい静かで、家に居るのかさえ定かで無いほど大人しかった。
確かに、これが”興味を失った”結果だろうと思うと、何だか少し寂しいような、浮かない気分だった。
ま、これでいいのだろう・・・、瑠音に深入りは禁物だ、私はそう自分に言い聞かせた・・・。




帰宅していつものように、厨房でレモネードを注いで貰って、二階に上がろうとした階段の途中で、書斎から出てきた真紀子さんに呼び止められた。
「由妃さん、悪いけど瑠音をここに呼んで貰えないかしら、部屋に居ると思うけど」
「はい」
そう返事を返して、階段を登り廊下に立つが、しーんとして物音ひとつしない。
静かすぎる廊下は、人の気配が全く無い。
瑠音の部屋のドアをノックしても返事が無く、私は居ないのかと思ってノブを回した。


すると、中にはベッドの縁に腰掛けた瑠音の頬を、亜里沙が両手で挟んでキスをしていた。



ハッ、とした。
その執拗なキスは延々と続くかと思われた。



瑠音の手は彼女の腰に回され、ふたりともシャツのボタンが外れている。



そしてふたりは、熱を帯びた目をして、ゆっくりと侵入者である私の方を見た。



今まで、もっと過激な場面に遭遇したことはあったが、こんなにもドキドキしたのは始めてだった。
心臓の音が彼らに聞こえるのでは無いかと思うくらい、激しく鼓動していた・・・。
そして、何故だか、かなり私は動揺していた。
「あ・・・、ごめん・・・」
亜里沙は瑠音の頭を自分の胸にかき抱き、勝ち誇ったように笑っていたが、彼は真顔のままじっと私を見ていた。
「ノックしたのよ?居ないかと思って・・・、真紀子さんが瑠音を呼んでるの、伝えたわよ」
そう告げて足早に部屋を去ろうとした時、私の背中越しに亜里沙が言った。
「瑠音は私のものだから、」
私は振り向いたが、何も言わなかった。
亜里沙の陰湿で、嘲りを含んだ視線に対抗しようとは思わなかったし、彼らの間に入り込もうなんて気も毛頭無かった・・・、ただ、瑠音が私を無視し続けるのなら、それはそれでいいだろうと思った。
何より私は、彼を”理解しようとする”事に疲れていたからだ・・・。


瑠音はもう私を見てはいなかった・・・、亜里沙の首筋に優しくキスを繰り返している。


ふたりの世界から締め出された私は、自分でも思った以上の消沈を抱えて、そっと部屋を後にした・・・・。




















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