Citron  シトロン
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17




  今度は何を企んでいるのか知らないが、私の意表を突いた事は確かだった。


『由妃、僕の彼女になる?』


その言葉が、映画のエンドロールのように頭から離れなかった。
私を瑠音のハーレム大国の一員にしようなんて、マジで考えているとしたら・・・あり得ない!
絶対的地位の亜里沙が后で、以下妾・・・、最低!


しかし、言った本人は今日も隣の席で賺した顔して座っている。


実際、瑠音は亜里沙意外にも女の子がいると、噂を聞いたことがある・・・、ゲームだろうが本気だろうが、瑠音の口から発せられる言葉に意味は無く、その口車に乗ってしまうと歩美のように痛い目に合う・・・、いえ、私も似たようなものだ・・・。
そう、少し弱気になると付け入るように入り込んでくる、あの天使の笑顔が曲者なのだ・・・、私、元気にならなくちゃ・・・。






お昼を済ませると昼寝中の拓人を残して、私とサクラが教室に戻って来たら、何やら廊下が騒がしかった。
そこにはいつものように瑠音や亜里沙、そして、その取り巻き連中の他に、コウとシンがいて、歩美を壁際に追いつめて何やら凄んでいる。
「おまえだろう、この前の由妃の件を教師に言いつけたヤツって、」
「カンニングの事?それとも、体育館の件?」
「どっちもだよ、歩美、学級委員ぶりやがって、」
「彼女は何も悪い事はしていないわ、」
「何だと、テメェ」
コウが歩美の胸ぐらを掴んだ。
「又、痛い目にあいたいのかよ、歩美」
歩美の表情が、まるで蛇に捕まった野ウサギのように、苦痛で歪んでいる。
まったく何て奴らなの、女の子相手に許せない!
私はすぐ側にあったモップを掴むと、サクラの制止する声に耳を貸さず、コウに近寄ると、歩美のシャツを掴んだ手を目掛けて振り下ろした。
バシッと、鈍い音がした。
「痛ってーーーっ、」
叫び声と同時に、コウが歩美の胸元から手を離した。
そして、その場にいたみんなの強ばった視線が私に集まる。
勿論、もの凄い形相でコウは私を睨んでいた。
「てめぇ、何しやがる!」
「女の子相手に、許しがたい行為だわ、」
「おまえ、まだ懲りて無いのかよ由妃、泣かせるぞ、」
「やってみなさいよ、あんた達の底意地の悪い、低脳さにはもう我慢できない、」
「何だとー!」
コウが私の持っていたモップを取り上げようと近寄って来たが、私は捕まれる前に身を翻すと、そのコウの胸元をモップでひと突きした。
すると、急所に入ったのか蹌踉めいてシンに抱き抱えられている。
「てめぇ!」
今度はシンが私に向かって来た。
昔習った剣道の要領で、隙を突いて脇に一発くらわし、留めに素速く向こうずねを叩いた、あっと言う間の出来事に、シンは驚いたような顔をして”マジかよ”と呟く。
「私、そんなに運動神経悪く無いと思うわよ、いらっしゃいよ、モップは女の子だと言うことで、ハンデとして使わせて貰うわ、さあ、どうぞ。相手してやるわよ、」
怒りに燃えてる私は、その場に仁王立ちしていた。
それから及び腰になった二人を追いかけ、教室中をモップを持って暴れ回ると、ガタガタガタと机が揺れ、椅子はひっくり返り、級友達は被害を受けないよう、殆どの者は廊下に出て、窓から面白がって笑って見ている。
モップが空中でヒュンヒュン鳴って、時折、奴らの背中に当った。
「痛ってー、由妃、こらぁ!」
と、コウが凄むも、目の前でモップの柄をぶんぶん振り回していたので、彼らも立ち止まる事無く逃げ回っている。
「今日と言う今日は、絶対、許さないんだから!」
「由妃がキレてるよ、」
変に冷静な翠の声が耳に入って来たが、私の頭には、コウとシンを仕留めることしか無かった。
「待ちなさい!」
モップを振りかざしながらコウを追いかけ、黒板の前を通り過ぎようとした時、いきなり後ろからモップの柄を捕まれ、私は腕の自由を失った。
振り向くと、瑠音がそこに立っていた。
「離しなさいよ、」
「やだね、」
私が藻掻くと、反対にその柄を盾にされて、黒板に押しつけられた。
圧倒的に、身動き出来ない力が私に加わる。
「教室に誰も入れるな、」
瑠音は私を押さえつけたまま、コウとシンに命令をした。
すると、あっと言う間に教室にまだ残っていた数人が出て行くと、窓という窓はピシャリと閉じられた。


広い閑散とした教室は、瑠音と私だけになる・・・。


「な、何よ!・・・」
私は瑠音を睨んでいた。
「暴れ過ぎだよ、由妃、」
瑠音はクスリと笑って、自分の後ろを見るよう顎で指図した。
机も椅子もひっくり返り、教科書が散乱していた。
うーん、確かに私も悪い・・・、瑠音に諭されるとは・・・、少しだけクールダウンした・・・。
「離して!」
「嫌だと言ったろう?」
「どうする気?」
「どうしようかな?由妃が僕の足下に跪いたら離してやるよ」
微笑んでいる。
「何度も何度も、あり得ない話をするのはよして、」
「じゃ、僕の彼女になる話はどう?」
「もっと、あり得ないし、どうしてそんなこと言うのか理解出来ないわ」
「僕は由妃が好きだし、由妃も僕が好きだし、丁度いいじゃないか」
完全に、瑠音ワールドだ。
誰が瑠音を好きだって!!!
身体が自由になったら、真っ先に瑠音に一発くらわせてやる。
「あなたには亜里沙がいるでしょう?」
「だから?」
そう真顔で聞かれても・・・。
瑠音ハーレムの一員になれってか?
「まあいい、何のゲームのつもりか知らないけれど・・・」
と、言いかけた所で瑠音の顔が近づいて来た。
「証明しようか?由妃が僕の事を好きだと言う、君は僕を拒めない・・・」
自信満々に微笑んでいる。
く、悔しい!
鼻先が掠める。
まずい!





「は、話があるの!!!」
「何?」
瑠音の形の良い唇が、触れる寸前で止まった。
「およそ十七年前、母は祖父と、今の私のように暫く、あなたのお屋敷で過ごしたんだって・・・」
「それが?」
どうでもよさそうに尋ねる。
「アメリカに帰ってきて私を生んだの、」
「え?」
流石、頭の良い瑠音だ、回転が速い!
その表情は既に勘定が出来ていて、事実かどうかを把握すべきか悩んでいるようだった。
こんなに驚いた、瑠音の顔を見たのは始めてだ。
「何が言いたいんだ・・・・」


「禁断の果実を囓る勇気がある?・・・・お兄様!」


驚愕の表情をしている瑠音に、私は微笑みながら止めを刺した。
「あなたは四月生まれでしょう?私は十二月だからあなたが、お兄様になるのよ、」


蒼白な瑠音に向かって、私は微笑んだ。


瑠音が一歩下がって、身体が急に自由になり、私は笑いが止まらなかった。


モップを戻す為に廊下に出たときでさえ、大笑いしていたので、みんなは私が気がふれたのだろうかと思うような顔をして、唖然として見ていた・・・。


















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